番外編 続くのか?

【今回は番外編なので本気にしないでね】


 ナイト・マーティンは帰宅中である。学校から村はずれに向かう道。帰り道が重なる学友はいない。だから通常、彼は一人で帰る。

 しかし、今日は何故か三人も同行者がいるのである。


「まっさか、雑貨屋さんがこんな村に出来るんなんてね」


「わたしも祖父から聞いて驚いたの」

「何が売ってるんでしょう、アンネ気になります」


「……にしても商店なら村の中央に作るべきだろう。

 何故村はずれも近いこんな場所に?」

「土地が空いてたからじゃないの」


 村はずれにあるマーティン家がぎりぎり見えるくらいの場所なのである。村の中央付近からは大きく外れている。この辺りになると農作業をしている家も少なく森が広がり視界は広くない。

 村に 今まで店は無かった。定期的に訪れる行商人で足りていたのだ。生活必需品のほとんどは自給自足で間に合う。嗜好品やら、珍しい布、女性には化粧品が大人気。

 たまに近くの街に買い出しにも行く。代表の人間が作物を市場に売りに行き、その金で買い出しもして来る。収穫の季節になると、毎日馬が行き交う事になる。取れたての品を売って、冬ごもりの為の品を買って来る。

 村長の孫娘で10歳になるデレージアは何度か同行している。ジーフクリードやアンネトワットにはお店で買い物をした経験が無い。ナイトは以前、都に住んでいたのでその時買い物もしている。


「見て、僕10レブタも貰って来ちゃった」

「あたしは1ドルクマです」


 勝った、僕のコインの方が10倍だ。負けちゃった、アンネ欲しいモノ買えないのかな。なんて顔をしている二人にデレージアがツッコミを入れる。


「10レブタじゃ買えてお菓子1個よ。

 アンネ、1ドルクマあればドレスは厳しいけどシャツや簡単なアクセサリーくらいは買えるわ」


「ええーっ!?

 なんでなんで」

「確か100レブタが1ドルクマだな」


「……そうなの、ナイト。

 父ちゃんにダマされたっ?!。

 子供に預けるには危険すぎる大金だ、注意しろよ。

 なんて言ってたくせに」


「ジーフが今日懐の中を気にしていたのはそのせいか」

「アレッ?

 バレてた。あははは、恥ずかしいな。

 少しばかり真に受けて、ビクビクしちゃってたよ」


「なら良かった。

 懐に凶器でも隠してるのかと思ってな。

 何時でも反撃出来るようこちらもジーフに隠しナイフを向けていた」

「こわっ!

 ナイトが言うと本気みたいで怖いんだよ。

 だからだよ。

 一日中誰かに狙われてるような気がしてゼンゼン落ち着かなかったよっ!

 心臓のドキドキがおかしかったよっ!

 持ち慣れないお金持ってるからかと思ったけど、ナイトに狙われてたからだったのっ?!」


 そんな男子は放っておいて、デレージアとアンネは店に入っていく。予想したより広く雑多な品が置かれている。

 香辛料やお菓子。布に毛皮。武器に農具などもある。


「あっ、アクセサリーもお洒落な服も有るじゃない」

「あのお洋服可愛い。

 髪飾りも欲しいです」


 他にも村のおかみさんが群がってる中に少女達は突撃していく。


「うひゃぁ、女性陣が殺気立ってる」


 ジーフは距離を取って眺める。

 ナイトは武器を気にしている。


「お客はん、武器が気になりまっか。

 そこには出してない掘り出し物もおまっせ」


 声をかけて来たのは背の高い人物であった。 

 

「店長のサーガタナスですわ、よろしうに」


「はい、よろしくお願いします」

「ジーフ、店員には頭を下げなくていいんだ」


「ええーっ!

 なんで大人の人だよ!?」

「客に頭を下げられても、店の人も迷惑する」


「はっはっは。

 いいんでっせ、丁寧な子は好きや」


 背が高く細身の中年男である。背を傾けて子供達に話す。大きな眼鏡をかけて顔が良く分からないが気の良さそうな人である。


「こぉらぁ!

 店長はアタシだ」


 後ろからサーガタナスをハリセンでどついたのは幼女であった。まだ5、6歳であろうか。こちらもメガネをかけて更に麦わら帽まで被ってるので顔は分からないが、声からすると女の子。


「ちゃいますよ、ロッテ様。

 子供が店長だと怪しまれるでしょ。

 自分が店長でロッテ様はその娘って設定にするいいましたやん」

「あれっ、そうだったっけ?」





 一方アンネは髪飾りを見つける。


「可愛い。これ欲しいけど、少し高いです」

「ああ、いいわね」


 と、デレージアも自分の髪に着けて見る。


「デレージアさんの髪、キレイな金髪で素敵ですから似合いますよ。

 ……あらなにか髪の色が、デレージアさん後ろ髪の色が……」

「えっ?!

