池中さんはもう池の中にいない

 山瀬さんが僕を校門で待っていた。

「最近の女子高生はミニスカじゃないんだね」

そう言って、スカートを引っ張る。行こうかと歩きだした彼女の後を僕は追いかける。隣に並ぶ。

 山瀬やませ星奈せいな。それか彼女の名前だった。病室で再会した山瀬さんは、にやっと笑った。彼女は一度心肺停止になり、生死の境をさ迷っていた。戻ってくる気配がなかったので、その体をもらったのだと、池中さんは笑った。死人になら入れるからね。

 僕は少し痩せた後姿を見る。池中さん。あなたはやっぱり悪霊だったんじゃないですか。なんであの場で急に自分語りを始めたんですか。すぐに助ければ山瀬さんは死ななかったんじゃないですか。もしかして、こうなることも、彼女の体を奪えることも計算だったんですか。

どれも口には出さない。だって、僕もそれを望んでいたから。

池中さんはもう池の中にいない。僕の隣にいる。

 

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池中さんは池の中 いぬきつねこ @tunekoinuki

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