プロミネントレガリア〜王の資格〜

Yuta

第1章 撤退 〜ファード国境の悲劇〜

 鬱蒼と茂る森の中、一つ騎馬隊が音を荒立て駆け抜けていく。

「もうすぐ国境だ! 全軍、遅れを取るな!」

コスター軍約50人、王ダニアとその妻ニール率いるその軍団は今にも聖王国の国境を越えようとしていた。

「待っていろ、フヴェル……!」

ダニアは馬を走らせる。この森を越えればファード聖王国だ。


しかし


「今だ。全軍、かかれぇ!」

誰かからの合図で森の中から敵がたくさん飛び出す。

「なっ……! 奇襲!?」

急の攻撃に対応できず、コスター軍は次々とやられていく。

「国境はすぐそこだ! 全軍、持ち堪えろ!」

ダニアも奮戦するがコスター兵は苦戦を強いられてしまう。

「少しでも多くの兵をファードに向かわせるんだ!」

コスター軍は奇襲に遭いながらも国境を目指す。


 だが進路にも敵は立ちはだかった。

「ダニア王、覚悟!」

「なっ、貴様は…ムーベルトっ! なぜ邪魔をする!」

ムーベルトはダニアめがけて向かってくる。

「死ねぇぇっ! コスター国王、ダニアっ!」

互いの剣が火花を散らす。

両者共に馬に乗りながら互角の戦いを繰り広げる。

「今だ、放てぇっ!」

ムーベルトがそう言い放つと、後ろに待機していた弓兵が一斉に弓をダニアに向けて放った。

ダニアとその後ろの兵に弓が直撃する。

ダニアは落馬した。

「あなたっ!」

ダニアの妻、ニールが寄り添う。

「勝負あったな、ダニア王。」

ムーベルトは馬から降り、ダニアに近寄る。


「……くっ、私もこれまでか……。……ギーク、ステリのことを頼む。」

「ああ、ダニア様……。フヴェル兄様、どうかお許しください。」


「最期の言葉は済んだか。死ねぇぇ!」


ムーベルトは勢いよく剣を振り落とした。



 ジート歴643年、ファード聖王国と北西にあるヘルバン帝国が衝突。王都戦争が勃発する。

大勢の犠牲者を出したこの戦争では645年、ヘルバン帝国が勝利し幕を閉じた。

 戦争が始まってすぐに、南にあるファード聖王国と親交があったコスター国は王ダニアとその妻ニールと共に援軍に向うが、遠征の途中にコスター国を狙う西のヘナン連合国に後ろをとられ、王ダニアは妻と共に戦死。コスター軍は壊滅してしまった。



 知らせはすぐにコスター城へ伝わった。

「何!父上と母上が!?……それは本当なのか!?」

「はっ!ファード聖王国への遠征の途中、ヘナン連合国が奇襲。ダニア様、ニール様の奮戦虚しくコスター軍は壊滅!ダニア様、ニール様共に討死なされたとの報告でございます!」

「そんな……父上、母上……。」

「ダニア様とニール様が……。私には到底信じられん。……敵の嘘では無いのか!」

忠臣であるギークが兵に尋ねる

「いいえ、間違いございません。ファード聖王国の国境付近でヘナン連合国が襲撃、率いていた将はムーベルト国王でございます!」

「なっ、国王直々だと……。」

「しかもムーベルト国王率いるヘナン軍はこちらにも進軍を開始している模様でございます!」

「何っ!」

「この戦乱に乗じて我が国を奪いにきたか!くっ……なんと卑怯な。」

「急いで兵を集めよ、ヘナン連合国を迎え撃つぞ!……ギーク、我々もいくぞ。」

王子は奮い立った。

しかしギークは冷淡に返した。

「……なりませぬ、ステリ様。確かに悔しいお気持ちは重々承知でございます。ですが、ヘナン軍は国王直々に侵攻しております。王を失った今の我が軍では到底敵いませぬ。……我が主人を失った私にできることはステリ様をお守りすることです。王子にはこの国の未来が掛かっている。ダニア様がいなくなった今、王子も失うわけにはいきませぬ!」

「だが、ムーベルトに国を奪われては元も子もないではないか!……何か策を練らねば。」

「王子っ——!」

ギークが口を開くと同時に玉座の間の扉が開き、外から兵が慌てて走ってきた。

「報告!ヘナン軍がコスター国国境付近まで進軍!我々コスター軍は壊滅状態、国境突破は時間の問題であります!」

「……王子。」

ギークは諭すように話しかけた。

「……くっ、やむを得ん。全軍撤退だ。」

王子は涙をぐっと堪えた。

「今すぐ全兵に伝えよ、撤退だ!まずは東にある砦を目指す。偵察兵は退路を確保せよ!」

ギークは瞬時に指示を出した。

「「はっ!」」

兵達は玉座の間を足早に立ち去った。

「…これで、よいのだろうか?ギーク。」

「今は耐えるときです、ステリ様。一度体制を立て直して再起を図りましょう。」

「父上、母上、申し訳ございません。」

ステリとギークは玉座を後にした。

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