 ……アンネ、ワタシ用事を頼まれたの忘れてた!

 ゴメン、今日は急いで帰るね」


「えっ、デレージアさん?

 あれあれもう帰っちゃった」


 アンネも帰ろうかな。アクセサリーを買うのはもう少しお金を貯めてから。

 ナイトくんは、店を出たら方向が逆。アンネは密かにシルフィード様と呼んでるけど、人前では呼ばないように気を付けるの。

 ジーフくんと店で買ったキャンディーを舐めながら帰る。

 

「ジーフくん、お小遣い少なかったのに。

 分けて貰っちゃって良かったの」

「いいんだよ、キャンディーくらい。

 父さんにウソついてたの、責めたててまたお金ぶんどってやるから」


 ジーフくんとも別れるとアンネ一人、まだ家まで少し距離がある。


「デレージアさんはキレイでいいな」

 

 羨ましい金髪で鼻も高いし睫毛も長い。アンネじゃ逆立ちしても敵わない。しかも勉強まで出来ちゃう。デレージアさんなりに努力してるのは知ってるから、卑怯だなんて無駄にやっかんだりはしたくないけど。

 シルフィード様も同じなの。顔がカッコ良くて、おまけに勉強も出来る。年長のデレージアさんよりテストの結果はいい。

 多分……シルフィード様と並んだら……アンネじゃ釣り合わない。

 でもデレージアさんなら…………


「どうしたの、泣きそうな顔してるよ」


 アンネトワットは誰かに声をかけられた。周りを見るけど誰もいない。


「ここだよ、ここ」

「……!……」


 いつのまにかアンネの肩にナニカいた。人間の形をした小さい生き物、だけど透き通る羽が生えてる。


「……妖精さん?」

「そう、妖精のル・フェだよ」


 ニコリと笑う妖精さん。すごい妖精ってホントにいたんだ。アンネ絵物語の中だけだと思ってた。


「クスッ。

 本来もう物質界ニヴルヘイムには姿を出せないんだ。

 だけど、こないだ物質界ニヴルヘイム神霊界アスガルドの境界が揺らいだ。少しばかり穴が開いたんだ。その隙間を通って妖精国アルフヘイムから遊びに来ちゃった」

「……?……よく分からないけど。

 遊びに来てくれたんだね」


「うん、キミ今悲しい顔してたよね。

 子供が悲しい顔しちゃダーメ。

 ボクがキミの願いをかなえてあげる。

 だから……悲しい顔はヤメてね」

「願いをかなえる……?

 アンネのお願いかなえてくれるの?」


「そうさ、ボクは良い妖精だからね」

「ホントに、ホントに。

 じゃあじゃあ……アンネ……」


 アンネトワットには気付けない。透き通る妖精の羽根が良く見ると黒く淀んでいる事に。明るく笑う妖精の顔が一瞬昏くなり嘲笑う影が浮かんだ事に。

 彼女はまだ知らない。妖精国アルフヘイムのその奥には黒妖精国スヴァルトアルフヘイムがある事を。




 その頃、急いで帰った少女は自分の祖父の部屋にいた。


「ウカツですぞ。

 デレージア様」

「うん、お爺ちゃんゴメン。

 今度は忘れずに薬を使うわ」


「そろそろ私を祖父と呼ぶのも止めましょう。

 私は唯のあなたの召使です」

「そんな……」


 少女は上へと髪の毛を持ち上げる。後ろ髪が燃えるような赤になっていた。


「こんなに赤くなってしまって。

 すぐ薬に浸します」

 

 少女は横になる。人前では祖父と言う事になっている人物が髪の毛を薬液に浸してくれる。


「この髪の色を見られたら……

 村人は先住民族『レグリアの民』を思い出す。

 見られてはなりません。

 さらにレグリアの長・聖女マリアが生き延びている事はもっと知られてはならない」

「大丈夫、分かってるわ」


「貴方は我々の残された希望なのです。

 忘れないでください。

 聖女マリア・デレージア様」





 ジーフ少年は家に辿り着いていた。一般的な農家。秋は麦を収穫し、冬場は豆を育てる。


「父さん、僕をダマしたろ。

 女の子の前でハジかいちゃったよ。

 トラウマになったらどう責任取ってくれるのさ。

 今日のショックで一生ヒキコモリになっちゃうかもよ。

 それに比べたら少し多めのお小遣いを息子に与えるくらいなんて事無いよね。

 そーゆー訳だから少しお小遣いくれないかな」

 

