第22話 類は友を呼ぶのはどうやら本当らしい

不審者さんと接触(物理)はあったものの、どうにか約束の時間五分前に到着することができた。これも我が妹の手作り朝食を血涙を流す思いで我慢した結果である。


「やってみたことがあったんだよな!」


そう、俺にはこのシチュエーションでやってみたことがあるのだ。

男が人生で一度はやってみたいシチュエーション第三位(海翔調べ)の…


「ごめん、待った~?」


「ううん、今来たところだよ」


そう!「待った?」「今来たとこだよ」のやりとりシチュなのだ!

カップルの定番ともいえるこのやり取り!

ドラマなどでよく見ており、見た時絶対にやってみせると意気込み続けて早数年。

一度は体験したかった!

ありがとう!ありがとう胡桃沢!


「む~~~!」


おっと、レディを無視していたね。

背後で可愛く唸っている胡桃沢がいる。

振り返って胡桃沢を見ると…


「胡桃沢お前…」


「え~どうしたの?」


「お前…」


「ん~?」


「そんなに可愛かったのかよ!」


「え?」


まず目を引いたのはうっすらピンク色になっている小ぶりな唇。

そしてくっきりと二重の瞼に胡桃沢の特徴である綺麗な琥珀色の瞳。

見ているだけで吸い込まれそうな魅力がある。

そして存在感を感じない形のいい鼻。

そしてなにより俺が一番好きな髪型である肩で綺麗に切りそろえている茶色のボブ。

仕上げとばかりに綺麗な茶色の髪は内巻きになっており学校でも見ているがそれとは違う魔性の魅力がある。そしてこのデートの為に程よく化粧があしらわれているのを見て、愛らしさすら感じてしまう。

そして胡桃沢の身を包むファッション。

淡い赤色のセーターに胡桃沢の綺麗な髪と同じ色のコートを羽織っている。

腰まで上げられているデニムのズボン。

以外にも足が長いのが見て取れる。

手に持つおしゃれバックまでアクセサリーとして身に着けている。

こうしてみるとカジュアルというか、制服も無論胡桃沢は可愛いのだが私服になると大人っぽさが出てこれまたいい。

庇護欲をそそる制服胡桃沢と大人っぽい私服の胡桃沢。

どっちも可愛いのだ。周りの男どもが先ほどからちらちらとみているのだがぶっ飛ばしてやろうかと。今日の胡桃沢は俺が貰わせてもらおう。


「え、あ、あいがとう…」


ん?なぜか頬がうっすらと朱色に色づいている胡桃沢。

風邪でも引いたのか!?それとも熱があるのか!?

