第三章 美野里と信太の胡蝶の夢

EP.23 調査の始まり


「美野里。これはどういうことだ……?」


じりじりと詰め寄ってくる三角眼を見ないように、必死に斜め上の快晴の青空を見上げる。


「あ、あははは……少し、体が疲れていたようで。」

「少しどころじゃねえだろ。十時集合って昨日言ったよな?」


ごめんごめん。まさか寝坊するとは思ってなくて。


「寝坊にしてはやりすぎだろうが!」


目の前に突き出してきたスマホには、はっきりと『11:08』と映し出されている。


「ご、ごめんなさい。」

「まあまあ。美野里ちゃんの言い分も聞いてあげようよ。」

「この馬鹿暑い中で一時間も待ってたのに、中立なのか!?信太、それでもお前は男なの

か!」


このご時世そんなこと言ったら刺されるよ、りょう。


「お前が言うなっ」

「それで、どうしてこんなに遅くなったの?昨日眠れなかった?」


怒鳴り散らかすりょうに比べ、ひょこっと顔を出してきた中野くん、遅刻してくれたのにもかかわらず、優しく微笑んでくれています。本当に神様でしょうか。


「実は、昨日一回夜中に起きちゃって。それから二、三時間くらい寝れず……」


ずきん、と頭が鼓動を立て、目の前に見えていた遊具たちが、くらっと一瞬ぼやけかけた。


「嫌な夢でも、見たの?」


真っ青な空いっぱいに手を広げる大木の若草色の葉っぱが、風に揺らされるたんびにさわさわと音を立てる。


嫌な夢……ではない。実のところ、今でも鮮明にその夢の内容を覚えている。


「実は……」


だから、みんなに話すことにした。あの村にいって、女の子の声を聞いたこと。「シンタくん」と話す女の子のことを。


「……本当に、そんなことを、言ってたの?」


うん。『幸せになってね』とか、『助けて』とか、そんな言葉を言ってたよ。


「じゃあ、信太のみた夢が間違ってるってことか?」


ベンチに三人でぎゅうぎゅう詰めになって座りながら、ポツポツと合唱し始めた蝉を聞き流す。


「いや、中野くんが間違っている訳ではないと思うんだけど……。」

「信太は、これを聞いて何か思い出したか?」


隣にいる中野くんは、白いTシャツの裾を掴んで額の汗を拭う。下を向いて、どうにもはっきりとしない顔をしていた。


「……ごめん、思い出せない。僕の夢と、美野里ちゃんの夢、どちらが正しいかとかも、よくわからなくて。」

「全然大丈夫だよ!」



より一層、あの村に行かないといけなくなったし!


「それはそうだな。じゃあ、ひとまず、この間の会議で決めた方法を試してみるか!」


膝に手を当てて、立ち上がったりょうは、黒いTシャツを風で靡かせて振り返る。


この時の私たちはまだ知らなかった。この作戦が、

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願いは希望のヒトカケラ 安曇桃花 @azumi_touka

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