第6話 私のメロンが当たってるんですよね? センパイ♪ けど、それ、当ててるんです♡

「あんた、最近変わった?」


「そんな事ないよ」


「いい事でもあったの?」


「だから何もないってば」


 いい事があるのは今からなんだよ。


「いってきまーす」


 私は前を向いて歩きだした。俯いてなんていられない。ここからが勝負なんだから。









 今日も変わらず、押し寿司の如くギュウギュウに詰まった車内は、身動き一つ取れない程に人で溢れていた。


 いつもならここで参考資料を漁っている私だが、今日からは一歩進んだ、実戦形式に移行している。


「あっ、すみません。あ、あの、寄りかかっちゃって」


「ううん、大丈夫だよ」


 そう、レン様との実戦形式、むしろ本番とも言える段階にきている。うわああああ、レン様が目の前! レン様がめ・の・ま・え!!


 クンクン、いい匂いだなぁ。ちょっと恥ずかしそうにしてるのがこれまた可愛い。もうちょっと近づいてもいいかな? いいよね?


「ア、アイちゃん?」


「どうしたんですか、センパイ?」


「あ、いや、何でもないよ」


 私のメロンが当たってるんですよね? センパイ♪ けど、それ、当ててるんです♡


「センパイは生徒会に所属してるんですよね?」


「うん、そうだよ。えっと、一応だけど副会長をさせてもらってます」


「凄いですよね。尊敬しちゃいます」


 そして愛してます♡ なんちゃって♪ あぁ、なんかアドレナリンがドバドバ出てるせいかおかしなテンションになってきた。今ならどこまででもいけそうな気がする。


「きゃっ!」


「おっと」


 電車の揺れで倒れそうになったところを抱きしめられちゃったZE☆ いや、これも計画通りなんだけど。一つ計算外があるとしたら、私の足が緊張で小鹿のようにプルプルしてて、本当によろけちゃってる事かな。テンションが迷子になっちゃってる。師匠アケミ! 私を導いてください!!


 一旦落ち着く為に、チラッと取り巻きの方を見てみると、悔しそうにしてる女子が数人いる。ほおほお、あの辺がレン様を好きって事なんだな。うんうん、指でもくわえて見ているがいい。


「センパイ」


「ん? どうしたの?」


「もっと、近づいてもいいですか……?」


「えっ?」


「(取り巻きの)視線が怖いんです。男の人がこっちを見てきているような気がして……」


 前半はうそじゃないよ。後半はうそだけど。


「そ、それなら仕方ないね。ごほん、ボクでよければ」


「えっと、出来たら腕を回して私の目線を隠す事って出来ますか?」


「え、それって」


 腕を回して抱きしめてって事ですよ♪


「嫌ですか……??」


「そ、そんな事ないよ! むしろアイちゃんこそ、もし嫌だったら言ってね。すぐほどくから」


「やっぱ優しいですね、センパイ♪」


「あは、あはは、あははははははは」


 私のメロンを押し潰すようにギュッと抱きしめてくる。今日の為に丹精を込めて育ててきたメロンの感触はいかがですか?


 あぁ、全身でレン様を感じる事が出来てる。レン様も私を感じてくれてるのかな?


 私より十五センチは大きいレン様の表情を見る為には、見上げるしかない。そうなると自然と上目遣いになってしまう。この動作もレン様は好きな筈だ。レン様の方を向いてみると、顔を真っ赤にしているレン様の姿がそこにあった。


「「あっ」」


 お互いに目が合うと、とたんに恥ずかしくなってくる。私の心臓の音が聴こえてないかな? 飛び出してきそうな程、高鳴ってるんだけど。吸い込まれるようなその綺麗な瞳は、恥ずかしいけど、目を離させてくれない。それはレン様も同じみたいで、暫くお互いに目を合わせていた。何だか通じ合ってるみたいで嬉しい。


 あと十五分。チラっと腕時計を見たけど、ここからは時間なんて気にしない。そんな事より、レン様との時間を大切にするんだ。


 私は、レン様の身体により密着して、再び、レン様の方を振り向く。そこにはさっきと変わらない恥ずかしそうにしている可愛いレン様がいた。


「ありがとう、レン様」


 誰にも聴こえない程、小さな声でお礼を言う。


「ん? どうかした?」


「いえ、何でもありません」



 この恋を成就させる事が出来たその時、きっちりとお礼を言うんだから。

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