第2章 森を抜けて 〜砦解放作戦〜

 静かな夜の森の中に、轟々と馬を走らせる音が響き渡る。

「ステリ様!この森を抜けたら、まだ陥落していない我らの砦があります!そこに一先ず休みましょう!」

月あかりが一層と強くなっていく中、王子は忠臣と僅かな軍を率いて森の中を駆けていく。

「…父上。…母上。誠に申し負けございませぬ!」

王子は1人呟いた。



 一行はコスター城から東にある砦に到着した。コスター城から一番近いだけあって巨大な門が威厳として建っている。しかし砦は不穏な静けさを放っていた。

「偵察兵はどこだ? やけに静かだな。」

ギークが砦入口に近づく。

「本隊到着! 門を開けよ!」

「おぉこれは、ステリ様にギーク殿。お待ちしておりました。」

門の上からネード将軍が出てきた。

「ネード、偵察兵はどうした。」

「はて? 偵察兵は来ておりませんが。」

ネードは首を傾げた。

「何、それは本当か?」

「ステリ様、何か様子が変です。」

ギークがステリに話しかけていると

いきなり砦付近の森から1人のコスター兵が出てきた。

「ステリ様、ネードは裏切り者です! 残りの偵察兵は砦の中に捕らえられています!」

「ファッシュ! それは本当か。一体この砦で何があったんだ。」

「はっ、ギーク隊長。砦に待機している隊は皆、ステリ連合国と繋がっています。」

「ネード! 貴様、何のつもりだ!」

ギークが声を荒げる。

「ふん、バレては仕方ない。今やコスター国が侵略されるのは時間の問題、滅亡が決まっている国に誰がつくものか。全軍、戦闘配置につけ。王子の首、あげるぞー!」

砦の周りにぞろぞろとコスター国の鎧を身につけた兵がステリに向かって武器を構え始めた。

「我らコスターの魂は決して屈しない! 裏切り者なんかに絶対負けない!」

「左様でございますステリ様。全軍、戦闘開始だ!」

ステリ軍も臨戦態勢をとった。


「よっしゃ、俺らもいくぞ! 二人とも俺の後に続け!」

後ろから威勢の良い声が聞こえる。

「そうやってまた孤立しないでよ、まったく。きちんと陣形を保って戦うよ!」

「ステリ様のため、負けられません!」

そう言って、騎士のラバルト、弓兵のレチェ、女剣士のラーダが進軍を開始した。

「ステリ様、まずは砦の門を開けましょう。それからネードを倒しましょう。」

「俺が先に行って門を内側から開けてきますよ。ついでに砦内部にいる偵察兵を解放します。」

「よし頼んだファッシュ。僕とギークはファッシュを護衛しよう。」

ステリ、ギーク、ファッシュも進軍を開始する。


「オラオラ、どうした? この程度のモンか、この砦の兵はよぉ!」

ラバルトが槍で次々と砦入口のコスター兵を倒していく。

「上は任せてよ、ラバルト。」

レチェは門の上にいる弓兵達を次々と射って倒していく。

「裏切りものたちよ、覚悟!」

ラーダの素早い身のこなしで敵を翻弄していく。

「ギーク隊長、あそこの通路を通って我々は砦内部に入ります。」

ステリ達はファッシュに続いて砦横の細い通路を通っていく。


 砦内部に入るとファッシュは牢屋の方へ、ステリとギークは中にいる兵を倒していく。

「よし、門を開けるぞ!」

ギークが砦の門を開錠した。

ステリ軍が門から次々とはいってくる。

「ステリ様、早くネードのところへ向かいましょう。」

「ああ、行くぞ。」

ステリとギークは軍を従えて門の頂上を目指した。


 「くっ、貴様らもうここまで来るとは。だがこのワシを倒したところでコスター国はもうおしまいだ!」

「黙れ! 僕は決して屈しない、覚悟!」

ステリは剣を抜き、猛攻を仕掛ける。

ネードは大きな盾、重い鎧に身を包みどっしりと構えている。

「私も加勢します!」

ギークも槍で応戦する。

「僕はここで負けるわけにはいかないんだ。 せやぁっ!」

