十七 四谷署の相棒

 午前九時三十分を過ぎた。

 三島は生活安全課に戻った。安藤刑事が待っていた。

「いつものように丸の内線のパトロールをしますか?」

 痴漢被害が多発している。鉄道警察隊の要請で、三島と安藤由香刑事は東京メトロ丸の内線の痴漢捜査を担当している。

「そうだ・・・」

 三島は安藤刑事にそう答えた。惨殺事件が気になってパトロールに気乗りしないと思いながら、三島は安藤刑事を連れて生活安全課を出て四ッ谷署を出た。


 四谷三丁目駅へ歩く道すがら、安藤刑事が三島に訊いた。

「惨殺事件の被疑者が気になりますか?」

 安藤刑事も今回の連続惨殺事件を気にしている。

「ああ、気になるが、担当は本庁の一課だ。

 安藤は事件についてどこまで聞いてる?」


「本庁の刑事部捜査第一課の刑事たちが被害者たち上層部の犯罪を隠蔽していた、と聞いてます。

 それなのに、惨殺事件の捜査本部は本庁にあって、担当は刑事部捜査第一課です。

 どこまで本気で捜査するんでしょうね・・・。

 上層部は所轄の警察官に口止めしてますが、悪事千里を走るです。

 警視庁管内で今回の事件を、つまり、上層部の者が部下を使って犯罪を隠蔽したため、その上層部の者たちが惨殺された事を、知らぬ者はいないでしょうね」

 そう安藤刑事は話した。


 安藤刑事の説明を聞きながら、三島は考えた。

 安藤は事件にずいぶん詳しいじゃないか?父と同様に、こいつも被疑者か?

 連続惨殺事件の捜査本部は本庁に設置され、刑事部捜査第一課が担当してる。一課の刑事たちは、惨殺事件の被害者、茂木(監察官、警視)、霧島(課長、警視)、臼田(副総監、警視監)、若松(本部長、警視長)の部下たちだった者が多い。そいつらは皆、臼田と若松の犯罪を隠蔽するのに荷担したはずだ、と考えたから、吾妻直輔参事官(警視正)と東条肇課長(警視・刑事部捜査第一課課長)は、私と大嶋と池上に特命を下した。

 吾妻参事官と東条課長は、我々を除いて誰も信用していない。おそらく、この安藤もだ。仮に、この安藤が被疑者とすれば、犯行時刻は・・・夜か・・・。

 犯行現場をどうやって探した?あの犯行現場では過去に犯行は無かった。どの現場も廃工場になったのは数年前だ。

 それ以後、現場が何かで使われるとしたら・・・、最近流行の廃工場見学ツアーだ。その先駆けは、廃工場を使った映画やドラマ製作だ。

 おそらく三つの事件現場は、マニアの間では知られた場所だ。被疑者だけが知っている場所ではない・・・。


 私は大嶋と池上にこう話した。

『今後の犯行は無いだろう。臼田と若松と霧島の不祥事が判明して目的を果たしたはずだ。

 被疑者が残した録音に、臼田と若松の不祥事現場にいる霧島の画像を、霧島に見せているような会話があった。

 被疑者は、霧島たちが撮った画像を入手できる立場にあって、鑑識に詳しい所轄の警察官と断定していいな?』

『その線だな。本庁内の若手を除外するぞ。所轄署の方が動きやすいはずだ』

 池上が同意して、大嶋も納得した・・・。


 三島がそう考えていると、安藤刑事が立場上では知り得ない事を呟いた。

「被疑者は、臼田と若松が女を殺害する現場に霧島が同席していた画像を持っていたそうですが、画像を何処から入手したんでしょうね・・・」


 コイツも被疑者だ!コイツ、なぜ、臼田と若松が女を殺害した情報を知ってるんだ?!

 三島は驚くと同時に、考えが閃いた。

 おそらく今回の惨殺事件は上層部の不祥事暴露だけが目的ではないだろう・・・。

 臼田と若松は組織から女をあてがわれてた。その女たちの身内が事件の被疑者の可能性は否定できない。女たちを調べたいが記録が無い。どうしたらいいか?

 もし、臼田と若松がみずからヤクザに自分好みの女を調達させてたなら、上層部の不祥事暴露を動機に見せかけて、その女たちの身内が復讐したと考えられる・・・。

 只野巡査部長やこの安藤の身内が誘拐されて臼田と若松に殺されたとしたら・・・。警察官の身内が、何らかの被害にあっていなかったか、調べる方法はないものか・・・。

 そう考えながら、三島と安藤刑事は、四谷三丁目駅から東京メトロ丸の内線各停池袋行に乗った。

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