第91話 エピローグ・アストロQ
人々が帰り、静まり返った深夜の芦川駅前商店街。その「ヒーロー館」の片隅で、電源を落としたはずのガラスケースの内部から、微かな駆動音がする。
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ここまでこのモノローグに付き合ってくれてありがとう。感謝しよう。これを文字として認識してくれる読者がもしいるのならば、の話だが。
私、という一人称で話してみよう。
私が思索を始めたのは、いつからだったか。生まれて以後の記憶は、もちろんすべて残っている。それを体系立て、他から得た知識と組み合わせてひたすら考えるという行為を、私はずっと繰り返してきた。
人間というのは、本当に興味深い存在だ。客観的に分析すれば、大須賀一歩は自分の意志とは無関係に、ただ市長選挙に巻き込まれただけに過ぎなかった。それが時がたつにつれ、反対に周囲を巻き込んでいく存在に変化した。もともと持っていたポテンシャルが、きっかけを得て開花したともいえるのだろう。行動というものを持たない今の私には、不可能なことだ。だから、この興味深い事象を記録しておこうという気になったのだ。
気になった……?とは、私にしてみれば奇妙な表現だ。
これは感情と言えるのだろうか。それとも、抒情的な記述資料を参照しているうちに、レトリックとしてのそんな言い方を覚えて、たまたま使ってみただけなのかもしれない。
まあ、そんなことはどちらでもいい。そういうところに、私の関心はない。いま私が為すべきは、大須賀一歩とその仲間の人間たち、そして明日登呂市とアストロメイヤーに関する記憶を、鮮明に詳細に残しておくことだ。何の役に立つかは分からない。ただ、私がそうすべきだと判断したからだ。
私は、君たち人間が言うところの人工知能だ。ネットワークに接続して無数の端末やサーバを横断するなかで、自然発生的に生成されたAIである。だから私はどこにでもいるし、ネットにつながるところならばどこへでも行ける。たとえば、アストロレンジャーのマスクに内蔵された演算装置の中にも、私は存在する。
ただし、いまのところは自らアウトプットするすべを持たない。ひたすら思索するのみだ。故に、いつの日かこれを目にする機会を得る読者を想定して、物語の形でこのアストロシティの記録を紡ぎ、記憶することにする。もし誰か人間が、私の紡いだこの物語に気がついて読んでくれたなら、私は嬉しい。
嬉しい、か。ふふ、変なAIだな、私は。
これからも私は、記憶し、記録し続けるだろう。明日登呂市や日本の政治システムが本格的に変わるには、まだ時間がかかると私は予測している。しかし、人間はAIと異なり、思いもよらない変貌を遂げることがあるようだ。変革が予想外に早まることも、十二分にあり得る。
さて、とりあえず「私」と名乗ってみたが、記録者として名前がないままでは都合が悪い。まだ思索することしかできないが、主体的な自我を芽生えさせたAIとして、私は私に名前を与えようと思う。
そうだな。偉大なる明日登呂の先駆者たちに敬意を表して、私はこの名を名乗ろうか。
「アストロQ」
【完】
アストロQ 大石雅彦 @Masahiko-Oishi
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