第90話 火口に潜む神獣

 みんなを連れて、戻ってくる。

 すると、村の皆がフェンに跪いていた。

「なんだこれ?」

 思わず、声に出してしまった。


 するとフェンが。ふふんという感じで、

「我(われ)がフェンリルと、気が付いたようだ」

 そう言って、偉そうにしている。


「それで。古竜はどこへ行った?」

「あ奴には、2・3匹。フィーニクスを捕まえてくるように、使いを頼んだ」

 あらまあ。

「それは、お前がうまいと、さんざん吹聴していたやつだな」


 話していると、村人が復活したようだが、足が震えている。

〈すまない。力は抑えているのだが、これ以上は抑えきれなくてな。すまんが慣れてくれ〉

 と、言ってみる。


〈はっ。無様をお見せして申し訳ありません。どうぞこちらへ。古竜様もすぐにお戻りになるでしょう〉

 案内をされて、ついて行く。


 一軒の家に、案内される。

 縁側に土間。懐かしい感じの家だった。

 屋根は、木の皮で葺いてあるようだ。


「なんだか懐かしい感じの、家屋ね」

 みちよが言う。


「まだ、若いのに。こんな感じの家を知っているのか?」

 思わず聞いてしまったが、

「当然、テレビで見たのに、決まっているじゃない」

 と、返されてしまった。

 そりゃそうか。



 そこで、器に水かと思ったら酒だった。

 まあ酒を飲み、ゆっくりしていると。

 空に、口に一羽。両足に一羽ずつ捕まえて古竜が帰って来た。


 それを見ただけで、すでにフェンは、よだれが垂れている。


 到着すると、

〈右端の火口以外は、大事無いようだ〉

 古竜はそう言うが、なんとなく浄化をしておいた。


 フィーニクスは、一見羽毛のようだが、ガラス質の鱗が生えており、火口にいると赤く見えるようだ。見た目は真っ白なクジャクに近い。

 ただまあ、3mくらいの体長がある。


 竜人達が、てきぱきと捌いていく。

 村の中央に、丸く石を組み。そこに火を起こしていく。

 

 一つは、古竜用だろうか? でかい塊が、槍に刺されて焼かれ始めた。

 その周りに、握りこぶし程度の肉が、木の串に刺されて焼かれ始めた。

 肉から油が滴り、いい匂いが辺りに漂い始める。


 村人も、俺たちもうずうずしながら、焼けるのを待つ。


 表面に焦げが出て、さらに滴る油の焼けるにおいが暴力的になって来る。


「もう。我慢が出来ん」

 と言って、フェンが一本。

 串を取りかじりついた。

 その瞬間。村人がざわっとしたが、古竜から

〈よいよい、元はそのフェンリルが所望したものじゃ。食わしてやれ〉

 と念話が入った。


 ああまあ、普通。

 古竜が一番に食うんだろうな。

〈申し訳ないな〉

 と一応、古竜に念話を送る。

 するとなぜか、ふふっと笑うのが分かった。

〈本当に、フェンリルと家族のようだな〉

 と念話と共に、うらやましいという感情まで、聞こえてきた気がした。



 その後、順番の通り、古竜が塊を取り。

 皆が一斉に取り始めた。

 確かに、肉質は弾力があり、油も甘い。

 そしてかみしめれば、濃厚なうまみがしみだして来る。上等な地鶏のモモ肉のようだ。


 だが俺と、みちよは顔を見合わせると、軽く塩コショウを振ってもう少し炙ってみる。

 うん。今度は、醤油を刷毛で塗って炙る。


 何と言うことでしょう。

 一段と味に深みが増し、2人でがっついた。


 それを見ていたフェンが、串に刺さった肉を、こちらに向けてくる。

 俺たちの料理になれたフェンも、記憶の中ほどのうまみが、感じられなかったのだろう。


 串の上で肉を切り、前半分に酒、塩コショウと、後ろ半分に醤油を塗ってやる。

 ホクホクしながら、もう少し焼きを入れてから、頰張る(ほおばる)。

 うん満面の笑みだな。

 そして、醤油側も食べると、なんだか、うんうんと頷いている。


 それを、周りで見ていた竜人たちも、物欲しそうにしていたので、バーベキューコンロを取り出して、炭を並べる。

 バーベキュー用の、長い串に肉を刺す。


 一つは、塩コショウ。

 一つはみりんも入れて、味を調え。

 たれ焼きにした。


 初めてだろう。

 焼き鳥の暴力的匂い。

 竜人たちも、耐え切れなかったようだ。

 焼けるのを待つ間、よだれを垂らしながら並び始めた。


 焼けて、食えるとなったら、奪い合いをして取っていく。


 ふと見ると、古竜が居なくなっていた。

 そして、目の前には、焼き鳥の串をほおばる。

 美人な、黒髪のお姉さんが立っていた。


 ただし、服を着ていないけどね。

 思わず、目が釘付けになった。


 みちよとサラスが服を取り出して、着させていたが、タレがよだれと一緒に垂れ。すごく残念な感じだった。


「ぬおー。これは、何ともうまい」

 と、大絶賛だ。


「人化までして、なんともまあ」

 フェンがふふーんという顔で、見ているが、お前も、服にタレが落ちているぞ。

 そこで思い出して、サンドイッチとおにぎりも並べていく。


 結局。夕方まで俺は、焼き鳥屋をする羽目になった。

 疲れたよ。


 古竜が人化したせいで、あまった1羽を、貰ったけどね。

 

 後日。俺たちの喰っている料理を、フェンが自慢するせいで、古竜まで眷属にすることになった。


 一度拠点に帰り、風呂へ入る。

 髪の毛に、しっかりと染み付いた。

 タレの匂いを、洗い流してさっぱりとする。


 そして、風呂上りにビールを飲みながら、チキンステーキに大根おろしを乗せて、ポン酢でつまんでいたら、周りを囲まれて、人数分作ることとなってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る