十八 盗撮

 午前九時三十分を過ぎ。この時間帯、東京メトロ丸の内線は痴漢被害が少ない。

 本来の三島と安藤刑事の担当地域は四谷一丁目だが、痴漢被害が多発しているため、鉄道警察隊の要請で、三島と安藤刑事は、東京メトロ丸の内線の痴漢捜査に当たっている。三島は現場責任者として現場の刑事たちを指揮して命令を発する立場にあり、常時、無線で連絡を取っている。



 四谷三丁目駅から乗った、東京メトロ丸の内線各停池袋行ノ車両は、混んでいなかった。それなのに、吊革を掴んで立っている女の背後に、ピッタリ寄り添う男がいる。女の両の靴の間に、男の右の靴が入っている。一瞬、その靴の先が陽光を反射した。

 盗撮だ!証拠を撮せ!

 三島と安藤刑事は盗撮現場をスマホで録画した。

 三島の行動に気づいた周囲の乗客が、女のスカートの中を盗撮する男をスマホで録画し始めた。男は周囲の異変に気づいていない。


 三島と安藤刑事は男の背後に近づき、左右の腕を掴んだ。

「次の駅で降りてもらう・・・」

 男が身を硬くして立ち竦んだ。男は二十代後半だろう。周囲の乗客は、逮捕される男と、盗撮機具が仕込まれた男の靴を録画し、その場でネットに投稿した。



 列車が四ッ谷駅に着いた。三島と安藤刑事は男を列車から降ろして、丸ノ内線四ツ谷駅交番へ連行した。

 交番で、三島は男に、三島と安藤刑事が盗撮現場を撮したスマホの証拠画像を示した。

「すみません。出来心で・・」

 男の態度はしおらしい。

「衝動的な犯行だと言うのか?」

「はい」

 男の目が泳いでいる。しおらしさは不自然だ。


「衝動的に盗撮の機具をセットしたと言うのか?」

 三島は男を睨んだ。

「はい」

「そういうのは衝動的とは言わない・・・」

 三島は机の上にある、男の靴に仕込まれた小型カメラと、ズボンの中に配線されていた導線と、ポケットにあった動画のレコーダーを示した。

「・・・計画的と言う。悪質な犯行だ。それなりの罪状を覚悟するんだな。

 それと、お前の盗撮場面と逮捕場面はネットにアップされたぞ。

 今後は、社会的制裁を受けるだろう・・・」

 三島がそう言うと男の目つきが威圧的になった。

「肖像権の侵害だぞ!人権侵害だぞ!訴えてやる!」

 言葉使いも変わっている。これがこの男の本来の姿だろう・・・。


「このスマホの画像が犯罪現場の証拠だ。不満なら、地下鉄の乗客と検事と裁判官に言うんだな。

 署に連行してくれ」

 三島は四ツ谷駅交番の巡査に、四谷警察署からパトカーをまわして、被疑者を四谷警察署へ連行するように指示した。




【※ 鉄道警察隊】 

 鉄道警察隊は都道府県警察本部に設置された「執行隊」で、各都道府県警察によって異なるが、主に地域警察活動を統括する生活安全部若しくは地域部に属している。なお、沖縄県警察は県内の鉄道路線が小規模であるため、鉄道警察隊が設置されていない。

 主な任務は、鉄道施設における個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防及び検挙、事故の防止、鉄道にかかわる公共の安全と秩序の維持に当たることで、痴漢やスリ・置引・暴力などの犯罪の予防や捜査、踏切事故などの鉄道事故の防止や事故捜査・救助活動などが代表的な仕事である。

 平時、鉄道警察隊では独自に活動をしているが、大規模な事件や事故が発生した時は、発生地を管轄する警察署と連携して捜査活動を行う。

 鉄道警察隊とは別に駅前や駅構内に「〇〇駅前交番」「〇〇駅交番」などの名称で所轄警察署の交番が設置されている場合がある。駅前交番の勤務員は、その駅に鉄道警察隊の拠点が無い場合などに鉄道関係の犯罪に対応する場合もあるものの、あくまでも所轄警察署の地域課の一部であり、鉄道警察隊とは別組織であり。ただし、稀な例として、交番所長以下の勤務員が鉄道警察隊の小隊を兼任し、鉄道警察としての活動を実施する場合がある。

 鉄道警察隊に所属する警察官は、「鉄道警察隊」のネーム入り腕章をはめている他、襟には日章に「R」「P」の文字に挟まれたレール断面マークが入った記章を着けている。

(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』) 

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切断処刑 暗殺ミッション② 牧太 十里 @nayutagai

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