 いつもなら、わはははなーに言ってやがる、と返って来るのだが返答が無い。ジーフは喋り過ぎよ、とジーフの倍も喋るくせに自分の事は棚にあげる母親の声もしない。出かけてるのか思ったが、居間に入ると父も母も居た。


「どうしたのさ、二人とも黙りこくって」


「……コードネーム『斬氷』だ」

「…………!」


 父が静かな声で言い、ジーフクリードはキャンディーを床に取り落とす。


「……その時が来たんだね」


「そうだ」

「一生来なければ良かったのに……」


 父は冷静な顔で告げ、母は目に涙を浮かべる。

 一生来ないと思っていた。祖父は来ないまま人生を終えた。

 彼の一族は『草』だった。指示された土地に住みその一族として暮らし、人々に溶け込み疑われる事無く情報を集める。任務は場合によって数年数百年の長きに渡る。一生その土地の人間として人生を終える『草』も多い。

 彼の名はジーフクリード・オーディンヴァレー。

 しかしその隠された名はキルアイス。

 ジーフクリード・キルアイスはその名を取り戻したのであった。

 

 





 夕刻も過ぎ新しく出来た店は看板を下ろす。


「思った以上に客が来ましたなー」

「わははは、大儲け」


「しかし、この村は住人が少ないでっからな。

 明日からはこうはいかないでっしゃろ」

「そうか、気を引き締めねばイカンな。

 ………………

 って違うわー!!!

 ホンキで商売に精を出してどうする?

 店は隠れミノじゃーー」


 幼女が叫ぶのである。


「はいはい、そうでちゅねーロッテちゃん」

「子供扱いすんなー、サーガタナス」


「はぁーー、だってロッテ様、幼女ですやん」

「ちっがぁーーうぅーー。

 知ってるだろうが。

 ワタシはボインボインのセクシー大人だったのだー。

 魔王様と誰もが崇めるクイーンだったのだ。

 なのに……あのロリコン男が……

 ボインちゃんより、ツルペタロリの方がいい。

 などと言いおって怪しい力でワタシの魔力マナを吸い取って子供にしたのだー」


「それは正しい気がしますわ。

 ロリは正義でっせ」

「オマエまでそんなシュミがー!?」


「とにかく!

 この前とんでもない魔力マナの爆発を感じたのだー。

 間違いない。

 この近所にアイツはいるのだー」

「ホントでっか?

 勇者でっせ。

 金も名誉も溢れてますやろ。

 こんな田舎に住みますかいな」


「居る!

 ゼッタイいるのー。

 アシュタロッテちゃんのカンに間違いないのー」

「うーん、アシュタロッテ様。

 幼女になって長いもんで言動まで幼女化してきてまっせ。

 カワイイからええですけどな」


 かつて王国に恐怖と災害をもたらした大魔王アシュタロッテ。その人がマーティン家のご近所に引っ越してきたのである。


 風雲急を告げたり告げなかったりしているオーディンヴァレー。

 この物語に収拾はつくのか、それは神のみぞ知るのであった。























 どーも。くろです。

 そんな訳で『異世界転生ファミリー』 第一部完です。

 

 って事で34話+番外編、およそ毎回3000文字、毎日投稿やり遂げました。

 つっかれたーーーーっ!

 予定より長くなり過ぎ。20話弱くらいで一度オチを着けるつもりだったのに。 

 でもまー、おかげでPVはけっこう伸びてるな。

 ☆も戴いてしまった。ありがとうございます。


 明日からしばらくは別作品投稿です。『くろねこ教授のタワゴト』を三回まで確定。

 その後は未定。『くろねこ男爵の冒険』もそろそろ。『新月夜にノスフェラトゥ嗤う』リメイク再投稿も準備中。『「推しメン」原案小説コンテスト』に合わせて『白き胡蝶蘭の姫君』続きかいちゃおうかな、とも画策中。

 

 『異世界ファミリー』の第二部は……まー、読み手の反応を見ながら考えます。まだなんにも考えてません。番外編はアクマで今回だけの内容って事で。

 設定はとりあえず番外編だけのモノです。二部があったとしてこの設定活かすかどーかはまだ誰も知らない。くろも知らないので誰も知るハズ無いのです。


 ご意見、ご感想お待ちしております。文句やリクエスト等も是非。

 リクエストあったら、ホンキで二部に活かしますよ。いやマジで。


 ではでは。くろでした。

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異世界転生ファミリー くろねこ教授 @watari9999

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