第7話 新天地へ

俺が若返ってエリカを生み出してから一月ほど経った。

このひと月の間は二人にとってリハビリ期間だ。

対外的な事は俺自身のコピーの「テオ」に対応させておいて、家に引きこもり色々異常が無いか検査している。

どうやら体に異常は見られない。

魔核は正常に働き、固着している様だ。


 自分自身の体を若い肉体に作り直す。

一人の人間の完全な複製を創造する。

どちらも世界初の偉業だ。

公に出来ないのが残念でもあるが、この技術は流出したら恐ろしい事になる。

色々悪用し放題だから俺の中で永久に封印する事にする。

尤も理論を知ったところで実現は不可能だ。

生み出した魔核は使い切った。

俺自身が生涯かけてかき集めていた希少な万能鉱物でやっと三個しか作れなかった代物だ。

手間と時間と金を惜しまなければ不可能ではないが、個人の錬金術師にはまず不可能だ。


 さて、これからの生活だがエリカのオリジナルはこの国の王女である。

うり二つ同じ、ホムンクルスがお膝元で暮らすのは色々都合が悪い。

事前の考えの通り別の土地へ移住する時が来た。


 目的地は海を隔てた隣国、ローランド。

計画が成功した時に備えてあらかじめ色々移住の用意はしておいた。

行きさえすればすぐにでも暮らし始める手配は整っている。

この一月の間エリカにも様々な家事等、庶民の暮らしぶりを教えてきたしな。

 

 俺とエリカと「テオ」の三人で細々とした引越しの準備を片付ける。

しかし移住するのはあくまで二人、俺とエリカのみだ。

「テオ」は移住はしないでこのまま帝国に残る。


 なぜなら「テオ」は、数々の業績で国家認定登録を受けた希少な錬金術師だからだ。

現在、帝国認定錬金術師は二人しか存在しない。

国から結構な額の恩給を受け取る代わり生涯身柄を国に拘束されている。

他国に移住して知的財産を流出させない為にだ。

若い時分、金がもらえて研究し放題という甘い餌に飛びついた事が悔やまれる。

とりあえず「テオ」には今まで通り俺の代わりにここへ居てもらうしかない。

いずれは周囲の納得いく状態で”消える”必要があるかもしれない。


 ドタバタ移住の用意をしているとずっと昼寝をしてきたアインがようやく起きてきた。

睡眠を妨げた騒音に対して文句があるかのように俺の顔を見つめる。


「ん? 何だ、アイン。お前も来るか?」

「ワン! ワワン!(やだ! 面倒!)」


 2度吠えてまたベッドに戻る。どれだけ寝るんだ。

気のせいか心の声が聞こえたような気がするぞ。薄情な奴め。

でも、ここに残る「テオ」の事を考えたらその方がいいのかもしれない。

一人じゃ寂しいからお前を飼ったんだし。


 それにしても、わからないものだ。

色々準備してたのに俺が得たのは胸の大きい美女でなくつるペタの美少女。

しかし後悔はしていない。

彼女といると心が休まる。

俺の望んでいたものは肉体的なつながりではなく精神的なつながりだったのだろう。

予定とは違うがこれはこれで満足だ。


「さあ、行こうか。」

「はい。」


 俺は長年住んだ家に別れを告げて、エリカと新たな地に旅立った。

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ホムンクルスが俺の嫁 彼女を自分で造って人生やり直す まるお @motodebu

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