第2章 森を抜けて 〜砦解放作戦〜
静かな夜の森の中に、轟々と馬を走らせる音が響き渡る。
「ステリ様!この森を抜けたら、まだ陥落していない我らの砦があります!そこに一先ず休みましょう!」
月あかりが一層と強くなっていく中、王子は忠臣と僅かな軍を率いて森の中を駆けていく。
「…父上。…母上。誠に申し負けございませぬ!」
王子は1人呟いた。
*
一行はコスター城から東にある砦に到着した。コスター城から一番近いだけあって巨大な門が威厳として建っている。しかし砦は不穏な静けさを放っていた。
「偵察兵はどこだ? やけに静かだな。」
ギークが砦入口に近づく。
「本隊到着! 門を開けよ!」
「おぉこれは、ステリ様にギーク殿。お待ちしておりました。」
門の上からネード将軍が出てきた。
「ネード、偵察兵はどうした。」
「はて? 偵察兵は来ておりませんが。」
ネードは首を傾げた。
「何、それは本当か?」
「ステリ様、何か様子が変です。」
ギークがステリに話しかけていると
いきなり砦付近の森から1人のコスター兵が出てきた。
「ステリ様、ネードは裏切り者です! 残りの偵察兵は砦の中に捕らえられています!」
「ファッシュ! それは本当か。一体この砦で何があったんだ。」
「はっ、ギーク隊長。砦に待機している隊は皆、ステリ連合国と繋がっています。」
「ネード! 貴様、何のつもりだ!」
ギークが声を荒げる。
「ふん、バレては仕方ない。今やコスター国が侵略されるのは時間の問題、滅亡が決まっている国に誰がつくものか。全軍、戦闘配置につけ。王子の首、あげるぞー!」
砦の周りにぞろぞろとコスター国の鎧を身につけた兵がステリに向かって武器を構え始めた。
「我らコスターの魂は決して屈しない! 裏切り者なんかに絶対負けない!」
「左様でございますステリ様。全軍、戦闘開始だ!」
ステリ軍も臨戦態勢をとった。
「よっしゃ、俺らもいくぞ! 二人とも俺の後に続け!」
後ろから威勢の良い声が聞こえる。
「そうやってまた孤立しないでよ、まったく。きちんと陣形を保って戦うよ!」
「ステリ様のため、負けられません!」
そう言って、騎士のラバルト、弓兵のレチェ、女剣士のラーダが進軍を開始した。
「ステリ様、まずは砦の門を開けましょう。それからネードを倒しましょう。」
「俺が先に行って門を内側から開けてきますよ。ついでに砦内部にいる偵察兵を解放します。」
「よし頼んだファッシュ。僕とギークはファッシュを護衛しよう。」
ステリ、ギーク、ファッシュも進軍を開始する。
「オラオラ、どうした? この程度のモンか、この砦の兵はよぉ!」
ラバルトが槍で次々と砦入口のコスター兵を倒していく。
「上は任せてよ、ラバルト。」
レチェは門の上にいる弓兵達を次々と射って倒していく。
「裏切りものたちよ、覚悟!」
ラーダの素早い身のこなしで敵を翻弄していく。
「ギーク隊長、あそこの通路を通って我々は砦内部に入ります。」
ステリ達はファッシュに続いて砦横の細い通路を通っていく。
砦内部に入るとファッシュは牢屋の方へ、ステリとギークは中にいる兵を倒していく。
「よし、門を開けるぞ!」
ギークが砦の門を開錠した。
ステリ軍が門から次々とはいってくる。
「ステリ様、早くネードのところへ向かいましょう。」
「ああ、行くぞ。」
ステリとギークは軍を従えて門の頂上を目指した。
「くっ、貴様らもうここまで来るとは。だがこのワシを倒したところでコスター国はもうおしまいだ!」
「黙れ! 僕は決して屈しない、覚悟!」
ステリは剣を抜き、猛攻を仕掛ける。
ネードは大きな盾、重い鎧に身を包みどっしりと構えている。
「私も加勢します!」
ギークも槍で応戦する。
「僕はここで負けるわけにはいかないんだ。 せやぁっ!」
ステリは剣を大きく振りかぶりネードに叩きつけた。
