第3話 変われなくたっていいんだよ

「なぁ、あいつの胸でかくね?」


「まぁ胸だけはでかいよな! 顔は下ばっか向いてるからよくわからねぇけど!!」


「ホント男子ってそんなばっか!! バッカみたい!!」


 私だってこんな姿を望んだ訳じゃない。……何も知らないくせに。









 がっつり遅刻したので先生にこってり絞られた。念願の初恋が始まったんだから仕方なくね? 私にもついに春がやってきたのよ。


 といってもどんな相手かも全然わからないんだけどね。それにしてもイケメンだった。そしてサラッと助けちゃう姿がこれまた素敵。


 ただ懸念すべき事がある。仲間達の中に女の子が混ざっていた事だ。あれは間違いなく彼に惚れている。つまりはライバルだ。しかも向こうは既にお友達という強キャラになっているという不利な状況。


 そして私、友達いなーい。陰キャぼっちまっしぐら。あれ、絶望的じゃない? 思わず目から汗が流れてきちゃいそう。


 私にあるモノって……、下を覗くとすぐそこにあるのはメロン。それも二つ。


 こ・れ・か!!


 くっ! あとは、これをいかす事さえ出来れば、一発逆転、彼のバットで満塁ホームランも夢じゃないのに。


 こんな時には参考資料を利用して対策を練るんだ。さぁマイ参考資料アケミよ、何でも話したまえ!!


「………………zzzzzz」


 寝てんのかい!! 休館日とは何事ですか!? おっと、落ち着くんだ。まだホットな時間になるのはまだ早い。クレヴァーにいこうぜ。まだゆかいな仲間達が残っている。


 うん、残っていない。そうだよね、一部は他のクラスだし、休館日に訪れるお客さんは私くらいって事だ、うんうん。ここは仕方ない。私のさっきまで読んでたのを読むしかないか。


 ……これ読むとさっきの出来事を思い出しちゃうんだよね。せっかくいい事があったのに、悪い事まで思い出しちゃう。だから私って駄目なんだろうな。せっかく初恋を知る事が出来たのに、変われない。所詮、私はこんなもんだ。


「変われなくたっていいんだよ」


 いつの間にか俯いていた顔を思わず上げて辺りをキョロキョロする。するとそこでは師匠アケミがいつの間にか起きていて、弟子達に修行を行っていた。


「さすがアケミ、それな!」


「でしょでしょ? アケミはね、今の自分を大事にしてるの。たとえどんなにいい男だろうと、アケミは変わらない。変わりたくない。だったらどうしたらいいと思う? そう、アケミの方を振り向かせればいいんだから」


 さすが師匠アケミ。自信に満ち溢れた素晴らしい回答です。ですが、私のように自信の無い人はどのようにしたらよいのでしょうか?


 ちょうど弟子達も同じように思って自分達だったらどうしたらいいか聞いていた。さすが弟子達よ。


「んー……、そうね。そしたら相手に自分の情報を刷り込ませるの。じっくり、じっくりとね? そしたら気が付いたら、アケミの事を見てくるわ。これ間違いないから」


「情報を刷り込ませる? アケミやっば! マジ天才」


 師匠アケミやっば。マジ目に宿っている闇が深い。いや、気のせいだ。うん、師匠アケミは陽キャなんだから、そんな闇を抱え込んでいる筈がない。


 まぁそれはいいとして、相手に私の情報を刷り込ませる……。ようはあのイケメンに私のメロンをどうにかして刷り込ませればいいって事だね。あとはそれをどうやったらいいか考えてみよ。とりあえず生ハムメロンならぬ、ソーセージメロン的な何かが一番いいのかな?


 それにしても変われなくていい……か。初めて言われた。私は今まで自分をどうやって変えなきゃいけないのかずっと考えてきた。親も、周りも私を否定しかしてこなかった。けど変わらなくてもいいんだ。今あるモノで頑張れば、きっと報われる、そう師匠アケミは教えてくれたんだから。心まで読んでくるなんてさすがは師匠アケミだ。


 よし、明日から頑張るぞっ!

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