第4章 好機と転機 〜コスター運河 渡河~

ケッズ、ラバルトの二人の勇将を失い、ドラブリム山の反対側まできたステリ軍一行。リーファ王女の城を目前に控えたステリ達はコスター運河を渡っていた。


「川の中腹にあるのに街が栄えているんだね。」

「ええ、ステリ様ここはこの巨大なコスター運河の貿易を生業なりわいとしている、船の上に浮かぶ街なんですよ。」

「へぇ、珍しいものがいっぱいだね。もっと見ていたいけど、今はこうしちゃいられない。早く準備を整えて一刻でも早く城にたどり着かないと。」



「この橋を渡って行けばお城はすぐそこです。」

「よしそれじゃ、急ぐぞ。」

ステリが進軍を開始したその時


「ほう、あそこにいる将がコスターの王子か。」


ヘナン連合国国王ムーベルトがドラブリム山側の河岸に到着していた。


「ステリ様! ヘナン国王ムーベルトが、敵の本隊がすぐそばまで迫って来ています!」


「何!? もうすぐそこまで……どうしてそんなに早く。とにかく進め、急ぐぞ!」


川に浮かぶ街から出発しようとした、しかし


「コスター軍はこの程度か?」


ステリが進軍する方向の岸にまたあの時の紺碧の騎士と死小隊こと第四小隊が待ち構えていいた。


「な、なぜ!? ケッズとラバルトはどうしたんだ。」


紺碧の騎士が一人ステリの前まで来た。


「ステリといったな、部下に恵まれたものよ。だが貴様はまだ『王の器』には到底及ばぬな。」


そういってステリの前に2本の槍を捨てた。


「こ、これは!」


「あの二人の勇姿は騎士として誇り高いものだった。私なりの誠意だ。」


「き、貴様! よくもあの二人を!」


ステリは涙をグッと堪え紺碧の騎士に飛びかかった。


「ハァァッ!」


剣を振り下ろす。


「感情に振り回されすぎだ。まだまだ未熟だな。」


威厳として構える騎士はステリの剣を難なくと槍で受け止め、弾き返す。


「ステリ様! ここは私が!」


ギークが槍で応戦するが、騎士はびくともしない。


「いいぞ第四小隊。このままコスター軍を押し潰せ!」


後ろからムーベルト率いる本隊が反対岸を占領して塞ぐ。


「貴様が王子の指南役か、ご苦労だった。」


紺碧の騎士は槍を勢いおよく振るった。


「ぐああああ!!」


ギークは攻撃を受け止めきれず。吹き飛ばされる。


「ギークッ!!」


ステリは騎士に向かって剣を構える。


「貴様の最期の顔、父ダニア王にそっくりだな。親子共にコスター国の最期を迎えろ!」


騎士は槍を捨て腰から剣を抜いて掲げた。


「貴様、その剣は……!」


「ハァァッ!」


剣を振り下ろしたその時。


「させるものか!!」


ステリは急に何者かによって庇われた。


「ふん、邪魔が入ったか。」


「ステリ王子、大丈夫ですか?」


「レオム様! どうしてここに!?」


「今はこの状況を切り抜けましょう!」


ステリ軍は陣形を整える。


「ほう、ファードの奴らか。」


紺碧の騎士は河岸に待機している隊に戻っていった。


「我らファード軍、死小隊の進軍を阻止します! レオム様はじめコスター軍をお守りするぞ!」


ファード軍は隊長ラジネルを筆頭に死小隊に向かっていった。


「シーア、傷ついた者の回復を頼む。我々でも死小隊の勢いは止められないでしょう。ステリ様、河を渡った北西にある砦まで迅速な退却をお願いします。」


ステリ軍はファード軍の支援を受け進軍を開始した。



「ウッドロー隊長、第四小隊の進軍が止められました。ステリ軍は一目散にこの北西砦に向かって来るでしょう。戦闘準備をお願いします。」


「伝令ご苦労。我ら第十二小隊、迅速に対処するぞ。」


ステリが向かう北西砦に一人の剣士が兵を率いていた。


「あの砦の将、もしや……。ステリ様、私に砦制圧の先陣を切らせてください。」


女剣士のラーダがステリに言い寄ってきた。


「あ、ああ。だがくれぐれも気をつけて向かってほしい。僕たちも援護しよう。」


北西砦の周りには軽装備をした剣士達が守っていた。



