第3話

   

「お姉ちゃん! 起きてよ、お姉ちゃん!」

 いつのまにか眠っていたらしい。妹のアンナに体を揺すられて、私は目を覚ます。

「あら、アンナ……」

「『あら』じゃないよ! 着いたみたいだよ!」

 航行中は微妙に振動していた船体が、完全に静まり返っている。確かに、目的の惑星に到着しているようだ。

 他の二人の方に視線を向けると、エミィと目が合う。彼女は微笑みながら、小さく頷いていた。

「エミィの情報によれば、ここは完全自動化の星。リゾート惑星だから、怖い監視兵もいないんだよね?」

 ちょうどアンナの言葉と同時に、貨物室の扉が開き始める。

 突き刺すような寒風が吹き込み、驚きの光景が視界に入ってきた。

「嘘……!」

 真っ黒な骸骨顔の機械兵たちがズラリと並んで、こちらに銃を向けていたのだ。


「ようこそ『スラム7』へ。新たな労働力として、あなたたち全員を歓迎します」

 中央の機械兵が歯をカチカチ鳴らしながら、人間みたいに流暢な言葉で告げる。機械兵特有の電子音なのに、なぜか少しエミィの声と似ているようにも聞こえた。

「『あなたたち全員』って、どういう意味? 私だけは助けてくれるんじゃないの?」

「そうよ、話が違うわ! ……え?」

 ほぼ同時に叫んでから、アンナとリサが顔を見合わせる。二人とも「あなたも?」という表情だった。


 ああ、密告者は私だけではなかった。みんなエミィを信じていなかった……。

 自嘲気味に呆れながら、ふとエミィを見つめれば、彼女は表情を失って、体の動きまで停止していた。

「どうしたの、エミィ?」

 私はこの時、まだ真相に気づいていなかったのだ。

 数年前からエミィはスパイ・アンドロイドと入れ替わっていた、ということに。




(「密航者の中の密告者」完)

   

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密航者の中の密告者 烏川 ハル @haru_karasugawa

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