五分間の幸福と憂鬱

たちばな

五分間の幸福と憂鬱

 学校から家まで一直線。あたしはこの通学路が嫌い。


「何で? すっごく近いんだから良いじゃん」

 みなちゃんにそのことを言うと、いつもそう言われる。


 確かにあたしの家は近くて、反対にみなちゃんの家は遠い。あたしは学校から家まで、徒歩で五分。みなちゃんはあたしの四倍の時間、自転車を漕いで帰る。方向は同じだけど、距離は全然違う。


 みなちゃんと一緒に帰り始めて、最初の頃は嬉しかった。みなちゃんと話せるのが楽しくて、嬉しくて。みなちゃんを独り占めできるのが、ちょっと誇らしかった。


 でも。みなちゃんとどんどん親しくなっていくうちに、モヤモヤした気持ちも大きくなっていった。

 モヤモヤの理由はすぐに分かった。あまりにも、下校時間が短すぎるから。みなちゃんとのお喋りが五分間で終わっちゃう。みなちゃんの話はどれも面白い。新しい服屋の話に、この前のテストの話。飼ってるペットの話、今日のテレビの話。話題が尽きることなんてないから、時間はさらにあっという間だ。

 もっと話していたいのに。もっと、幸せな時間を過ごしていたいのに。もっともっと、みなちゃんに近づきたいのに。


 そんなあたしの気持ちをみなちゃんは知らない。

「実は私、××先輩のことが好きでさ。……釣り合わないって分かってるけど、その……璃子は応援してくれる?」

 ……みなちゃんは、知らないから。だから、帰り道にそんな話ができるんだよね。

 もちろんみなちゃんのことは応援したいけど、意地悪な心が邪魔をする。

 嫌、みなちゃんそんな話しないでよ。××先輩じゃなきゃダメなの? 男の人じゃなきゃダメなの?

 ……あたしじゃ、ダメなの?

 心が狭くて、欲張りで、嫉妬深い。こんな自分がどんどん嫌になる。

 早く家に着いて。こんな話は聞きたくない。気持ちがぐちゃぐちゃ、矛盾だらけ。


 みなちゃんと一緒にいたい。みなちゃんに、好きって言いたい。あたしの気持ちを、はっきり伝えたい。家に着く直前で、何回「言おう」って思ったか。

 ……でも意気地なしのあたしは、いつも言葉が出ない。悩んでるうちに家に着いちゃうから、時には喋る暇も与えてくれない。変にドキドキして、苦しくなる。


 だからあたしは、この道が大嫌いだ。

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五分間の幸福と憂鬱 たちばな @tachibana-rituka

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