ギーク、ラーダを先頭にステリ軍は北西砦を目指す。


「ラジネル殿が阻止している間に一気に切り抜けるぞ!」


しかし素早い身のこなしでヘナン軍の剣士は攻撃をかわしていく。


「く、なんて素早い身のこなしなんだ。みんな落ち着いて戦ってくれ!」


「この動き方、身のこなし、剣さばき、やはりあの御方の技。早く砦に向かわねば。」


ラーダは剣士を次々と倒していく。


「く、レオム様申し訳ございません。退却させていただきます。」


ラジネルが第4小隊の猛攻に耐えきれず退却し始めた。


「ファード軍の援護を無駄にはしない。みんな急ごう!」


ステリ軍は奮闘した。


ラーダが北西砦に到着すると、そこには一人の将がいた。


「なぜ、私達に刃を向ける! お願いです、ここを通してください! 師匠!」


「ほう、ラーダか。ここまで来たということは私の部下を破ってきたということか。久しいな。我が祖国のため、コスターの将には降伏を頼みたい。」


「そんなこと出来ません。我が主のため、師匠。私はあなたを倒します!」


「フッ、かかってこい。お前が付いていくと決めた主君の想いを見せてくれ。ヘナン第12小隊隊長ウッドロー参る!」


ウッドローは片面のみ刃がついた特殊な剣を構えた。



ウッドローとラーダの一騎打ちが始まった。


互いに素早い身のこなしで剣を振っていく。


「ここで決めます、奥義『蒼天』!!」


ラーダは剣を構え、即座に突撃した。


素早い動きで間合いを一気に詰めると一気にかがみ込み剣を下から上に振り上げた。


ウッドローは剣を素早く構えるが体制を崩してよろけてしまう。


そこにラーダは一気に畳み掛ける。


ウッドローはラーダの攻撃を必死にかわし、一気に間合いを広げる。


「見事だ、ラーダ。奥義『蒼天』をここまで習得するとはな。だが『蒼天』をお前に最後まで教えることができなくて本当に申し訳ない。」


ウッドローは剣を構える。


「ラーダ、最後に本当の『蒼天』を見せてやろう」


ウッドローは剣を構え呼吸をととのえる。


ラーダもあがった息をととのえようとした瞬間


「は、速いっ!?」


ウッドローは目にも止まらぬ速さでラーダとの距離を詰めた。


ラーダは攻撃を受けようと必死になったが、下からものすごい速さの斬り上げを受けきれず剣を手から離してしまった。


剣は宙をまいラーダは仰向けに倒れる。


ウッドローは仰向けに倒れたラーダ目掛けて剣を振るう。


「くっ!」


しかし


ウッドローの剣はラーダの首元でピタッと止まった。


「ラーダ! 大丈夫か!?」


ステリはギークと共に砦に駆けつけた。


「な、なぜ私を切らないのですか、師匠。」


ラーダは仰向けになったまま立つことが出来なかった。


「ラーダ、貴様は弱い。ここでお前を斬ってもつまらん。また強くなって出直してこい。」


ウッドローは剣をしまい、砦に駆けつけたステリの方を見た。


「貴様がラーダを率いている将か、どうやら我が隊は破れた様だな。私の負けだ、我が隊の兵は退かせてこの砦は開け渡そう。貴様らがどう我がヘナン軍を退けるか楽しみにしているぞ。」


そういってウッドローは砦を去って行く。


「ラーダ、立てるか?」


ステリはラーダに歩み寄る。


「師匠ッ!」


ラーダはウッドローに向かって叫んだ。しかし師匠を呼ぶことしか出来なかった。


「ラーダ、また会った時が最期だ。それに私はもうお前の師匠ではない。次会った時は一人の将として、己自身の奥義『蒼天』を私に見せてくれ。」


そういってウッドローは退却していった。


「……師匠ッ。」


ラーダは己の未熟さによる悔しさとウッドローの情けに涙を流すことしか出来なかった。


「ステリ様、ヘナン軍がすぐそこまで来ています。急いで砦から退却しましょう。」


ステリはギーク、レオム、兵を率いて砦から退却した。


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