第136話 僕達はきっとこれからもっと…
「来たわね、カルア」
ベルベルさんのお店の奥の部屋。
今日はここに集合って言われて時間通りに来たんだけど・・・
ええっと・・・どうして母さんがいるの?
って言うか、どうして母さんしかいないの?
「ふっふっふ、昨日の『未来視』でね、カルアとクアルトが並んで『おいでおいで』してたのよ。いやもうビックリしたわよ。だって二人一緒に死んじゃって私を死後の世界に呼ぼうとするのかと思ったんだもの。でも後ずさる私を見たクアルトが『大丈夫、全部終わったんだ』って私を呼び止めてね、それで『ああそうか、もうカルアに会っても大丈夫なんだ』って分かったのよ。そしたらもう突き進むしかないじゃない。急いでお母様の所に突撃して終息宣言して、そしたら丁度良いタイミングでモリス君からお祖母様に『カルアの事で全員集合』って連絡が入って、それで・・・」
言葉を止めた母さん・・・
そのまま僕に駆け寄って、それから思いきりギュって――
「最初は私とカルア二人きりにしてくれるって。他のみんなにはもう少し後の時間を伝えるからって、それまでふたりでお話出来るようにしてくれたの。だからねカルア・・・母さんに聞かせて。これまでのあなたの事。どんな事を見て、どんな事をして、どんな風に感じて、誰と出会って、どんな関係を築いて、それからそれから、どんな事が嬉しくて楽しくて、どんな事が悲しくて辛くて、どんなご飯が美味しくって、どんな歌が好きになって、それに・・・どんな時にモリス君にイラっと来たのかって!!」
母さん・・・
ここでモリスさんをオチにするとか、相変わらず過ぎない・・・?
でも・・・
「うん、聞いてよ母さん。色々・・・本当に色々あったんだ」
そこは敢えてスルーして。
それから僕は母さんにいろんな話をした。
上手く説明できなかったり、同じ事を何度か言っちゃったような気もするけど、母さんは最初から最後まで嬉しそうに楽しそうに聞いてくれた。
そして最後は父さんとの再会の話になって、そして・・・
「そうだったのね・・・じゃあさカルア、今度母さんとふたりでクアルトに会いに行こう。そして眠ってるあのひとにも私達のこれまでを話してあげて、そして綺麗なお花を手向けて『私達ふたり幸せに過ごすから、どうか安らかに眠ってね』って声を――」
「ちょっ母さん言い方! 言ってる内容はまったく正しいけど、でも言い方!! 父さんは本当に眠ってるだけだから。死んでないから!!」
すると母さんは嬉しそうに僕を見て、
「カルア、ナイスツッコミよ。成長したわね」
親指を立てたんだ。
まったくもう・・・
「さて集合時間になったけど、あんたたち話はもう終わったかい?」
部屋に入ってきたベルベルさんの質問に母さんは、
「ええお母様、たった今カルアの成長を肌で感じたところよ」
「ツッコミで成長を計らないでよ・・・」
もう、何だかなあ・・・
「そうかいそうかい、じゃあもういいかね。・・・みんなもういいよ、入っといで」
ベルベルさんの呼び掛けで、みんな続々と部屋に入ってきた。
ああ、みんな僕達を待っててくれたんだ・・・
「皆さんすみません、気を遣ってもらっちゃって・・・。あんな狭い店で待機してもらってたんですね」
「っ!? 『あんな狭い店』は余計だよ! カルア、あんたこそ言葉に気を遣いな!」
「ああっ、すみませんベルベルさん。そんなつもりじゃ――」
「じゃあ一体どんなつもりだよ! ってまあいいや。とりあえず全員席について、それからカルアの話を聞こうじゃないか。一度リアベルに話した事で頭の中が整理できたろうから、今度は順序だてて漏れなく話すんだよ」
「お母様・・・まさかそんなつもりで先に私に・・・」
どこからの事を話したらいいのかベルベルさんに訊いてみたら、
「そうだね、せっかく全員揃ったんだから、夏休みに入ったところからにしようかね」
って事で、まずはドワーフの里の話から。
「――って感じで帰ってきたんです」
「まったく、あん時は終始胆が冷えっぱなしじゃったぞ。ヒベアの群れはあっちゅうまに殲滅するわ、里の肉屋からは包丁を取り上げるわ、里一番の老舗鍛冶師を魔剣錬成師に鞍替えさせるわ、廃坑から有り得ん量のミスリルを採掘するわ・・・たった2日で里の常識とワシの心の安寧をぶち壊して行きおったからな」
「「「「「はぁ・・・・・・」」」」」
「・・・ったく、何度聞いても酷い話だよ。カルアあんたドワーフに何か恨みでもあるのかい? ・・・まあいいや、次」
知り合いのドワーフってミッチェルさんとかマイケルさんとかだよ?
お世話になりっぱなしなのに恨みなんてある訳ないじゃん。
・・・って事で、次はエルフの里の話っと。
「――で僕、何だかエルフの里に直接転移できるようになったみたいです」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「ラーバル、他にそんな事できる奴って――」
「いる訳無いじゃないですか。分かってるくせに・・・」
「いやまあそうだけどさ」
「ねえオートカ先輩、思ったんですけど・・・今度一人乗りの移動用魔道具に挑戦してみません? 話に出てきた『白い木馬』を応用して」
「それは面白そうですねミレアさん。ええ、是非やってみましょう」
「・・・はぁ、馬車に代わる移動用魔道具って、僕の
「ふん、じゃあ次はその『船』の話でも聞こうかね。ピノとふたりきりで船旅に行ってきたんだって?」
「ななななな何よそれーーーーーっ!!」
大きな叫び声を上げて部屋に飛び込んで来たのは、
「あれ、アーシュ! 久し振りー、元気してた?」
相変わらずなアーシュ。
「当たり前じゃない! ちょっとあんたに会わなかったくらいで元気がなくなる訳ないでしょ! っていうか何あたしの渾身の叫びをスルーしてるのよ!」
「いや別にスルーとかした訳じゃ・・・って言うかさ、別に僕と会わないのと元気があるないって関係なくない?」
「え? あ・・・ああっ!? ああわわわわ・・・」
何だか突然アワアワしだしたアーシュを宥めようと一歩踏み出したところで、後ろから誰かにガシッと肩を掴まれた。
「やめときなカルア。ったく盛大に自爆したアーシュに止めまで刺す気かい? あんたも大概容赦ないね・・・といってもいつもの無自覚なんだろうけどさ。ああ、あたしの可愛いアーシュが不憫すぎる・・・」
アーシュが落ち着くまで暫し歓談――じゃなくって雑談・・・
暫くしてアーシュが落ち着いたのを見たベルベルさんが、
「それでアーシュ、あんた一体何しに来たんだい?」
「え? あ。えーと、お母様に聞いたの。カルアのアレが片付いて、チーム全員でお祖母様のお店に集まってるって。おめでとうカルア、よかったわね」
「うん、ありがとうアーシュ」
もしかしてそれを言いに来てくれたの?
「でもね、関係者って言うならなぜパーティメンバーのあたし達が呼ばれないわけ!? あんたとお母さんの再会の場にはあたし達だっていたのに!」
「あ・・・」
そうだよ、僕の事情を知ってるのはチームのみんなだけじゃないじゃないか。
「ああそう言えばそうだったね、これはあたしのうっかりだよ。アーシュの言う通り、あの子達だってこの場にいるべきだ。よしアーシュ、今からカルアとふたりで残りのメンバーをここへと連れてきな。いいかい、10分で連れ帰ってくるんだよ。ほら、行ってきな!」
「はいお祖母様。さあ行くわよカルア、まずはフタツメ、ノルトのところよ!」
「あっ、うん!」
そして僕とアーシュはフタツメ、ミツツメ、ヨツツメと順に廻り、ノルト、ネッガー、ワルツを連れて戻ってきた。
みんな突然現れた僕達に驚いてたけど、アーシュの「オーディナリーダ全員緊急招集! 急いで支度しなさい!」の声で理由も聞かず一緒に来てくれたし、家族のひと達も快く送り出してくれた。
「ただいまー。みんな連れて来たわよ」
「よし、じゃあここまでの話はあたしがダイジェストで話そうかね」
そしてベルベルさんがさっきまでの僕の話をすっきり分かりやすくまとめて3人に説明し、
「じゃあカルア、海に出たところからはあんたが話すんだよ」
ってバトンタッチ。
「――それで帰りは転移で帰ってきたんです」
「それは本当に危ないところだったねえ。ピノ、よくやったよ!」
「絶対面倒な事になるって思ったから」
「えええ・・・みんな大袈裟じゃないんですか?」
「あんたはまたそんな無自覚な・・・だったらその村がどうなってるか『遠見』で視てごらんよ」
ベルベルさんに言われた通り村を『遠見』すると・・・
「あれ? 立派な服装のひとが村にたくさん・・・」
