第二話

ーーーーーー 次の日。

昨日の一件があったせいで、俺は朝起きるのが憂鬱になっていた。

「……はぁ。行くしかないか」

重い身体を引きずるようにしながら訓練所へと向かう。

「おっす、新島」

「おう。おはよう」

「あれ? なんか元気なくないか?」

「まぁ……色々あってな」

「そっか。大変だな」

「全くだ」

鈴木が軽く同情の言葉をかけてくれたおかげで少しだけ気が楽になった。

「よし。今日も訓練頑張るか!」

俺は気合を入れ直して訓練に臨んだ。

訓練が始まって1時間くらい経った頃だろうか。俺は王様に声をかけられた。

「シンジ殿。すまないが少し来てくれ」

「あ、はい。わかりました」

俺は言われるがままに王の元へと行った。

「なんでしょうか?」

「実は君たちにやってもらいたい仕事があってな。引き受けてくれるか?」

「もちろんです」

俺は即答する。なぜなら暇だったからだ。

「ありがとう。助かるよ」

「いえ、気にしないでください。ところで何をすればいいんですか?」

「なに。簡単なことさ。この国を襲っているモンスターを倒して欲しいのだ」

「……え? それだけですか? てっきり魔王討伐でもやらされるのかと思ってたんですけど……」

「ははは。そんなことさせるわけないじゃないか。君たちはあくまでサポート要員だ。モンスターと戦うのは私たちの仕事だ」

「そうですか……」

どうやら本当に雑用係として呼ばれたらしい。少し残念だが仕方がない。

「それでは早速行ってもらうことにしよう」

「はい」

こうして俺たちは王国を出て、依頼された場所へと向かった。

「うへぇ……。ここが例の場所かよ」

目的地に着くなり、鈴木が露骨に嫌そうな顔をする。

そこは見渡す限りの荒野だった。

「これはまたすごいですね……」

「うん。まるで地獄みたい」

クラスメイトたちも口々に感想を述べる。

「確かにこの景色を見たらやる気がなくなるのもわかるな」

「だろ? だからさっさと終わらせて帰ろうぜ」

鈴木の提案には俺も賛成だった。

「じゃあさっそく探してみるか」

「そうだね」

「了解」

「おー」

俺達は手分けしてモンスターを倒し始めた。

しばらくすると、遠くの方から悲鳴のような声が聞こえてきた。

「ぎゃぁぁ!! 助けてくれぇ!!」

その声を聞いて鈴木の顔つきが変わる。

「おい! 今の声ってまさか!?」

「ああ、多分あいつだろうな」

「マジかよ……。じゃあ早く行かないと!」

「いや、待った方がいいと思うぞ」

「どうしてだよ!?」

「だってもう戦いは終わってるかもしれないし、わざわざ危険を冒す必要はないんじゃないか?」

「それは……たしかにそうだけど……。くっ、わかった。とりあえず様子を見に行くことにする」

「ああ。そうした方が良さそうだな」

俺達は急いで悲鳴の元へと向かった。

そして現場に到着した時、そこには信じられないものが広がっていた。

「嘘だろ? これってドラゴンなのか?」

そこにいたのは全長10メートルを超える巨大な竜の姿だった。

「どうなってんだよ……! こんなの聞いてねぇよ!」

「落ち着け、鈴木。まずは冷静になるんだ」

「ああ、わかってるよ。クソッ! こうなったらやるしかない!」

「待て、俺達で勝てる相手じゃない」

「ならお前はこのまま黙って見ていろっていうのか!?」

「そんなことは言ってない。ただ、今は仲間を呼ぶべきだと言っているだけだ」

「……どういうことだ?」

「ここは一旦退いて、みんなを呼んでくるんだ。それで協力しながら戦う」

「なるほどな。よし、じゃあすぐに戻って皆を連れてこよう」

「ああ、頼んだぞ」

俺は鈴木を見送った後、改めて目の前にいる竜を見つめた。

(こいつはヤバいな……)

一目見ただけで普通ではないことがわかる。おそらくレベル30は超えているだろう。

「グオオォォン!!!」

竜がこちらに向かって吠えてくる。どうやら完全に標的として認識されてしまったようだ。

(逃げ切れるか?)

俺は一瞬逃げることを考えたがすぐに思い直す。

よく考えればここで逃げたところで何も解決しないのだ。それならばいっそ戦ってしまった方がまだマシだと思った。

(それにしてもなんでいきなり現れたんだ?)

