三百二十九話:隷属契約魔法
目の前の少女、カタリーナは吸血鬼。
正確に言えば、ヴァンパイアプリンセスとかいう種族名なのだとか。
「いかがでしょうか? お互いに利のある話しだと思いますが」
「ふむ……」
カタリーナからの提案は共闘の申し入れ。
彼女は『万軍の不死王』から『獄炎のケルベロス』の討伐を命令されているらしい。
「私やイブリアスの軍勢だけでは不可能です。『獄炎のケルベロス』とは相性が悪い」
野犬の大将の情報を持っているのかな?
「不死身の王すらも焼き尽くす【獄炎】。 対するには水の聖女の力は必須ですから」
なるほど、ちなみに俺の奥様は女神様だけどな!
木実ちゃんの情報を持っていることに少し不快感を覚えるよ。
「本拠地に攻め入れば総力戦になるでしょう。 相手のガーディアンや幹部クラスと対峙する際に協力いたします。 それにオークたちの相手もお任せください」
「オーク?」
「はい。 『獄炎のケルベロス支配地域』の南端から攻め入って来ています。 彼らの狙いもまた弱った犬の王の討伐でしょう」
大人気だな。
3方向から攻められても未だに耐えているのか。
思っていた以上に魔王の支配地域を落とすには戦力が必要なのかもしれない。
「……」
共闘するのは構わない、のか?
カタリーナはまるで見た目は人の少女だが魔物、いや魔人らしい。
そんな彼女と共闘して人類の敵認定されないだろうか?
「そして……魔王イブリアスの動向もお伝えいたします」
微笑を張り付けた少女がこちらを見つめてスパイ発言をしてくる。
それは完全に魔王への背信行為なんじゃ。
召喚の術式に縛られていないとのことだったが、どうして人類側に味方してくれるのだろうか?
「もちろん、覇王様に一目惚れしたからです」
「ベルゼ君! 浮気はダメだよっ、栞ちゃんに言いつけちゃうからね!?」
いや絶対嘘だろ。
ネットの詐欺広告くらい怪しいから。
吸血鬼というのうはみんなこんな胡散臭いのだろうか?
「いかがでしょうか?」
断る理由がない。
こちらには利しかないのだから。
だけど、俺のカンが囁く。
彼女は何か企んでいると……。
「うむ」
「ありがとうございます、覇王様」
まぁ罠であれば踏み抜いて進めばいいか。
ツインテも返してもらわないとだし。
「おめでとうっ、リーナちゃん!」
「っ」
ツインテがカタリーナの手を取り名を呼ぶと、仮面のような表情だった彼女の顔が崩れた。
感情の発露。
驚きと怒りと悲しみと、色々な感情がぐちゃまぜになったような、なんとも言えない表情だった。
ただそれもほんとうに一瞬だけで、すぐに元の表情に戻ったのだが。
「どうかした?」
「……いえ、なんでもないわ」
すいませんその子、デリカシーとかドブに捨ててるんで。
俺はツインテの首の武骨な首輪を掴んで持ち上げる。
「ぐぇっ!?」
失敗した。
漫画のようにはいかず、彼女の細い首が絞まってしまった。
すぐに降ろすが非難めいた視線をむせながら向けてくる。
「……彼女には人質、いえ、伝令役になって頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
「うむ」
「では奴隷従者契約を行います。 離れていても念話や召喚をすることが可能になりますので大変便利ですから」
「便利ー!」
奴隷って……いいのかツインテよ。
便利だが危険なんじゃ。
まぁ相手もスパイ活動のリスクを負ってくれるみたいだし、こちらもツインテくらいいいか。
「んっ」
ゴトン、と武骨な首輪が床に落ちた。
そしてツインテの細い首先に彼女の牙が落ちる。
小さな赤い唇から伸びる細く鋭い牙が、処女の柔肌を突き破り赤い血を垂らさせる。
「【
魔力の流れか、紫色の長い髪がふわりと浮き燐光を放つ。
二人の間に紫紺の輝きが生まれる。
床に魔法陣が描かれることはなかったが、そんなファンタジーな感じの儀式が行われている。
光が収まると、ツインテの首に黒いラインが出来た。
牙の傷痕には黒いハートマークが二つ並んでいる。
長いツインテに黒ドレスも相まってメンヘラ感が凄い。
「おお?」
「契約成功です。 私の種族特性でロイヤルガードの力が付与されています。 少し強くなっていると思いますよ」
「ほんと!? やったぁ!!」
ちょっとツインテの雰囲気が変わったか?
黒髪だったのが紫が混じっている。
化粧はまったくしていなかったはずなのに、肌は白く目元もメイクが施されてちょっと大人っぽく見える。
奴隷にされたのに喜ぶツインテ。
「ただし夜だけです。 日中はほぼ変わりませんので気をつけてください」
「了解!」
「あと、私が死ぬと死にますから気をつけてください」
「了解――――ええっ!?」
こちらに微笑を浮かべて告げてくるカタリーナ。
奴隷の主が死ねば問答無用で奴隷は死ぬらしい。
ツインテの首の黒い線が、死神の鎌の軌跡のように見えてきた。
世界がゲームみたいになっても俺は無口キャラのまま 大舞 神 @oomaigod
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。世界がゲームみたいになっても俺は無口キャラのままの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます