第3章 窮地と離別 〜ドラブリム山突破〜

「ここがドラブリム山か。」

「はい。ここを越えれば私の国のお城があります。」


ステリ軍一行はコスター城から南の方角へ、国を南北に分断するドラブリム山脈へ差し掛かった。



「よし、一気に越えてしまおう。」

ステリが軍を進めたその時。

「報告します! ヘナン軍がコスター城、砦を占領を制圧しました!」

コスター兵から報告が入った。

「そうか、もう僕達の城が堕とされたか。偵察ありがとう。」


「なるべく急ぎましょう。」

「ああ、行こう。」

ステリ軍は進軍を開始した。



「ふぅ、何とか山頂に辿り着いたな。」

「ステリ様。少し休憩なさいますか?」

「いや、このまま山を下ってリーファ王女の城へ——」

すると突然、後方から一つの軍が山を登り始めた。

「ケッケッケッ。やっと見つけたぞコスターの王子。よぉし、お前らやっちまえ!」


「ステリ様、ヘナン軍です!」

「何!? もう来たのか。は、早すぎる!」

「幸い、ヘナン国王ムーベルトは軍を率いてはおりませんが、かなりの大軍でございます!」

「急いで山を降りるぞ! リーファ王女の城へいち早く辿り着くんだ!」

ステリ軍は山を降り始める。


「コスターの王子、まだまだ青いのう。このヘナン国マドスの狩猟戦法を受けてみよ! 全軍かかれ!」


マドスの掛け声と共にヘナン軍が山のあちこちに散らばり始めた。


「な、敵が目の前に!?」

ステリ軍の前にぞろぞろと敵が立ちはだかる。


「こいつらはこの山の山賊です!」

「くっ、こんな時に!」


「ヘナン国から王子を殺せと雇われたんでね。大人しく死んでもらおうか。」


「なっ、ここまでヘナンの手が回っているのか。」


「まだ、ここにいるのはヘナンに雇われた山賊しかいない様です。ヘナン軍本隊に追いつく前に突破しましょう!」


ステリ軍は山賊を突破しにかかった。


「行くぞ、ラバルト、レチェ、ラーダ! 王子の退路を確保するぞ!」


「おうよ、ケッズ! このラバルト様に続け!」


副隊長ケッズに続きステリ軍は猛進をかける。


「さぁケッズ達の後に続いて行きましょうステリ様。」

「ああ、ギーク。」

「俺たちもお側に控えます! 王子を守るぞ、フリット、ゾニール!」

「リーファは僕の側から離れないでくれ。」

「ありがとうございます。ステリ様。」


こうしてステリ軍は山賊を次々と突破していく。



「よし、今のところ山賊は片付いたみたいだな。」

ステリ軍は山の中腹あたりまで降りてきた。


「ステリ様、道が二手に分かれています。」


「リーファ王女、どちらに行けば良いんだ?」

「私のお城へはどちらの道からでも行けますが東の道のほうが早く着きます。」

「よし、東の道を通るぞ。」

ステリ軍が進もうとしたその時


「て、敵ですっ! ヘナン軍がもうそこまで来ております!」


すると一人の騎士がステリのほうに向かってきた。

「私はヘナン軍の使いの者だ! この通りコスターの王子には一切危害は加えない。」

そう言って、持っていた槍を地面に置き、馬から降りてステリの方へと近づいてきた。


ステリ軍一同は驚愕した。

ステリ軍にやってきたその騎士は堂々としており威厳があった。紺碧の鎧、兜に赤いマントをしており、素顔は見えなかった。


「ヘナンの者が何の用だ。」

ギークはキッと睨みつけ槍を強く握った。


「コスターの王子、直ちに降伏せよ。」

「僕は決してあきらめない! 降伏なんて絶対しない!」

「我々は王子についていきます。ヘナン国兵、直ちにお引き取りください。」

「ほう、この期に及んで、まだそんな戯言を言うか。王子も王子なら、臣下も臣下だな。コスターの民はおかれている立場もわからん奴らなのか。」

「な、なんだと!?」

「貴様こそ、敵陣の中でそんなことを言って良いのか?」