それは大変だとばかりに俺は胡桃沢の小さな額に自分の額をぶつける。


「ん、よかった。熱は無さそうだな」


「…へ?あっ…うぅ…」


先程長々と語っていた海翔。

そう、

海翔は自分の心の中で呟いていたつもりだがばっちり声に出ていた。

極めつけは胡桃沢は海翔の謎行動。死体撃ちとばかりに胡桃沢の心を壊されあまりの恥ずかしさに頭から湯気を上らせていた。


「すこしそこのベンチで休んでから行こうか」


「はぅ…」


噛んだのかな?可愛いなぁ。

海翔は自分のせいでこうなったとは微塵も想像してなかった。





【side/天音楓】


私こと天音海翔の妹である楓は兄の初デートともいえるこの日。

どこのめすが私の兄をたぶらかしているのかと、私は兄の後ろを尾行していたのだ。


「途中不審者とぶつかってて心配したけどどうにかここまで来ることができました」


私は気づかれないように人込みに紛れている。

普段の私じゃ着こまないような服装にサングラスとマスク。

私が楓だとバレる要素は一切無いと言っていいだろう。

いつかの為に買っていたのがやっと功を奏した。


「そてはりこみっと…きましたね!」


張り込みをしようと双眼鏡をバッグからだし覗いていると海翔くんの背後から綺麗な可愛らしい女性が近づいていた。

間違いない、彼女が例の人物だと。

茶色のボブカット。海翔くんの好みのど真ん中ストレートじゃないですか。




しばらく観察していると女性の方がみるみる内に顔が真っ赤になっていた。

あぁまたやってるよ海翔くん。

そう、海翔くんは時偶に独り言をつぶやくことがあるのだ。

海翔くんは心の中で呟いているつもりなのだが声に出ていることがあるのだ。

恐らくだが海翔くんに口説かれているのだろうと私は予想をつける。


しばらく見ていると海翔くんと女性の顔が重なった。


「……え?重なった?…へ?」


一瞬で頭が真っ白になった。比喩でもなく本当に。

双眼鏡でもっとよく見てみる。

けれどもやっぱり二つの顔が接近して重なっている。

これってつまり…あれですよね…?

こんな人がたくさんいる所で…?

海翔くんならやりかねないところがなんとも悔しい。

私だってしてもらったことないのに!


「むきぃ!」


近くにいる男性が苦笑いをしていた。「すいません」と頭をさげる。


「あ、どっかにいきましたね。見失いました」


私はきょろきょろと周りを見渡す。


――きょろきょろきょろきょろきょろきょろ。


ふと隣にいた男性が目に入った。

んんんんん?


「えっとあなたは何をしているんでしょうか?」


隣にいる男性はこちらを一瞥すらさせずに言う。


「何って張り込みしてるんですよ。張り込み」


私が男性と言っていた人。

よくよく見ると中学生くらいでしょうか。

年齢なんかどうでもよくて、問題は今の彼の恰好としていること。


私と同じような全身黒色の装いにサングラスにマスク。

不審者ですかね?

それすらもどうでもいい。

彼は私と同じように双眼鏡で何かを観察していた。


「あのー、何を見ているんですか?」


彼はどこか怒気を孕ませた声でこう答えた。


「俺のお姉ちゃんに近づく不埒なおすを見張っているんだ!俺のお姉ちゃんはどこか気が抜けているところがあるから俺がしかっりしないと…」


なるほどシスコンなんですね。リアルでシスコンなんて初めて見ました。


「もしかしなくてもお姉ちゃんって茶色のボブの方だったりします…?」


「あぁそうだけど」


すーーーーーーーっ。(息を吸う音)


「男の方はイケメンでした?」


「イケメン…?悔しいがそうだった。それがどうした?」


あーー、これは。そういうことですよね?

そういうことなんですよね神様?


「もしかしなくてもそれ、私のお兄ちゃんかもしれません…」


すると初めて彼がこちらを向いた。双眼鏡は外さないんですね。


「ほんとうなのか…?そんなことがあるのか…」


「多分…なんかキスみたいなのもしてましたよね…」


言った瞬間私はしまったと言ったことを後悔した。


「あぁ…ゆるさねぇ。お姉ちゃんの初キスは俺が貰うはずだったのに…」


あー。この人やばいですね。髪色が似ているので実の姉でしょう。

もうやばすぎて言葉がみつかりません。

しかし、どんなにやばかろうと使い道はあります。


「どこに行ったかわかります?見失ったんですよ」


「あぁ、お姉ちゃんとおすはベンチにいったぜ」


彼の指を指す場所をみると、そこにはやはり海翔くんがいた。

やはり私の兄と彼の姉は現在進行形でデートをしているようだ。


「やはり私の兄ですね…」


「そうだったか…」


「そこで提案なんですが、同盟を組みましょう。」


「同盟?あぁ、そういうことか」


「どうです?あなたも自分の姉が心配。私も兄が心配。目的は一致しているはずです」


彼は顎に手を置き思案する。


「いいだろう、同盟を組もう。俺の名前は胡桃沢修。君は?」


「私の名前は天音楓。こちらこそよろしくお願いしますね?」


「もちろんさ」


「「ふっふっふっふ」」


修と楓は駅通りで不敵な声をあげた。

ここに『シスコンブラコン同盟』が結託された・・・



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日も俺はわがままお嬢様に振り回される~わがままお嬢様に告白された無自覚イケメンは、癖が強いメンバー(美少女多数)と学園ラブコメを謳歌する~ マッソー! @masso0426

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