三百二十八話:
怪しい。
「どうぞこちらへ、たいしたおもてなしもできませんが」
微笑を浮かべる少女。
敵地のど真ん中にある怪しげな洋館に住んでいるんだ普通の少女ではないだろう。
西洋人ぽい顔立ちだが、普通に日本語を喋っているな。
いや? そう聞こえるだけか。
無防備に背を見せて歩く少女の後についていく。
一瞬だけ殺気を向けてみたが、反応しない。
他には誰もいない。
人も魔物もいない静かな洋館内を進んで行く。
「あ、ベルゼ君! 助けにきてくれたんだ!」
大きな扉を開け室内に入るとツインテがいた。
黒いドレスを着ているが普段の彼女と特に変わりない。
小顔なのに大きな瞳が表情を分かりやすく伝えてくる。
気になるのは首元につけられた首輪くらいだろうか。
オシャレにしては少々武骨である。
「申し訳ありませんが、彼女にはしばらく人質になって頂きます。 覇王様のお力はとくと拝見させて頂きましたので、私の話しに合意して頂くまでは返せません」
偵察されていた?
覇王様ってことは砦か、学校か。
前回の襲撃の前から見張られていたのかもしれない。
「……」
少女の微笑が不気味だ。
貼り付けられたような表情。
何を考えているのかまったくわからない。
「人質? 私たちっ、友達じゃないの~~!?」
「「……」」
友達じゃないやろ。
拉致監禁されて友達になれるなら世界はとっくに平和になっている。
ツインテの脳内がどうなっているか分からない、不気味だ。
「どうかなベルゼ君? ロリドレス、似合ってるかな!?」
似合ってはいる。
だがどうでもいい。
ちらちらスカートの中を見せるな。
……どうして何もはいていないんだ?
「おやめなさい。はしたないわ」
「は~い」
アレおかしいな。
人の砦を滅茶苦茶にした拉致犯をボコボコにしにきたのに、なぜかこちらが申し訳ない気持ちになってきた。
厄介な奴を人質にさせてしまってすいません。
まぁそれはそれとして、糞害のおとしまえはつけてもらわないとだけどね。
「……そのようなギラついた瞳で見られても困ります。 覇王様の守備範囲は広いのですね」
そういうつもりで睨んだわけじゃないが……。
ドレスを着ているが、起伏の少ない少女。 クレハくらい胸があれば多少は意識もするかもしれないが、うん、ちょっと難しいな。
なんだか魔物と喋っているという感じがしない。
知性というか、人間味が強いのだ。
「こちらの世界では魔物娘、いえ、モンスター娘とヒューマンの恋愛が人気なのでしょう? 書物で学びました」
それは偏った知識なのではないだろうか?
一部のマニアさんだけだと思います。
一体どんな書物で学んだのやら……。
「協定を結んでいただけるなら、私も覇王様のハーレムの末席に加えて頂いても構いません。 この呪われた体でよろしければ好きになさってください」
「鬼畜! 鬼畜だよ、ベルゼ君!!」
「……」
こんな幼い子を!と憤るツインテ。
いや、魔物なのだから見た目通りとは限らんだろう。
色白の痩せた少女。
西洋の顔立ちに長い紫髪だが、人と見た目は変らない。
……怖いな。
もし彼女がコミュニティに紛れていても、魔物とはわからないぞ。
「申し遅れました、私はカタリーナ・フォン・ホーエンハイムと申します。 【万軍の不死王】イブリアスによってこの地に特殊眷属召喚された魔人です」
テーブル席に座り自己紹介をしてくれる少女。
お茶菓子はでないようだ。
出されても困るので別にいいけど。
特殊眷属召喚?
というか【万軍の不死王】ってイブリアスって名前なんだ。
「特殊眷属召喚?」
「はい。 通常の眷属召喚ではリソースを消費して己の眷属たちを召喚しますが、特殊眷属召喚では遺物を用いての召喚となります。 前者と異なり、遺物に関連した魔物や魔人をランダムに召喚して使役することが可能です」
ガチャだ。
キャラクターガチャですね、わかります。
ただでさえ数が多くて厄介な魔物たちに強力なユニットをガチャ召喚させるのやめてくれませんかね、黒の魔皇帝さん?
「……ん?」
使役されているということは、【万軍の不死王】の命令でこんなことをしているのか?
「いえ……本来ならこういった契約術式を破るのは難しいはずなのですが……そもそも私をイブリアスが召喚できたことがおかしいのでしょう」
「?」
微笑を張り付けていた少女の顔が歪んだ笑みに変わり、その小さな唇から白く鋭い歯が見える。
「私は魔皇帝位争奪戦に参加している、とある魔王の眷属なのですから」
◇◆◇
「立派ね~」
太くて長いものを掴んだエルフの玉木が呟く。
「こんなに太くて長いの、初めてだわ」
「そうじゃろう! ワシの物は立派なんじゃーー!」
どっさりと積まれたトウモロコシの入った箱を運びながら、
玉木は皮を剥いて鉄板の上に乗せていく。
「塩……味噌かしら?」
醤油も捨てがたい。
トウモロコシは意外と痛むのがはやい。
一日経てば甘さが半減すると言われているので、できるだけ新鮮なうちに食べたいところだ。
「とうもろこしの炊き込みご飯、シンク君が喜びそうね」
若奥様は旦那様の胃袋を掴むために思案する。
「コーンスープもいいと思います!」
「あら、木実ちゃん」
女神と女王様の共演。
周囲の信者たちは敵対することなく、むしろ2度おいしいとばかりに温かく見守っている。
「すり下ろして搾るといいわ」
「なるほど!」
二人の合作『冷製濃厚コーンスープ』。
試食の機会を虎視眈々と狙う信者たちは先ほどまでの和やかな雰囲気を崩し殺伐としてきた。
「おいしそうなコーンスープ……私にも頂けませんか?」
二人に一人の少女が声を掛ける。
「私っ、コーンスープには目がありませんの!」
色白の肌に紫髪のくせ毛のミディアムヘア。
八重歯の可愛い少女が屈託のない笑みでおねだりしてきたのであった。
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