村のひと達と何か話してるみたい。ええっと音声を・・・
「カルア君、みんなも見えるように映してくれるかい」
じゃあ空中にスクリーン表示っと。
『村長よ、あれからカルア殿とピノ殿からは?』
『いえ何も・・・我々ももう一度お礼を言いたいのですが』
『うむ、そうであろうな。・・・それで今日こうして我々が来たのは、結界具の隣に銅像を設置する為なのだ』
『おお、ついに出来上がったのですか!』
『うむ、村の皆から得られた目撃証言からデザインを起こし、領主様お抱えの土魔法師達が錬成した力作である。領主様より賜ったこの村の名称とともに、子々孫々までおふたりの偉業を語り継ぐがよい。そしてもしおふたりが再びこの村を訪れた際には、すぐに領主様に連絡するのだ。おふたりには国王様より爵位を賜る手筈となっておるからな』
『かしこまりました。我ら『カルピノ村』村民一同――』
「ちょっカルア君、何でいいところで消しちゃうのさ! まだ君達の銅像を見てないってのに!」
「すみませんごめんなさい許してください。大袈裟じゃなかったです面倒な事になってました。僕が甘かったのは分かりましたからもうこれ以上は・・・」
「銅像、見たかったのに」
「すみません」
「それにあの村の名前・・・『カルピノ村』って・・・ぷぷっ」
「もう許して」
「・・・ねえワルツ、あたし今もの凄く腹立たしいんだけど」
「分かる。次は絶対『カルワルツ村』、『カルツ村』も捨て難い」
「む、だったらあたしは『カルアーシュ村』よ。うん、言葉の響きもすっごくいい感じじゃない!」
「ねえネッガー、ほんの数週間でまた随分カルア君との差が広がっちゃったと思わない?」
「ああ、その通りだ。それにどうやったらその差を埋められるのか、見当もつかん」
「だよねえ・・・」
「さて、カルアも認識の甘さを思い知ったところで次にいくよ。いよいよ決着の話だね」
「はいっ! はじまりはモリスさんからの通信でした――」
よし、気分を入れ替えて父さんとの話をしよう。
「――そして無事、父さんに手紙を渡す事が出来たんです」
「また何てツッコミどころの多い・・・」
「まずテーセンの事件の犯人を捕らえたってのはお手柄だよ。そいつの身柄はエルフの里で押さえるって事だね」
「ええ。あの男の時空間魔法はかなり強力です。恐らくエルフの里の『結界牢』でなければ捕えておく事は出来ないでしょう」
「分かったよ。それでそいつ――『最悪のワル』だっけ?」
「『サイ・アーク・ノワール』です」
「ああそうだったね。で、そいつに未来からテーセンを送ってたのがカルアの父親で、それが『手紙』の指示によるもの、と・・・カルア、その手紙、誰が書いたものなのか聞いたかい?」
「いえ、手紙については父さんもよく分かっていない感じでした」
「そうかい・・・で、今眠ってる
「あははは・・・それでその手紙だけがどんどんボロくなっていく、と」
「・・・・・・」
「まぁそれはいいよ、考えたって答えなんか出やしないだろうしね。それよりもだ・・・リアベル、あんた自分の旦那が『精霊祖』だって知ってたのかい?」
「ええ、普通に聞いてたわよ。何だかレアキャラなんでしょ。流石私の運命の相手よねぇ」
「はぁ・・・あんたがその程度の認識だったってのはよく分かったよ。だがつまり、カルアは精霊祖の父親と時空間魔法師の人間の母親の間に生まれたハイブリッドだって事かい」
「ははっ、カルア君のとんでもない魔力量や時空間魔法と錬成魔法の適性の説明がついちゃったねぇ。何たってさ、精霊祖ってのは精霊とエルフとドワーフの全ての特性を兼ね揃えた種族って事なんだろう?」
「あとそれに、受けた恩に対して過剰なくらいのお返しをしようとするところとかも、お話に出てくる精霊っぽいかもね」
「いいところに気付いたよミレア! 言われてみれば確かにそうだ! 後でカルアの取説に『倍返し注意』って書き加えとかないとね」
「そんなの作ってるの!?」
「「「「「いや必要でしょ!!」」」」」