ギークらステリ軍はヘナンの騎士を囲んで睨んでいる。

「ほう、そんな兵力で我らヘナン第四小隊を破るつもりか。」

騎士は威厳として構える。


「な、第四小隊……。」

ギークの表情が少し揺らいだ。

ステリ軍の一部がざわめき始めた。

「それでは交渉決裂だな。コスターの王子、いつまで生き延びられるか楽しみにしておけ。」

こうして紺碧の将はステリ軍を後にした。


「王子、大変な事になりました。」

ギークは明らかに動揺している。

「ギーク、いったいどうしたんだ! それに第四小隊って?」

「ヘナン軍第四小隊。……あまりの強さに通称『死小隊』と言われています。ヘナンの地はほとんど彼らの軍主体となって治められたと言われています。」

「く、仕方ない、迎え撃つのは下策だな。ここは退くしか……。」


「報告します、敵軍はすぐそこまで迫ってきています! このまま追いつかれるのは時間の問題です!」

ステリ兵が緊迫した表情で駆けてきた。

「……そうか、相手はおそらくさっきの将率いる第四小隊だろう。こうなったらとれる策は一つ。」


「囮、作戦ですね。」

突然二人の間を割って入ってきた男がいた。

副隊長のケッズだった。


「ついにこの時が来たか、この策は取りたくなかった。」

「まさか、本当に!?」

「ええ、ギーク隊長から前もって伝えられておりました。もし万が一のことが起こったら、このケッズ、ラバルトと共に殿しんがりを務めると。」

「ああ、今は殿ではなく囮だけどな。」

ラバルトもケッズに続いて前に出てきた。


「すまん。ケッズ、ラバルト……。これより我々の軍は東ルートへ進み、リーファ王女の城を目指す。その間、ケッズ、ラバルトは西ルートへ囮にして時間を稼ぐ。全軍準備せよ!」

ギークの掛け声と共にステリ軍は準備を始める。


「そんな、行ってはダメだ! 何か良い策がほかにあるはずだ!」

「ダメです……! ヘナン軍はすぐそこまで来ております。ここで二手に別れないと我々の軍は全滅してしまいます!」

「し、しかし……。」

「王子っ!!」


ステリはびっくりして声の方を見ると、声の主は副隊長のケッズだった。


「王子、気をしっかり持ってください! 今や王子はこの軍のリーダーです。そしていづれ王子はコスター国の未来を背負うのです。王子、この国を……コスターの魂、託しましたよ。」

「くっ…………。」

「それではギーク隊長、この副隊長ケッズ、そしてラバルト。見事お役を務めさせて参ります。」

「ああ、二人共。お前達にはお世話になった。」

「そんな……ケッズ、ラバルト……。」

「なぁに、あっさりとやられる様な俺たちじゃねぇよな、ケッズ。」

「ああ、ラバルト。行くぞ! この国の未来のために、そしてコスターの誇りにかけて。続け!」

「「おおーーー!!」」

ケッズ、ラバルトは少数のコスター兵を率いて西ルートを駆けていった。

「ああ。ケッズ、ラバルト……。」

「……ステリ様、我々も行きましょう。」

「二人の命は決して無駄にはしない。」

副隊長ケッズ、騎士ラバルトを除いてステリ軍は東ルートに進軍を開始した。


「交渉は決裂だ。これから我々第四小隊はコスター軍を追う。コスターの王子は西ルートを通っていった。全軍、進軍開始せよ!」


小隊に戻った騎士は待機していたヘナン軍に指揮をとった。


(ステリと言ったな。先代コスター王は王子を甘やかしすぎたようだな。ふん、これからの成長が楽しみだ。……生きていればの話だがな。)


紺碧の鎧を纏った騎士は軍を従えて出発した。


かつてコスター王ダニアが使っていた聖剣アイソトープを腰に携えて。



東ルートを進んでいる道中、西の方向から狼煙が上がっているのが見えた。

(……ケッズ、ラバルト。)

ステリは涙をぐっと堪え、進んでいった。

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