「ぐはぁっ、貴様……ごときに!」
激闘の末、ネードは仰向けになって倒れた。
*
「はぁ、はぁ、何とか倒せたな。ありがとうギーク。」
砦をネードの手から解放し、ステリ軍は再び制圧した。
「いえいえ、私だけではありません。我らステリ軍一人ひとりの活躍があってこそでございます。」
「そうだな、みんなありがとう。」
「ステリ様のためなら俺は何でもするぜ。」
「ギーク隊長がいれば安心だけどな。」
「もとより、この身はコスター国に捧げる所存だ。」
「ギーク隊長、ステリ様。牢に囚われていた我が兵を解放して参りました。」
ファッシュがコスター兵を連れてステリの元にきた。
「誠に申し訳ございません隊長、ステリ様。」
「いいんだ。とにかく無事で良かったよ。」
「まっ、ウチらが処刑されなくてよかったよ。」
「レチェ、ラーダ。ラバルトの護衛をしてくれてありがとう。」
「な、何だとケッズ。俺が助けてやったんだぞ。」
「あの二人がいなかったらお前はとっくにやられていたんだぞ。」
「とにかくステリ様と隊長がご無事で何よりだ。」
重装兵のフリット、女密偵のゾニール、副隊長の騎士ケッズが新たにステリの仲間に加わった。
「それと、もう一人牢に捕まっていた人物がおりました。」
するとファッシュの後ろから一人の女性が出てきた。
「君は……。」
ステリと同じくらいの年齢だろうか。
ステリは思わず見惚れてしまった。
「ステリ様、お初にお目にかかります。私、チャーレ辺境国のリーファと申します。」
「ステリ様、彼女はチャーレ辺境国の王女様でございます。」
チャーレ辺境国はコスター国の南西にある同盟国だ。
コスター国がファード聖王国に援軍をだす前にチャーレ辺境国はファードに向かっていた。
「なぜチャーレの王女がここに?」
「ファードにいる父、チャーレ国王からコスター国王がお亡くなりになったと、そして私をコスター城へ向かえと伝令がありました。しかしその道中、この砦のネードに捕まってしまったのです。」
「チャーレ国王が? しかし何とも早い対応だな。」
「はい。我が父上は王都戦争が起こった直後、コスター国王ダニア様から『私にもしもの事があればステリをよろしく頼む』と伝えられていたそうです。」
「何っ、父上が……。」
「ダニア様……。死期を悟って私をステリ様の傍に置いていったのですね。」
ステリはうつむき、少しの間黙った。
「……そうか、わかった。しかしコスター城はまもなく陥落してしまうだろう。」
(ならば……!)
ステリは顔をあげ、砦にいるステリ軍に向かって大声をあげた。
「皆のもの、よく聞け! 我がコスター国は今やヘナン連合国の手に落ちかけている。そして我々の今の兵力では到底敵わないし、今にもヘナン国王ムーベルトは我々を手にかけようとしている。だから今は撤退を行う。ヘナン連合国の追っ手を振り切って勢力を立て直し、コスター国の復興を図る! ……だがそれは厳しい戦いになるだろう。ヘナンに敵うかもわからない。しかし我がコスターの魂を! 不屈の誇りを! 我が父ダニア王亡き後、コスターの希望は我らにかかっている。今こそ奴らに見せつけるぞ!」
「「「「おおーーーーーーっ!!」」」」
砦中から大きな歓声が聞こえた。
ステリはギークの方を向いて呟いた。
「ギーク、ついてきてくれるか?」
「はい。もちろんどこまでも。」
*
早朝
コスター王子ステリ、コスター軍隊長ギーク、副隊長騎士ケッズ、騎士ラバルト、弓兵レチェ、女剣士ラーダ、偵察兵ファッシュ、重装兵フリット、女密偵ゾニール、チャーレ辺境国王女リーファ、少数のコスター兵はヘナン連合国からの追っ手を逃れる為、南西のチャーレ辺境国を目指し進軍を開始した。
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