第2話 わたしのおっぱいはメロンサイズでようはバインバインだ

「アイちゃんってちょっと暗いよねぇ」


「アイ(愛)なんて名前なのにそういうの興味なさそうだよね」


 うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!!


 …………うるさい。









 今日もいつも通り、電車に揺られながら学校に向かっている。まぁみんな同じような時間に学校に向かうから当然車内は満員電車。本当なら一本か二本ずらせばいいだけなんだけど、めんどくさいのよね……。当然座る事なんて出来ないから学校の私の席みたいに端っこで縮こまっている。車内をチラっと見てみると同じ制服の子が多い。登校時間なんてみんな一緒なんだから当然か。


 とりあえず、電車に乗っていても何もする事のない私は、いつもの参考資料チェックの時間に入る。ただぼーっと揺られているより、よっぽど有意義な時間が過ごせる筈だ。


 そんな感じで窮屈している中、若干後ろの人に寄りかかりながら参考資料をチェックしていると、時折、下半身にさわさわっとした気配を感じるようになってきた。


 やだやだ。私のメロンに魅了されてしまったのね。自分でいうのも何だが、わたしのおっぱいはメロンサイズでようはバインバインだ。ちなみにおさげに眼鏡をかけた、いわゆる委員長系スタイルだ。委員長なんてやった事ないんだけどね。


 大人しそうな見た目に反して、メ〇ンパンナのメロメロパンチも真っ青な位、エロい身体をしている。しかも今って夏服だから余計に目立つし……。


 これで私が聖女のように清らかな心を持ってさえいれば、黙って触られ続けてあげたのでしょうけど、残念ながら、私の貴重な参考資料(読書)の時間を奪った罪は重い。


 天罰を受けなさい! えいっ、えいっ。


 あれ? こんな筈じゃ……、え? マジ無理なんだけど。まず、手が動かせない。右手はスマホ持ってて、左手は鞄を持ってる。そしてスマホを仕舞えればなんとかなるのに、今日のこの激混みはそんな余裕すら与えてくれない。いつもなら忍び込ませた安全ピンでぶすっとして終わりな筈だったのに。今はそれを取り出す事すら出来ないのだ。


 こうなると今まで運動部に所属してた訳でも無ければ、どこかの組長さんの一人娘な訳でもない、無力な小娘な私には抵抗するなんて無理だった。まぁ今回が初めてって訳じゃないし、今日は聖女の日になってやるしかないのか……。


 幸いにもまだ軽く触れる程度なだけだ。気持ち悪い感触に耐えながら、気にしないように参考資料に目を向ける。早く時間を過ぎ去れ。


 ……無理。ホントはこんなの無理。気持ち悪いよぉ。何で私ってこんなんなんだろ。いつもそう。間が悪いというか、まぁ見た目的にも狙いやすそうだもんね。


 諦めかけてたその時、不意に触られていた手が止まった。


 ……やめた? いやいや、まだ油断しちゃいけない。振り向いたら油おじさんが気持ち悪い笑顔でこちらを見てくる筈だ。経験談である。だけど、今回は後ろからの圧がない。不思議に思い、恐る恐る後ろを振り向くと、どうやって入れ替わったのか油ぎっとぎとのおじさん(想像)から同じ高校の制服を着た爽やかな好青年に変わっていた。


 イリュージョン?? あの油おじさんが転生でもしたのだろうか? あ、あっちに普通にいたわ。やっぱ油おじさんだったのか。そんな油おじさんが爽やか好青年のお仲間らしき人達に囲まれてるし。ざまーみろ。


「大丈夫かい?」


 私の前に一羽? 一匹? どっちでもいいや。天使が舞い降りてきた。ラブコメからまさにそのまま抜粋したんじゃないかって位の展開。おぉ、神よ。私を見捨てなかったのですね!


 思わず変なテンションになってしまった。


「あ、あ、あの……」


 ええい、今までこんなイケメンと話なんて勿論した事がない。ぱっと声が出てこない。全くこんな時に碌に何もできないなんて……!!


 いや、ただのコミュ障だから当たり前か。


「怖かったよね? もう大丈夫だから。今度から気を付けなね」


 そう言うと、気が付いたらちょうど駅に着いたのか、電車のドアが開いて、流されるように出て行ってしまった。いや、私も流されちゃったけど。


 電車を無事? 降りると駅のホームで暫く立ち尽くしてしまっていた……。こんな王道な流れがあっていいのだろうか? ついに私の初恋が始まるのか? 暫く考えていたが、これ以上の事は思い浮かばなかった。


 そして、私は気付いてしまったんだ……。やべ、遅刻だ。

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