第88話 一難去って、やっぱり

 妹テレーゼが、王につかみかかりそうだが。

 俺たちを見かけると、ビクッと驚いて、物陰に隠れてしまった。


「私にお任せください」

 そう言って、テレーゼが、近づいていく。


「ねえ。テレーゼ。あなたも管理者なら、コンソールで現状の把握が優先じゃないかしら?」

 先に出た、テレーゼが忠告をする。それを聞き、

「そうだわ」

 と言って、妹テレーゼが、転移エリアへ入る。


「同じ私ですから。おバカじゃないと、いいのですが……」



 しばらくすると、帰って来た。

「どうして私まで、起こしてしまったのよ」

 そう言って、膨れている。


「まあ。それについては、すまない」

「あなたは?」

「神代篤司。ここではない世界の、ハイヒューマンだ」

「同族なの?」


「ええ。そうよ」

 そう言って、なぜか姉?の、テレーゼが胸を張る。


 怪訝そうな目で、こっちを見つめる妹テレーゼ。


「じゃあまあ。帰ろうか」

 そう言い、転移をする。


 拠点に帰ると、ソレムニティー王国から連絡が入ってきていた。

「なんだ?」

 確認すると、黒い霧を纏ったドラゴンが来襲。

 と、メモが転送されてきていた。


「邪神に乗っ取られたドラゴンが、ソレムニティー王国に来ているらしい」

 すぐに、王城へ飛ぶ。

 宰相プレミエが、こちらにやって来た。


「神代様、あちらに2匹。そちらに1匹でございます」


「分かれていると面倒だ。樹海の上へまとめる」

 一匹の方を、シールドで捕らえて、2匹が居る樹海の上に転送させる。


 3匹が同じエリアに入った瞬間に、3匹をまとめて、シールドに捕らえる。


 地面というか。木の上だが。

 落とすと一気にシールド内部へ、聖魔法を充填させて行く。

「お手伝いします」

 と言って、姉のテレーゼが、聖魔法を撃ちこむ。


 ほどなくして。

 3匹は消えたが、結構な範囲が汚染されたらしく、やばそうなエリアを、重点的に浄化する。

 その他の所は、念のため軽く浄化した。


 それを見て気になったのだろう。

 パズズとレイが、王城のゲートを使い、自分たちの国へと帰っていった。


「あのドラゴンたちは、山脈の間で繁殖をしていたやつらだな」


「一度は見に行かないとだめよね」

 みちよが、肩に寄りかかって来ながら、聞いて来る。

「そうだな。とりあえずは帰るか」


 そう言って、一度拠点にみんなで帰った。



 テレーゼ妹は、周りをくるくる見ていたが、

「こういうのって、なんていうんだったかしら?」

「ふふっ。ナチュラリストでしょ。自然愛好者とか」

 テレーゼがそう言うと、妹の方が頷く。

「そうそう。昔にもいたわね」


「それは、オリジナルの記憶だよな」

「当然。そうなるわね」


「共用している今までの記憶は一緒だが、個人としてはこれから別の記憶を持つことになるな」

 俺が言うと、二人はきょとんとしていたが。姉の方は、

「ふふっ、そうね」

 と赤くなった。


「おなじ名前もややっこしいから、神代様。私の名前。付けてくださらない?」

 珍しく、俺の肩に手を添えて、テレーゼがお願いをしてきた。

「うーん。俺たちの世界で、語源が同じだから、名前をテレサにするか」


 それを聞いた、姉の方は小首をかしげて、唇の端に人差し指をあてて考える。が、

「そうね、いいかも」

 と言って、フフッと笑う。


「俺たちの世界での、有名な女神さまの名前だぞ」

 俺が言うと。


 みちよが、

「それって、アニメの話じゃないの?」

 肘で突っついてきた。

「嘘は言ってないだろう」


「じゃあ妹は、サーシャにしなきゃダメじゃないの?」

「そっちは、女王スターシャ。テレサはテレサだよ」

「あれー?」

 まだ頭をひねっている。

 まだ地球に帰ることができないから、見せることもできない。


 家の中に入って、落ち着き。

 皆にお茶を出す。

 テレーゼじゃない。

 テレサの方が、飲み方を教えている。



「晩御飯は、あっさり食べやすいものがいいよな。まだ、テレーゼは胃がなじんでいないだろう」


「そうね。あのコーンスープ? ポタージュ? その辺りでしたら、よろしいかもしれませんね」

 テレサが言うと、

「それって、なんです?」

 と、テレーザが言う。


「あのねえ。とっても素晴らしい物」

「あれ? あなたって普通に食べていたわよね」

 みちよが聞くと、

「この体と、オリジナルの体。記憶について齟齬がありました。今日あの装置を見て確信しました」


 アッと言う顔をして、納得するみちよ。

「そうか。体は新品なのに、記憶は生前のままだから、自分が経験したものとして記憶があるのね」

「ですので、私の時には少し無理をしたのだと思います。自分でもわかっていませんでしたけどね」

 と言って、「てへっ」と、自分の頭に拳骨を落として舌を出す。

 誰に習った?


「まあそうだな。ゆっくり、慣らした方が良いだろう」


 俺が言うと、

「でも。神代様とつながる儀式は、いただいた方がいいかも」

 ぽっと赤くなりながら、テレサが言うと、それを聞いて、みちよが

「儀式って、あなたねえ」

 と言う。

「オリジナルの記憶の中に、親から教えられた聖なる儀式だからと、記憶があります」


「ああまあ。そうなのかもね」

 みちよも納得したようだ。


「まあ。夕食を作るよ」

 台所へ向かう。

 テレーゼたちは、フェンたちと一緒に、お風呂へ行ったようだ。


「……なあ、みちよ」

 俺の肩に頭を持たせかけて、

「なあに」

 と言いい。

 ふふっとほほ笑む。


「サラスは、どこへ行った?」

 それを聞いて、ちょっとむっとした顔になる。

「この雰囲気で、ほかの女。…… そういえば、変ねえ。どこかしら?」


 その頃。

 ソレムニティー王国で、人々を見舞い。

 ほっとしたサラスは、また自分が、おいて行かれたことを理解した。


 泣きながら王城へ行き。

 連絡用の魔道具を借りて連絡する。

 すると、今料理をしていて手が離せない。

 王城にある、家へつながるゲートで、帰って来いと言われ、余計に落ち込む事になる。

「最近、私の扱いが……」

 脳裏に浮かぶ幾人かの顔。

 負けるものですか。

 そう思いながら、ゲートをくぐる。

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