8


 今日も僕は、学校が終わってからすぐに祠の手入れをする。


 一休みがてら湖の方を眺める。

 今日も湖は凪いでいた。

 僕は、ほっと胸を撫で下ろす。


 後ろから草を踏む音がして、振り返ると姉が立っていた。


「祠の周り、手入れしてくれたの?」

 姉は、辺りを見回しながら言う。

 僕は、黙って頷いた。

「ごめんね、学校も忙しいのに……。」

 申し訳なさそうに言う姉に

「いいよ、姉ちゃんも夜勤とかあるだろ?」

 と僕は返す。

「気にしなくていいのに……。」と姉は呟いてから「じゃあ、祠は任せて、私は夜勤に行ってくるから。」と言って来た道を帰っていく。

「あのさ。」僕は姉を呼び止める。

「なに?」姉は振り返る。

「姉ちゃんは、龍神さまをどんな神様だと思っているの?」

 ずっと気になっていた問いを姉にぶつける。

「恐ろしい神様さ、いつかこの街を壊すつもりでいるんだべさ。」


 逆光に浮かんだ姉の笑顔が、恐ろしく見えた。


 姉は、そのまま仕事へ行き、僕は祠の側に残っている。


 そういえば、あの日も僕は祠の側にいた。


 小学3年の―――7年前の3月、

 未曾有の大震災が起きた日も……。


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