よそ見。
木田りも
最終話
小説。 よそ見。
綺麗な夕焼けが目の前に現れた。
僕は無言でそれを見つめる。君もそれを見つめている。君は泣いていてそれを見て僕も泣いている。でも君は本当は泣いていないのかもしれない。僕が泣いているのも本当はただの演技なのかもしれない。互いに一方通行のようなものだったのかもしれない。
よく僕は、前を行けば罪悪感を感じ、後ろを歩けば遠慮してしまい、同じ場所に留まることが困難な2人は、やっぱり、同じ気持ちにはなれないみたいだ。
君は不意に別れを告げた。
僕は分かったと言ったが分かっていなかった。だから、まだ別れていないのだ。僕が分からないことを続ければ成立しないことである。例えもうここに君がいなくても。
君と同い年のアーティストは、愛について、2人が例え違うものが好きでも、譲れないものがあったとしても、運命のような強い力が発揮すれば、一緒にいれる、と歌っている。
僕は君にその人物を重ね過ぎたみたいだ。
君と似ているもの、君が好きなもの。君に関連する全てのものがどんなものでも美しく見えていたあの頃。あの頃の現実に固執してる僕と、
きっともう先に進んでいった君。
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・拝啓、あの頃の自分へ。
お元気でしょうか。
私はいま、新鮮な空気を吸いに来ています。
あの頃、逃れられなかったものとか、自分にかけてたよくわからない縛りとかそういった物を忘れに来ました。きっとまた思い出して落ち込んだりはすると思うけど、なんだかんだ元気です。でもそれは、あの頃の自分がいたから気づけたことだと思います。
だから、頑張れ。今は大変だと思うけど、このあとは必ず良い方向に向いていくから。
今も色々あるけど大丈夫だから。
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そんな風な自分の声が聞こえてくる。
先に進みたいと願う自分。変わりたいと思う自分。それはもちろん本当の自分なんだけど。
君が好きだった自分。君のために頑張れた自分。君に嫉妬していた自分。それら全ても本物であることは間違いなくて。だからこそ、それを手放すのが怖くもある。
変わりたいと願ってる時点ではまだ変われてなくて、優柔不断な自分は、ご飯を食べた後の眠気のように、しつこく絡みついてくる。
よくこんな話をした。明日が必ずやって来るとは限らないけど、お互いに言い合う
「また明日」という言葉には、明日を迎える安心感を生んでくれる、と。
僕にとって大きな影響を与えた人を忘れることは不可能だと思っている。なぜならその時の自分を否定することになると思うからだ。僕は、自分の人生において不必要な時はないと思っている。
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・10年後の自分へ。
お元気ですか?22歳の私。
お仕事してますか?遊んでますか?
学校の授業がないなんて、うらやましいと思います。あったとしても、おそい時間に行けたり、自転車を使えたりするのがうらやましいと思います。
たぶん今より少しマシな人生を送っていると思います。あのころの人生があったから今がある。そのあのころになってると良いなぁって思います。ぼくは友達が少ないです。
でも、少ない友達を大事にしています。友達が少ないことをバカにして来る友達は多いですが、友達を大事にできることはいいことだと思うので、忘れません。
なので、この手紙を読んだら、思い出してください。そして、忘れないでください。ぼくは、こんなふうに生きてきました。
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僕は過去を捨てることが困難なのだ。
あの頃の僕が見たら過去への冒涜だろう。
物を捨てられない人間が、思い切って断捨離をするような。物を詰め込みすぎた僕は、物を消費したり、廃棄したりしなければならない。なんて、あの頃の僕に何を言っても無駄だ。
きっと僕は後で後悔すると思う。そして、捨てた物を忘れられず、また集めなおすのだ。集めて所有していることへの安心感。使わない無駄な物だとしても所有しているという安心感が、僕の心をゴミ屋敷にしている。もう元の形は思い出せない。
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・今の自分へ。
どんな瞬間も憂鬱ですね。寝ても覚めても。通勤しても退勤しても。家に帰ってご飯を食べている時も。夢の中でだって。
どうすれば元気になれるのか、そんな方法も忘れてしまった自分に一つだけ。
自分は前にもこんなことがありました。しかし、何故かいつのまにか乗り越えました。時間というもの、他に気にすべきもの。そんなものに駆られているうちに、まるで忘れるようにして、自分は乗り越えました。乗り越えたのかどうかはわかりませんが、乗り越えたということにしましょう。だから大丈夫。
って、今自分自身の心の中で反芻しています。繰り返し繰り返し。咀嚼して、解釈して、吐き出してまた戻して。困ったらスタートに戻れば良い。どこでつまづいたのか、まるで中学生の数学のように、一つ一つを大事に。頑張りましょう。きっともう少し。
前向きに。
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自分自身にかける声に救われる。今まで生きてきた軌跡を振り返り、それなりに生きてきた。多くの人と出会い、多くの人と別れ、傷つき、ケンカし、どん底まで落ちて、手を差し伸べてくれる友人に出会い。
僕はここに生きています。今も昔もこれからも。ずっと生きています。挫けてしまう日もあるけど泣き出す日はもうないと思います。
自信ないけど。
僕は、君に連絡をした。
家に帰り、明日の用意をする。
僕は行動する。
全神経を集中させる。ここ最近で1番カッコいい自分を作る。シャワーを浴び、爪をきれいに切り、良い匂いの香水も買った。
今までで1番気持ちのいい目覚め。スッキリと目が覚め、バランスの良い朝ごはんを食べて、、
今日は、さようならを言おうと決めた。
2人で買ったペアルックのお皿と、キーホルダーを捨て、あと君を思い出す全てのデータを消して、家を出る。きっと後で後悔するだろう。そんなことはどうでもいい。自分のために街でひとしきり買い物をして、映画を見て、楽しい時間を過ごす。時刻は夕方。思い出の場所。まるで僕はよそ見でもするように、君に別れを告げに行く。あの日と何も変わらない夕焼けに見えるけど、喜怒哀楽いろんなものを吸い込んだ夕焼けはあの日と違う。僕は君を待つ。例え、あの夕焼けが沈んでしまっても。
おわり。
あとがき。
心情を書くことをしばらくしていなかったためか、疎くなったと感じた。今できること、今、やりたいこと。今、表現したいものは変わってくるが、継続しないことには、無になってしまうと感じたのだ。芸術から離れ、芸術への恐怖がある。そんな恐怖への抑止力は僕が芸術に触れ続けることだと思う。そして、やはり、それを評価してくれる人たちだと思う。終わりのないものだ。僕はこれからも追求していこうと思う。
よそ見。 木田りも @kidarimo777
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