俺は疑問に思ったが、その理由はすぐに判明した。

突如として地面が大きく揺れ出したからだ。

「なんだ!? 地震か?」

俺は咄嵯に身構える。しかし、いつまで経っても地面が割れることはなかった。

その代わりと言ってはなんだが、地の底から何か大きなものが這い上がって来るような音が聞こえてきた。

「何が出てくるかわからない。みんな警戒しろよ!」

俺はそう叫ぶと、いつでも魔法を発動できるように準備した。

それから数秒後に地中から姿を現したのは、先ほどの竜とは比べ物にならないくらい巨大なモンスターだった。

(デカすぎだろ……。なんなんだよコイツは……)

そのモンスターは一言で表すなら、"巨人"であった。身長は20メートル以上あるように見える。

その巨体に圧倒されそうになるが、なんとか気合で持ち堪えた。

「オマエハテキカ? ナラバコロス」

巨人の口からはそんな言葉が発せられた。

「敵だと認識されたみたいだな」

「ソウダ。タタカエ」

「断ると言ったら?」

「コノキョジンヲヨビダス」

そう言うと、巨人は後ろを振り向いて誰かを呼んだ。「誰が来るんだ?」

少し待っていると、背後の空間が歪み始める。そして次の瞬間には3体のモンスターが現れた。

それは人型ではあるが明らかに人間ではなかった。

まず目についたのはその外見である。全身が真っ黒なのだ。

次に特徴的なのは頭に生えている2本の角だ。

最後に最も異様なのは体の大きさであろう。通常の人間の5倍はありそうである。

「あれは……悪魔か?」

俺はその姿を見て呟いた。

「正解だ。あの黒い奴らは魔王軍の幹部たちさ」

突然、横から声が聞こえてきたかと思うと、そこには王様がいた。

「王さま!? どうしてここに?」

「いやなに。ちょっと様子を見に来ただけさ」

「そうですか。でも危ないですよ」

「心配はいらないさ。それよりも君たちの方は大丈夫なのかい? さっきから見てると随分苦戦しているみたいだが……」

「ええ。正直かなり厳しいです。特にこの巨人はかなり強いですね」

「そうだね。でも君たちにはこの国を守ってもらわないといけないからね。だから悪いけどもう少し頑張ってくれないか?」

「わかりました。できるだけやってみます」

「うん。よろしく頼むよ」

「はい」

俺が返事をすると、王様は再び姿を消した。

「どうする? 戦うか?」

俺は仲間たちの方を向いて尋ねた。

「もちろんだよ! こんな所で負けられないもん!」

真っ先に答えたのは茜だった。それに続くように他のメンバーたちも口々に同意の声を上げる。

「よし! じゃあ作戦を伝えるぞ」

こうして俺達は巨大モンスターとの第二ラウンドを開始した。俺達はまず、お互いの役割を決めることにした。

「俺は正面から攻撃してみる。みんなは援護してくれ」

「わかった」

「任せて!」

「了解」

俺の言葉に全員が力強く応える。

「じゃあ行くぞ!」

俺は一気に駆け出すと、そのままの勢いで殴りかかった。

しかし、その拳はあっさりと受け止められてしまう。

(やっぱり無理か……)

