第89話 竜の里
すっかり拗ねてしまった、サラスのご機嫌を取り。
今度は、それを見ていて、機嫌の悪くなったみちよのご機嫌を取り。
これまた、次は私の番とやって来た。
テレサとテレーゼたちの相手をして、すっかり疲れたころ。
家の外に、一匹の竜が飛来をする。
〈力あるものよ。助けてください〉
そんな念話が、頭に響く。
フェンと俺が出て行き。
対峙をする。
〈なんじゃおぬし。山向こうの、古竜じゃないか〉
竜は、胡散臭そうに目を細めたが、
〈フェンリルか? なんじゃ。その姿は?〉
〈今は、主に使えておるからの。当然、姿も合わせただけのこと〉
そうして、まじまじと俺を見る古竜。
〈申し訳ありません。その力。理解いたしました〉
そういや。俺が管理者の宣言してから、力が抑えきれないんだよな。
〈それで。どうした? まあ昨日。ソレムニティー王国に、邪神に染められた竜たちが来ていたから、それの事だろう〉
俺が言うと、あたふたしながら念話をし始めた。
〈そうなのじゃ。突然、奥の火口から黒き霧が噴出して、近くにいた者たちが捕まってしまった。このまま広がると、里が滅んでしまう〉
〈わかった。奴のせん滅は、俺たちの仕事でもあるからな。案内してくれ〉
竜なのに、顔が、ぱああっと明るくなったのが分かった。ううむ不思議だ。
フェンと供に、背中に乗せてもらい。飛び上がる。
霊体で飛んだことは何度もあるが、生身だと寒い。
シールドを、流線形に張ってみる。
山脈を越えて、反対側へ。
〈一度。我らが里へ、ご案内いたします〉
〈ああ。分かった。頼む〉
奥の方に、火山が噴煙を上げている。
そんなものが、いくつかの連山になっている。
〈あそこにいた、フィーニクスも。邪神に染められたとしたら、もったいないことだ。先に食ってしまえば良かった。惜しい事じゃ〉
フェンがぼやく。
〈どうでしょう? いくつかあるので、大丈夫では? 見てきて馳走しましょう〉
古竜が言うと、フェンが
〈それは良い。楽しみにしておこう〉
満面の笑みで、すっかりご機嫌だ。
フェンから、繰り返し聞かされた。幻の鶏肉。
どんな味だろう? 先にみんなを、迎えに行かないと怒られそうだな。
そんなことを考えていると、里が見えてきた。
うん? 普通の家があるな?
竜も人化しているのか?
古竜が来たのに、気が付いた人々が、頭を下げる。
体に、鱗(うろこ)が生えている。竜人か?
ラプトルのような恐竜が、そのまま進化すればこうなるのか? でも恐竜に鱗って生えていたか? そんなくだらないことが、頭に浮かぶ。
〈ようこそ里へ。ご足労を頂きまして、ありがとうございます〉
いきなり、念話がやって来た。これは、古竜に対するものか? 判断に悩むな。
着陸した古竜の背から、俺たちが降りると、おおという感じで驚いているから、先の言葉は古竜に対するものだったか。返事をしなくて良かった。
〈我では、力不足の為。力添えを頼み。来ていただいた。無礼なことをするでないぞ〉
古竜が念話をすると、みんなが一斉に、頭を下げる。
こっちも、頭を下げておこう。
〈とりあえず。場所は分かったから、家族を連れてくる〉
念話をして、ゲートをくぐる。
家に帰ると、まだみんなぐったりしていたが、起こして説明をする。
構えを待つ間に、軽い朝食を作っておく。
俺も腹が減ったし。
フェンにも、サンドイッチでも作っておこう。
そんなことをしている時。
村では。
〈いきなり、客人が消えたぞ〉
〈先ほど念話で、家族を連れてくると、告げて行ったではないか。落ち着け〉
古竜が告げて、落ち着きを取り戻す。
フェンが、
〈それで。邪神は、どこの山におるのじゃ?〉
と聞くと、
〈こっちから見て、一番右の山じゃ。炎が暗かろう〉
そういわれると、確かに暗い。
村人。
先日。古竜様が村に現れて、〈火の山から、穢れた物が出てきて。若い竜が穢れに触れてしまった。触るとうつるので、近づくでないぞ〉と聞いたと告げられた。
村の住人は、恐れながらも空を眺めていたが、1匹の若い個体が、染まった2匹を捕まえてどこかへ行ってしまった。
古竜様は〈馬鹿者が〉と仰っていたから、触ったために穢れがうつったのだろう。
そうして、しばらく何かを考えておられた古竜様は、何かを見つけたように飛び立ち、ヒューマン? を連れた来た。
ヒューマンは、ずいぶん昔。
手に武器を持ち。俺たちの里に戦いを挑んできた奴らだ。
古竜様は、力添えを頼み。来ていただいた。と仰ったが、村の年寄りたちから、緊張が伝わる。
確かに、力はあるのだろう。
先ほど、姿を消したものが、この場に居たときは、足が震えた。
絶対に勝てないような、力を感じた。
だが。今いる白い奴も力がないわけではないし、古竜様とずいぶんとなれなれしい。
ヒューマンの姿を取っているが、何者だろうと思っていると、
〈フェンリルよ。あの方は帰ってこられるのだろうな?〉
念話で古竜様が問われると、
〈大丈夫じゃ。おぬしは、フィーニクスを2つ3つ捕まえて来い〉
と、命令した。
古竜様に命令とは、いったい何者。……いや、先ほど古竜様は、確かフェンリルと仰った。
何と言うことだ、神獣様ではないか。
ほかの者たちも、気が付いたのか、一斉に跪く。
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