誰の身にもいずれ必ず訪れるそのとき

 古希を迎え、また互いに大病を患った老年男性ふたりの、静かな友情の物語。

 いい話、なんて言い方では曖昧なのですけれど、本当に胸にしんみりと沁みるいいお話でした。
 とにかく穏やかで優しい雰囲気がすごい。
 特に不思議なことや派手な事件が起こるでもなく、ただおじいちゃんふたりが電話で会話するだけのお話、と言えるのですけれど、だからこその魅力に満ち満ちています。

 わたしたちと同じ「普通の現実」を生きてきた人の、そのエンディング手前のひと幕。
 寂しくはあっても、決して怖かったり悲しかったりすることはなく、ただ静謐な優しさに満ちているところがもう本当に大好き。

 目前に迫ったそれをこうして語り合えるのも、互いが互いのことを深く思えばなんだろうな、という、その関係性のあり方がビリビリ心に響きます。

 激しい感情の発露がなくとも、深く繋がっているのが伝わる素敵な作品でした。

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