高校時代、少女ふたりで海に行った思い出と、それから数年後の再会のお話。
女性同士の関係性を描いた、いわゆる百合もののお話です。
恋愛したり失恋したり、友達に友情以上の感情を抱いたり……というような描写はあれども、しかし恋愛劇というよりは確かに現代ドラマといった趣の物語。
とにかく文章が好きです。
とても静かで、でも自然に物語に引き込んでくれる文章。
一歩一歩踏み締めるように綴られた主人公の内面、それそのものに何か妙味や滋味のようなものがあって、文章を読むこと自体に楽しみがありました。
物語として描かれているもの自体も大好き。
単純な一語や一文では言い換えのきかない、細やかな機微や独特の関係性。良い……。
読後の余韻が静かに胸を打つ、とても素敵な物語でした。
同性愛を扱った作品は作者の価値観を前面に押し出したものが多く、その凄まじい熱量に読者が付いていけないケースもままあるもの。しかしこの作品はプラトニックな愛と過ぎ去った時の残酷さをテーマとしたものであり、そうした心配とは無縁である。
哀しいかな、三つ子の魂百までとはよく言ったもので。人間の本質は年齢を重ねてもそうそう変わるものではないのだ。そして、そうした本質を含めた上で「自分を愛してくれる」存在は人生において貴重なものであり、生涯忘れることのできない友達以上の相手。ましてやそれが初恋の人であるならば尚更であろう。
一方で流れる時の残酷さは多くのしがらみを生み、人生から自由な選択肢を奪い去っていく。無邪気な初恋が芽生えたあの「夏の海」に帰りたい。そう願ってもそうそう簡単にはいかないのだ。相手が死んでしまえば当然それは無理だし、よしんば生きていたとしても立場や年齢が変われば考え方が変わってくるのは至極あたりまえの事象である。
ああ、しかし、でも……それでも尚!
この作品はそんな過去と現在の対決と葛藤を描いた名作。
唐突で爆発的な熱量を叩きつけるのではなく、じわじわと高まっていく主人公のテンションがとてもリアルで感動的なのだ。同性愛作品でウルッときたのはこの作品が初めてであることも付け加えておかねばなるまい。
泣ける恋愛ものをお探しであれば是非。
皆が共感できる同性愛作品のお手本として、この作品が入賞であるべきかと。