9


 7年前、3月。


 祠の側ににいる僕に「寒いから、そろそろ帰ろう。」とまだ高校生だった姉が言う。


 その帰り道のことだった。


 突然強い揺れを感じて、姉は僕を抱きながらその場にしゃがんで揺れを凌いでいた。


 やっと揺れが収まって帰ろうとした途中、

 けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。


 横に立っている姉を見てみると、空のある一点を見つめて、息を飲んでいた。


 僕も姉の見ている方を見てみると―――――

 そこには、渦を巻いている龍の形をした雲が浮かんでいた。


「お姉ちゃん。あれ、なに?」

 僕が指を指すと

「龍神さまだよ。怒らせてしまったんだ、私達が……。」

 うわ言のように姉が言う。


 サイレンは、どんどん大きくなっていく。


「ほれ、よく見ておくんだよ。」

 姉は僕の肩に手を置いて、耳元で囁く。


 あの日、僕は初めて神様の怒りに触れた瞬間を見た気がした。


 鳴り止まないサイレンが、まるで龍の咆哮ほうこうのように聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

湖におわす龍神さまの話。 皆月いく @ree239

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