ステリは剣を大きく振りかぶりネードに叩きつけた。

「ぐはぁっ、貴様……ごときに!」

激闘の末、ネードは仰向けになって倒れた。



「はぁ、はぁ、何とか倒せたな。ありがとうギーク。」

砦をネードの手から解放し、ステリ軍は再び制圧した。

「いえいえ、私だけではありません。我らステリ軍一人ひとりの活躍があってこそでございます。」

「そうだな、みんなありがとう。」

「ステリ様のためなら俺は何でもするぜ。」

「ギーク隊長がいれば安心だけどな。」

「もとより、この身はコスター国に捧げる所存だ。」

「ギーク隊長、ステリ様。牢に囚われていた我が兵を解放して参りました。」

ファッシュがコスター兵を連れてステリの元にきた。

「誠に申し訳ございません隊長、ステリ様。」

「いいんだ。とにかく無事で良かったよ。」

「まっ、ウチらが処刑されなくてよかったよ。」

「レチェ、ラーダ。ラバルトの護衛をしてくれてありがとう。」

「な、何だとケッズ。俺が助けてやったんだぞ。」

「あの二人がいなかったらお前はとっくにやられていたんだぞ。」

「とにかくステリ様と隊長がご無事で何よりだ。」

重装兵のフリット、女密偵のゾニール、副隊長の騎士ケッズが新たにステリの仲間に加わった。

「それと、もう一人牢に捕まっていた人物がおりました。」

するとファッシュの後ろから一人の女性が出てきた。

「君は……。」

ステリと同じくらいの年齢だろうか。

ステリは思わず見惚れてしまった。

「ステリ様、お初にお目にかかります。私、チャーレ辺境国のリーファと申します。」

「ステリ様、彼女はチャーレ辺境国の王女様でございます。」

チャーレ辺境国はコスター国の南西にある同盟国だ。

コスター国がファード聖王国に援軍をだす前にチャーレ辺境国はファードに向かっていた。

「なぜチャーレの王女がここに?」

「ファードにいる父、チャーレ国王からコスター国王がお亡くなりになったと、そして私をコスター城へ向かえと伝令がありました。しかしその道中、この砦のネードに捕まってしまったのです。」

「チャーレ国王が? しかし何とも早い対応だな。」

「はい。我が父上は王都戦争が起こった直後、コスター国王ダニア様から『私にもしもの事があればステリをよろしく頼む』と伝えられていたそうです。」

「何っ、父上が……。」

「ダニア様……。死期を悟って私をステリ様の傍に置いていったのですね。」

ステリはうつむき、少しの間黙った。

「……そうか、わかった。しかしコスター城はまもなく陥落してしまうだろう。」

(ならば……!)

ステリは顔をあげ、砦にいるステリ軍に向かって大声をあげた。

「皆のもの、よく聞け! 我がコスター国は今やヘナン連合国の手に落ちかけている。そして我々の今の兵力では到底敵わないし、今にもヘナン国王ムーベルトは我々を手にかけようとしている。だから今は撤退を行う。ヘナン連合国の追っ手を振り切って勢力を立て直し、コスター国の復興を図る! ……だがそれは厳しい戦いになるだろう。ヘナンに敵うかもわからない。しかし我がコスターの魂を! 不屈の誇りを! 我が父ダニア王亡き後、コスターの希望は我らにかかっている。今こそ奴らに見せつけるぞ!」

「「「「おおーーーーーーっ!!」」」」

砦中から大きな歓声が聞こえた。

ステリはギークの方を向いて呟いた。

「ギーク、ついてきてくれるか?」

「はい。もちろんどこまでも。」



早朝


コスター王子ステリ、コスター軍隊長ギーク、副隊長騎士ケッズ、騎士ラバルト、弓兵レチェ、女剣士ラーダ、偵察兵ファッシュ、重装兵フリット、女密偵ゾニール、チャーレ辺境国王女リーファ、少数のコスター兵はヘナン連合国からの追っ手を逃れる為、南西のチャーレ辺境国を目指し進軍を開始した。

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