第7話 それから……

「ちょっとくっつきすぎじゃない?」


「そ、そんな事言われましても。……センパイ、私くっつきすぎですか?」


 ぎゅっと身体にしがみつきつつセンパイに訊ねる。


「だからくっつきすぎだっての!」


 会長が引きはがそうとするけど、そんな簡単には離れないよ。


「まぁまぁ二人とも喧嘩しないで、ね?」


「で、センパイとしてはどうなんですか?」


「いや、あの、あ、あはは、あははははははは」


「くっつきすぎじゃないみたいです」


「レン! はっきりしなさいよ!!」


「センパイ?」


 こんなやりとりも楽しいけど、センパイは私のモノだよ。





 そろそろ勝負の時だからね。









 すっかり日常になってしまった電車内。今日もまた、センパイの胸の中にスッポリ収まるように入り込んでいる。あぁセンパイのいい匂いだ。


「あれ?」


 おやおや、私のサプライズに気付いてくれたかな?


「アイちゃん、いや、えっと……」


「セ、センパイ。じ、実は今日、着けてくるの忘れちゃったんです」


 はい、ノーブラですよぉ。さすが、すっかりメロンの感触に慣れてきてるだけあってすぐに気づきましたね♡ チラッチラと見てきて可愛いなぁ。センパイなら触ってもいいんですよぉ~?


「え? 忘れて? え?」


「センパイ、恥ずかしいので隠してもらえますか??」


「隠すってどうやって!?」


「しーっ。センパイの身体でぎゅーっとしてもらえたらきっと隠しきれると思います」


「もう十分隠せてるんじゃないかな??」


「ダメです。センパイは私の身体が他の人にジロジロ見られる事になってもいいんですか?」


「え、そりゃ良くないけど……」


「ならお願いします♪」


「は、はい。わかりました」


 先程より、力を込めて私を引き寄せてくれる。けど――――。


「もっともっと、ぎゅーっとしてほしいです」


「う、うん」


「ありがとうございます。セ~ンパイ♡」


「えっと、なんかアイちゃん変わった?」


「え、変わってませんよ?」


 どちらかというと目覚めたんだと思う。師匠アケミのおかげで。私は変われてない。臆病なままだし、別に友達が増えた訳じゃない。確かに生徒会の人達とは少し話をするようになったけど、どちらかというと友達というよりは戦友って感じかな。


「そうかな? えっとね、引かせちゃったらごめんね。実は、アイちゃんの事を前から知ってたんだ。アイちゃんは知らないかもしれないけど、家が近所でね、電車の時間も一緒だから良く見かけたんだよね」


「そうなのですね」


 近所なのは情報収集してたから知ってたけど、まさかセンパイが私の事を知ってたのは意外だ。センパイは交友関係は広いし、成績優秀、スポーツ万能の私とは真逆の人間だ。


 私なんか、長所が思い浮かんだのがメロンだけだ。だから、こんな色時掛けみたいな事しか出来ないんだよ。いつも鈍くさいだの、暗いだの、褒められた事なんて一度もないんだから。


「実は小学校から一緒なんだよ?」


「それは知らなかったです」


 あれ? 実は私より、センパイの方が私の事を知ってる?


「だろうね。だっていつもアイちゃんって俯いちゃってたし。けどね、今のアイちゃんは違うんだよ。駅のホームで挨拶する時、今みたいにこうやってお話をする時、必ず前を向いている。ボクはそれが嬉しいんだ」


「それはきっと、センパイが私を救ってくれたからですよ」


 目と目が合う。私の目に映るのはセンパイの力強い眼だ。


「アイちゃんを救う事が出来たのもね、ちょいちょいアイちゃんの方を見てたから気付けたんだよ。あぁ、こんな風に言うと、ボクが変態みたいになっちゃうけど違うからね? 別にジロジロ見てた訳でも何でもないんだからね?」


 ちょっと慌ててる様子がこれまた愛おしい。そうかぁ……。ずっと前から私の事を守っててくれたんだね。


「ふふ、そんな事、気にしてませんよ。むしろ、本当にありがとうございました」


「ううん、あの時、助ける事が出来て良かったよ」


「センパイ、一つお願いがあるんです」


「う、アイちゃんのお願いってなんだか怖いなぁ」


「そんな事言わないでくださいよ」


「はは、冗談だよ。なんだい?」


 深呼吸をする。吸って、吐いて、吸って、吐いて。よしっ!


「これからは私もセンパイの事、見守りたいです。だから、センパイも私の事をずっと、ずっと見守っててくれませんか?」


「え、それって……」


「……ダメですか?」


 沈黙が二人と包み込む。普段じゃこの時間が嫌だった。だけど、今は違う。センパイは目を閉じてしっかり悩んでくれている。二人だけのこの時間が、私には幸せだ。


 暫くすると、決意した表情で目を開き、私の方を見てきた。


「ボクで良ければ、アイちゃんの事を見守っていいかな?」


「是非っ!!」


 涙が零れ落ちる。あぁ、センパイの制服が汚れちゃう。けど止める事がどうしても出来ない。


「あぁ、泣かないで? えっと、これから、よろしくね」


 泣かないなんて無理だよぉ。


「ヒック、えっと、こちらこそよろしくお願いします」


 初めて遠慮せずにセンパイに抱き着いた。もう遠慮する必要なんてないんだから。


「えっと、アイちゃん? あの、そんなに抱き着かれますと、ちょっと困るというかなんというか……。何か忘れてません?」


 私より身長が十五センチ高い為、口を耳元に近づける為に背伸びをする。あ、お耳も真っ赤になっちゃってる♪


「わざとですよ、センパイ♪ ……♡」


 私の事を見つけてくれてありがとう。


 私の事を救ってくれてありがとう。


 そして――――


 私の事を選んでくれてありがとう。


「センパイ、大好きですっ」


――――――――――――


 数ある作品の中、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。なんとかハッピーエンドに収める事が出来ました。


 主人公頑張ったっ! めでたい! 作者お疲れ様! 応援してやってもいいよ!! って方、是非、☆評価、フォローをよろしくお願いします。励みにしたいと思います。


 それでは改めまして、『初恋を知らないこじらせ女子が初恋を知って奮闘するお話』を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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初恋を知らないこじらせ女子が初恋を知って奮闘するお話 ポンポン帝国 @rontao816

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