第5話 そんな困ってる表情もかっこいいZO☆
「ねぇ、知ってる?えらーい学者さんが言ってたんだけど」
「え、なになに?」
「『「愛されるから愛する」というのは幼稚な愛です。「愛するから愛される」というのが成熟した愛なのです』。ようは愛されなきゃ愛せないなんて大した愛じゃないらしいよ。相手を愛さなきゃダメって事! この言葉を知って確信したの。アケミのやってきた事に間違いはなかったって!!」
「さすが、アケミ!」
「愛に生きる女だね♪」
自然と息が荒くなり、目の前がピンク色に染まっていく。つい、そのまま寄りかかってしまいたくなる衝動に駆られてしまうが、そこはぐっと抑える。
自由に身動き出来ない狭い空間、毎日同じ事をしている筈なのに今日だけはいつもと違う。なんたって、目の前には最愛の人。これで普通にしていられるなら恋じゃないって事よ!!
ごめんなさい。取り乱してる。めっちゃ取り乱してる。ぶっちゃけ息の荒さがレン様に伝わってないかメッチャ心配である。だって、目の前にレン様だよ? 向こうもとっくに気付いてて、どうしよう、って表情で困ってる。困らせるつもりはないんです、ごめんなさい。けど、そんな困ってる表情もかっこいいZO☆ あぁ、変なテンションだ。とりあえず、深呼吸。あ、ダメだ。深く呼吸なんてしたら、レン様の匂いで死んじゃう。
「えっと、この前の子だよね……?」
「あひゃ」
あひゃって何、あひゃって。私、頑張れ! せっかくレン様から話しかけてくれたんだから!
「ごめんね、びっくりしたよね」
「い、いえ。大丈夫でひゅ。そうでふ、わたひが、えっと、この前の子にゃんです。あ、あ、あ、あの時はありが、ありがとうございまひたああああああぁぁぁぁ」
うわあああああああああああああああああ!! 噛んだ。盛大に噛んだ。むしろ普通に言葉を言えてるところがほとんどない。ギャグか! 私はギャグに生きてるのか!?
あぁ、もう死んだわ。終わった。色々考えて、ここまでは概ね、計画通りだったけど、私にそれをこなすコミュ力がなかったわ。
これは死ぬしかない。お父さん、お母さん。先立つ不孝をお許しください。
「ふふ、面白い子だね。キミの名前は?」
面白いですって! 聞きました? お父さん、お母さん! 私が生まれてから初めて面白いって言われましたよ! これで死んだら損ってもんだよ!!
「は、はひ。二年でアイと申します」
なんとか自己紹介とお礼が言えた! 頑張った! 頑張ったよ!!
「アイちゃんだね。ボクはレン。ボクは三年生だから後輩になるんだね」
そうなんですよ! レン様の大好きな後輩さんですよ!!
そう、レン様は後輩が大好物だ。正確に言うと後輩系のアレが。どうやって知ったのかって? そりゃ情報収集してれば……ね?
「そ、そうですね。あ、あの、お願いがあるのですがよろしいですか?」
「お願い? ボクで出来る事なら聞いてあげるよ」
優しいレン様ならそう言ってくれると思ってた。今にも倒れそうだし、足はガクガクだ。最低限は出来たんだし、本当ならこれでさよならしたい。だけど、このままじゃ、そこらへんのモブと同じになってしまう。私は取り巻きで終わりたい訳じゃないんだ。
次の台詞が出てこない。ええい、私の心臓よ、静まれ。
言うんだ、言うんだ、言うんだ、言うんだ、言うんだ、言うんだ、言うんだ、言うんだ、言うんだ!
「セ、センパイっ! 私、実はまだこの前の事が怖いんです。朝の通学だけでいいので、暫く私の近くにいてくれませんか……?」
何とか言い切った! あぁ、泣きそうになる。まだ断られた訳じゃないのに。前を向く事が出来ない。レン様はどんな表情で私の願いを聞いていたのだろうか?
無言の時間が怖い。電車内はガヤガヤしてる筈なのに、自分の心臓の音で何も聴こえてこなくなってしまっている。
十秒にも満たない、そんな時間がいつまでも終わらない、そんな風に感じてしまう。恐る恐る前を向いてみると、そこにはさっきとはちょっと違った、困った表情をしているレン様。ここで初めて、目と目が合った。レン様の目ってなんて綺麗なんだろうか。私と目が合ったからかレン様の答えが出たようだ。
「えっとね――――」
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