エピローグ

母星に願いを

 僕が無事ぶじタアス星に帰ったあの日から一年、僕のまわりはおどろくくらいの変化をとげた。

 あの大量の短冊によって星のカケラはみごと復活ふっかつし、それ以降いこう、願いを紙に書いて星にささげる習慣しゅうかんがしぜんとできていった。そのおかげか、カケラだけでなく星くずも少しだけ長持ちするようになったらしい。カケラをあつめなくなってひさしい今の僕には、縁遠えんどおい話だけれど。

 その僕はというと、地球でのできごとを記録きろくしたものが本となり、いつのまにかそれが星中に広がったことで、気がつけばわざわざカケラをあつめなくても生活ができるようになっていた。

 さらに、僕の父さんや母さんへの同情どうじょうの声や、その活躍かつやくもあって、二人は本来ほんらいよりもかなり早くろうから出られることになった。

 間接的かんせつてきにではあるけれど、両親のやくに立てたことが、その時はただただうれしかった。


 これだけいろいろ変わっても、いまだに変わらないことが一つだけある。それは、今も僕のむねでねむっている星のカケラだ。

 僕が不時着したあの時、たしかに「帰りたい」と願って、実際じっさい帰ることができたのにもかかわらず、カケラは一向にその姿を見せてはくれない。結局けっきょくすべてあつめきれなかったという事実は、未練みれんがましく僕の心にはりついたままだった。


 ソラが送ったあの最初の短冊をそっとなでながら、僕は今でも時々、とおい地球に思いをはせる。そして、そのたびに記録を読み返してはあざやかな思い出にひたるのだ。

 そうやっていつものように時間をつぶしつつ、僕はふところから一枚いちまいの紙を取り出した。


「父さんと母さんにまた会えますように」


 そうしずかにいのって、ソラの短冊のよこにならべてみる。空にかがやく星たちは、この願いを聞きとどけてくれるだろうか。


 ガチャリ——。


 ふと、僕の背後はいご玄関げんかんのとびらが無機質むきしつな音を立てて開いた。せまる足音。昔とまったく変わらない、二人分のその足音。


「ただいま」


 ふりかえった僕のまわりをまばゆい光がつつみこむ。視界をめ上げる黄色いかがやき。強くまたたく、希望きぼうの光。

 むねにずっとつっかえていた、最後の星のカケラ。それは、まるで祝福しゅくふくするかのように家中を飛びまわり、三人の未来を明るく照らし出した。


「おかえり……! 父さん、母さん!」


 僕の仕事は、願いは、これでおしまい。思いっきり一歩ふみこんで、僕は二人のむねにそのはれやかな顔をうずめた。

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ホシゴト* 〜星を集めるだけのお仕事〜 御角 @3kad0

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