俺はすぐに距離を取ろうとしたが、相手はそれを許してはくれなかった。

俺を掴んだまま大きく振りかぶる。そして地面に叩きつけようとしたその時、俺の仲間達が一斉に攻撃を仕掛けた。「〈雷光〉!!」

「〈風刃〉!!」

「〈氷槍〉!!」

「〈闇弾〉」

それらの魔法は全て巨人に命中した。しかし、巨人は全く怯むことなくこちらに向かってきた。

どうやら魔法耐性があるようだ。

「クソッ!魔法じゃダメなのかよ」

俺は悔しさを滲ませながら再び巨人に向かっていった。

その後も何度か攻撃を繰り出すが全て防がれてしまった。

俺は一旦後ろに下がると、仲間たちに声をかけた。

「みんな、今から全力でいくぞ!」

「わかった!」

「了解」

「まかせてー」

「いつでもいいぞ」

「よし! じゃあ全員で総攻撃だ!」

「「「「おぉ!!!」」」」

それからはひたすら攻撃を繰り返した。何度も殴られ、蹴られ、それでもなお諦めずに戦い続けた。

やがて巨人の動きが鈍り始めた頃、遂に決着がついた。

「これで終わりだ!!」

俺は渾身の一撃を放った。その攻撃は巨人の腹部に直撃し、大きなダメージを与えた。

しかし、それと同時に巨人の反撃を受けて吹き飛ばされる。

なんとか受け身を取って立ち上がったが、既に限界を迎えていた。

他の仲間達も似たような状況であり、もはや万事休すかと思われた時、空から一筋の光が降り注いだ。

「な、なんだ!?」

俺は咄嵯に身を屈めて頭を守った。そして数秒後、ようやく顔を上げた時には、目の前にいたはずの巨人は跡形もなく消え去っていた。「助かったのか……?」

俺は呆然としながら呟くと、不意に後ろから声をかけられた。

「よくやったな少年よ」

「誰だ!?」

慌てて振り返ると、そこには金髪碧眼の男がいた。年齢は20代後半くらいに見える。

その男は、白い鎧のようなものを身につけており、腰には剣を携えている。

「私はこの国の騎士団長をしているものだ」

「騎士様ですか……。それで助けてくれたんですね」

「ああ、その通りだ。君たちはこの国の危機を救ってくれた。礼を言う」

「いえ……。それより一体何があったのですか?」

「それは私にもわからない。ただ、急に現れたあの巨人が暴れ出したのだ」

「そうなのですか……。ではなぜ俺たちを助けてくれたのですか?」

「それは君たちがあのモンスターと戦っているのが見えたからだ。もし君たちがいなければ多くの犠牲が出ていたことだろう」

「そうですか。それは良かったです。ところであのモンスターはなんだったのでしょう?」

「あれはこの城の地下深くにある"迷宮"と呼ばれる場所の主のはずだ。それがどうして地上に出てきたのかは不明なのだが……」

「なるほど……そうだったのですね」

「とにかく今は城の復旧作業を優先したい。詳しい話はまた後日という事で構わないか?」

「ええ。大丈夫です」

「そうか。それならよかった。では失礼する」

そう言うと騎士は去っていった。

「なんかすごい人だったな……」

俺は思わず呟いた。

「そうだな」

「うん……」

「すごかったよね」

「確かに……」

仲間たちも同様に感じたようで、口々に同意していた。

「まぁとりあえず今日は帰ろうぜ」

「そうだね……」

「賛成」

「おう」

こうして俺達は城に戻ってきた。

「ふぅ〜疲れた〜」

部屋に戻った俺はベッドの上に倒れ込んだ。

「本当に大変だったね」

「そうだな。でも結果的にはこの国を守れたんだから良しとしよう」

「うん! それに凄いアイテムも手に入ったしね!」

茜は満面の笑みを浮かべながら言った。

「ああ。まさかあんなに強い敵が現れるとは思わなかったけど、無事に倒せて良かったよ」

「そうだね! でも、もっと強くならないとだね!」

「うん。これからも頑張らないとな」

「うん!」

それからしばらくすると、茜は眠ってしまった。よっぽど疲れたんだろう。

俺は茜に布団をかけてから眠りについた。

翌日、俺は昨日の戦いについて考えていた。

(あの悪魔は強かった。だけど、同時に疑問もあるんだよな……)

俺は今まで戦った敵のことを思い出してみた。

(魔王軍の幹部クラスは、みんなかなりの強さを持っていた。でも今回の相手は、それよりもさらに強い。そんな相手に俺達が勝てたのは何故だろうか?)

俺は考えれば考える程、分からなくなってきてしまった。

(やっぱり俺達はまだまだ弱いってことなのか?……いや、違う。そもそも俺達が戦ってきた相手は、どれも格上ばかりだった。だから、単純に俺達が強すぎるだけかもしれない。だとしたら、俺達が強くなるためにはどうすればいいのか……)

俺はしばらくの間、悩み続けたが答えは出なかった。

「はあ……ダメだ! 考えても分からないものは仕方ない! とりあえず街に出て気分転換するか!」

俺は悩んだ末に、思い切って出かけることにした。

外に出た俺はまず武器屋に向かった。理由は単純で、新しい装備が欲しかったからである。

店内に入ると、そこには様々な種類の武器が置かれていた。

「うわー! こんなにたくさんあるなんて知らなかったよ!」

「そうだろ! ここには色々な種類があって面白いぞ!」

「本当だ! いろんなものがあるね!」

「ああ。ちなみにお前さんは何を使うつもりなんだ?」

「僕は槍かな。リーチが長い方が戦いやすいし」

「そうか。ならこれなんか良いんじゃないか?」

そう言って店主が持ってきたのは槍ではなく、大剣だった。

「いやいやいや、僕には大きすぎると思うんだけど……」

「そうか? だがこいつは見た目より軽いし、扱いやすくてオススメだぞ」

「そっか……。じゃあちょっと試させてくれる?」

「おう、もちろんいいぜ」

俺は剣を持って構えてみると、意外としっくりきた。

「うん、悪くなさそうだ。これにするよ」

「そうか。なら少し安くしておくぜ」

「ありがとう」

俺は代金を払って店を出た。そして次に防具を見に行くことにした。

「おっ、ここか」

そこには全身を覆うような鎧から、胸当てなどの軽めの物まで幅広く置かれていた。

「へぇ〜色んな種類があるんだな」

「ああ。何か気に入ったものがあれば言ってくれ」

「わかった」

俺はじっくり見て回った後、一つの鎧を選んだ。それは、動きやすさを重視したもので、銀色の光沢を放っている。

「よしっ、これで決まりだ」

俺は鎧を受け取って身に付けた後、ついでに盾も買った。

「さて、次はどこ行こうかな……」

特に行くあてもなく歩いていると、見覚えのある顔を見つけた。

「あれは確か……」

そこにいたのは昨日の騎士団長だった。

「あの人もこの辺りに住んでるのかな?」

そう思って声をかけようとしたが、すぐに立ち止まった。なぜなら、その隣には綺麗なお姉さんがいたからだ。











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クラス転移から始まる世界の主を決める戦い 如月 愁 @yokoshu

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