死と向き合った作品

 この物語は、主人公が自殺を図るところから始まる。そこに表れる一人の男性。彼は主人公が自殺しようとしていることに気づくと、「ゲームをしないか」、と持ち掛ける──。

 そのゲームは簡単。至ってシンプル。「出された問題に正解していく」。ただそれだけだ。
 ここで出される「問題」というのが、実に見事だった。それはとても簡単、ということだ。ひよこの足の本数、両替、現大統領……。常識的な教養のある人なら簡単すぎて、問題の裏を読んでしまう。この主人公も例外ではなかった。
 3つの問題を出した後、彼は告げる。さあ、自由にするといい。と。

 否応なしに、容易に、「死」に向かわされる。その恐ろしさと言うものをこちらも感じざるを得なかった。
 あえて「死」をじわじわと見せていくことで「死」から遠ざける。その発想に脱帽した。もちろんこの手法は、まだ心のどこかでは「生きたい」という気持ちが残っている人に対してにしか効かないとは思うが。そこは彼は分かっていたのだろう。一部の人には大統領の名前が分からないかもしれない、という主人公の言葉に対し、貴方ならわかると思った、と答えたのと同じように。

 ところで話は変わるが、”3”という数字には不思議なリズムのようなものがあるな、と思った。例えばテレビでVのフリをする際には、「1、2、3」と告げるし、バレエは「アンドゥトロワ」だし、中国語では「イーアールサンスー」だし、どれも不思議といいリズムだ。そう思うのは私だけだろうか。
 それに「三位一体」という言葉もある。魂、精神、肉体、三つ揃って完璧なのだ。確かに、脚立は脚が三本だ。安定している。
 何が言いたいかと言うと、ここで「三本の線」にしたことは、とてもしっくりハマったような感覚がした。


 途中から宗教的な話も入ってきてしまったが、総括的な感想として、死生観という難しい、作家の個性が出るテーマだが、読了感がとてもすっきりしたものだった。また、読みやすかった。面白かったです。ありがとうございました。

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