「ええ・・・」
「さてと・・・まあ今日のところはここまでとしようかね。それでだ、リアベル」
「はい、お母様」
「あんたこれからどうする気だい?」
「どうするって・・・それはもちろんカルアと一緒に暮らすわよ?」
「そりゃあ分かってるさ。あたしが訊きたいのは『何処で』って事だよ」
「ええ、それはもちろんヒトツメの家に決まってるじゃない」
「で、カルアの夏休みが終わったら? カルアは王都で生活してるんだよ?」
「じゃあ私も一緒に王都のカルアの家に――」
「あそこはふたりで住むには狭すぎるよ」
「だったら・・・」
「リアベル、うちに戻ってくるつもりはないかい? カルアと一緒にさ」
「お母様・・・」
「まあ今すぐ決める必要はないよ。カルアの夏休みはまだしばらく残ってるからね。カルアとも話し合って、じっくり答えを出せばいいさ」
こうしてチームカルアとオーディナリーダを交えたカルア報告会は終わった。
そしていよいよ解散となったその時、
「見つけたっ!!」
突然彼らの前に転移してきた者がいた。
それは――
「セージュさん!?」
「セージュ様!?」
エルフの聖樹を司る精霊セージュ、の
「カルアさん、助けてください! エーテルちゃんが・・・空を司る精霊のエーテルちゃんが精霊界に・・・このままだと世界が!!」
「えっ、はい?」
混乱するカルアの手を取ったセージュは、
「よかった、ありがとう。じゃあ一緒に跳びますっ!」
カルアと共にその場から姿を消した。
「ええっと・・・ラーバル?」
「今のは聖樹の精霊であるセージュ様です」
「あははは・・・カルア君、連れてかれちゃったねぇ。今度は『精霊界』って・・・とんでもない想定外だよっ!!」
「カルア君・・・待ってて、すぐに追いかけるから。ロベリー、ミレア、手を貸して」
「「オッケー、ピノ様」」
「カルア君、行っちゃったね」
「ああ、まあカルアだから大丈夫だろう」
「うん。夏休みが、終われば、学校で会える」
「ったくあいつは・・・仕方ない、今日のところはオーディナリーダ解散よ。ええと・・・モリスさん、転移お願いできますか?」
「いいよー」
カルアの巻き起こす想定外に普段から慣れ親しんでいる彼らにとって、この程度は既に日常の一部である。
とりあえず大丈夫そうだと判断した彼らはあっさりと通常運行に戻り、ある者はカルアを追う準備をし、ある者は帰り支度を始めるのであった。
「カルア君、今度はどんな話を聞かせてくれるのかな。いやぁ、楽しみだなぁ」
ある日、ひとりの少年が小さなダンジョンで転送トラップを踏んだ。
そしてその少年が会得した『魔物から魔石を抜き取るスキル』はやがて汎用的な魔道具となり、魔石は人類にとってあらゆる可能性を秘めた万能の素材となった。
かくして人類は、『魔物の天敵』となったのである。
カルアの受難編 完
▽▽▽▽▽▽
カルア君の冒険はここで一区切りとなります。
これまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
無事にタイトル回収まで書き切れてほっと一安心。
といっても書けなかったエピソードはあるし、モリスとオートカとミレアの学生時代の過去編とかも書いてみたいし、それに謎の『エーテルちゃん』の話も・・・
なので一旦完結としますが、ここまでを『カルアの受難編』として再開への含みを持たせておきます。
それから皆さん、お久し振りの人も初めましての人もコメントたくさんお願いします。『アレは一体どうなった!?』とかのツッコミでもOKです。
皆さんからのコメントを読むのが、書いてて一番の楽しみだったから。
それでは皆さん、
アイ・ルビー・バック!
東束 末木
【改装中】スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました 東束 末木 @toutsuka
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