第91話 もっと光を……

 酔っぱらって、食って。

 大騒ぎをした次の日。


 もう一度、竜人の里へ行く。


 まだ里では、酔っ払いが、ゾンビのように徘徊していた。


 どんだけ飲んだんだよ。


 古竜も、まだ人化したまま、飲んでいるし……。

「おい、邪神退治するんだろう」

「うん? おお、おぬしか。案内しよう」

 と言って、立ち上がるが。


 ふらつき。完全に千鳥足だ。

 竜なのに……。いや、言うまい、周りの目が怖い。


「いや。転移しよう」

 そう言って、皆を連れて転移をする。


「ここだよな?」

「ひのふのみ。おう。ここじゃな」

 言った瞬間。

 ふらつき、火口に落ちそうになる古竜。


 慌てて、後ろから支える。

「危ないから、下がっとけ」

 と、言って、火口外輪から、外側に押し出すと、落ちて行った。

 結構派手に……。人間なら死んでるな。


「竜だから、大丈夫かな?」

「あ奴の事だ。大丈夫じゃろう。放っとけ」

 そうフェンが言ってくれた。

 他は完全にジト目だ。

「ああまあ。それならやろうか」


 気を取り直してそう言うが、なぜか皆が無言のまま。


 邪神が湧いてきた火口の周りに集まる。そして静かに、いつものようにシールドを展開する。じとっとした視線が痛い。


 そして、聖魔法を、火口に向かって撃ち込む。


 なぜか、撃ち込む力を増しながら、俺はヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテのように「もっと光を!」 と叫んでいた。


 そして更に力を増す。

 すると、ほかの噴火口からも光が噴出した。


 黒い霧が、真ん中の火口から吹き上がって来た。

 それを見て、「ぐっ」。

 さらに力を籠める。


 その時。何かが割れるような音が頭の中で響く。

 俺の意識が広がる感じがして、この星。

 いや、この宇宙。すべての状態が分かるようになった。

 それと同時に、何十倍もの力があふれて来た。


 多分。その時。

 この星すべてを、俺は浄化したのだと思う。


 何千年か昔に。

 ハイヒューマンにより行われた浄化の再現。

 それプラス。星の内側からも浄化。


 吹き上がっていた黒い霧も、消滅したのが見えた。


 それを見て力を抜く。

 すると、星全部を包んでいた光が収まって行く。


「うん?」

 なぜか、俺自身が光っている。

「さっき。もっと光をって、言ったせいか?」

 俺がそう言うと、

「主。力が……。これは、収めて何とかなるような、ものじゃないのう」

 フェンがあきれていた。


「あー。えらい目に遭った」

 古竜も這い上がって来た。


 怪我はないが、ドレスが破れて、えらくセクシーだ。

「酔いも、ケガも治ってしまった。おおっ。おぬしはそうか、神じゃったのか」

 俺の姿を見て、古竜もそんなことを言う。


 この神獣の二人以外は、近づきもせず。

 口をパクパクしている。

「どうした?」


 皆の方に向きなおして聞くと、

「うーん。神々しいというのが、正しいと思う」

 みちよがなぜか、あきれたような表情をしている。


「別に、俺のせいじゃないだろう?」

 と言ってみたが、

「そうだけど、ちょっと複雑。近づきがたいのよ」

 ほかの4人も、こくこくと頷く。


「まあ、里へ一度帰ろうか」

 と言って、転移をする。



 転移してきて、里の中を見ると、さっきまでゾンビが居たのに。

 全くいなくなっていた。

 ああ。酔っ払いも状態異常なのか?

 さっきの浄化で、強制的に冷めたのか。


 そう思ったら、一同が跪いた。

「あー。良い。普通にしてくれ」

 そう言うが、ぷるぷるしている。


「だめだな。帰るか」

 後ろを振り返り皆を見ると、フェンと古竜がごそごそ話をしている。

「帰るなら、ついて行く」

 と古竜の宣言。


「まあ良いか」

 転移して、拠点に帰って来た。


 ビールを、グラスに注ぎ、どさっとソファーに座る。

 ぐっと飲んで。


「これで、俺の仕事は、一応終わりかな?」

 誰ともなく聞いてみる。


「そうね。たぶん」

 そう言うと、みちよが横に座る。


 それを見て、他の者たちも椅子に座る。


 しみじみと、これまでの事を振りかえり。

 結構あっという間だったと。

 思いをはせていると、古竜が「なんか食わせろ」と言い出した。

 昼飯を作り始めることになってしまった。


 フィーニクスのブロックが残っていたので、オムライスを作ることにした。


 ワイワイ言いながら、オムライスを作っては並べて、スープはコンソメかチキンスプかなと考えていると、家の表が騒がしくなってきた。


 表に出ると、各国の王が、先ほどの光について、聞きに来たようだ。


 そして、俺のせいで近づけず。

 うろうろしていたようだ。


「神代殿。その力は、いったい?」

「ああ。階位が上がって、力が解放されたようだ」

 言っては見たが、自分自身。良く分からん。


 そしてまた、一人増えているのを見て、

「その方は?」

「ああ。こいつは古竜だ。人化しているがな」

 そう言って、紹介すると、

「おお。また1柱。神獣様が」

 わいわい騒ぎ出したので、おれは

「飯を食うか?」

 と聞いてみた。


 頷くのを見て、外にもテーブルを出す。


 追加で、オムライスを作り並べていく。

「変わった料理ですな?」

 とパズズが言ってくる。


「俺たちの国にある料理で、オムライスというんだ。うまいぞ」

 しらっと勧めて、頃合いを見て説明する。


「どうだ。うまいだろう」

「そうじゃな、この鶏肉が素晴らしい。噛めば噛むほど味が滲んでくるようじゃ」

 獣人族の王。レイが、らしくないコメントを言う。


 そこで、こいつらのあがめる神獣だったことを思い出し、言うとやばいかと思い出した時。フェンが言ってくれた。

「そうだろう。こいつはフィーニクスじゃからな。めったに食えんぞ」

 それを聞いた瞬間。場が凍りついた。


「フィ、フィーニクスとは。あの火口に住んでいる。あのフィーニクスでしょうか?」

 ソレムニティーの王。トゥランが、恐れながらという感じできく。

「そうだぞ。こいつらは、うまいのだ」

 そう答え、ぶった切るフェン。


 各王が、顔を見合わせる。

 だが諦めたのか、やれやれという感じで、また食い始めた。


 話をそらすためにも、皆に説明しよう。

「それで。今朝の光は、この星そのものを浄化した。それにより邪神は滅んだと思う」


 俺がそう言うと、

「まことですか」

 と、前のめりで聞いてきたソレムニティーの王。トゥラン。

 口元にべったりと、ケチャップが付いている。

 レイの方が、上品に食っているな。


「ああ。たぶんな。星の状態は見ておくが。まず、大丈夫だろう」

「それは、すぐに知らせねば」

 自身はそう言うが、腰は上がらない。


「なんだ? お代わりか」

 そう聞くと、こっくりと頷く。王たち。


 オムライスを作る間に、ソテーも作ってみる。

 甘辛いソースを作りながら、南蛮の方が良かったかもと思い、追加する。


 そして、乾杯せねばということになり。

 気が付けば、2日続けての、フィーニクスパーティーに突入していく。


 その間にも、各国宰相が、帰ってこない王たちを、追いかけてきて混ざり、並木君たちも混ざり、宴は混迷を深めていく。


 いつの間にか、多くなった友人を守り。見守っていく。

 そんな気持ちを固めた所で、焼き鳥の追加と、古竜からの眷属希望がやって来た。


 やれやれと思いながら、俺は焼き鳥の準備を始める。


「ふふっ、良いわねこういうの」

「ああ」

 わいわいと、騒ぐ皆を眺めながら、この平和を維持しつつ、星を守っていこう。

 そう思いながら、山椒を振りかける。

 塩で焼いて、梅肉も良いかもな。


「ああ。美味い」





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 ということで、これにて終了となります。

 お読みくださった方々に、御礼を申し上げます。


 90話で終わらす予定が、フィーニクスを食わせていないと思い。

 1話伸びました。

 美味い焼き鳥が食いたい、今日この頃。

 願望がはみ出しました。

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