第21話 偶然×邂逅

【side/天音海翔】


「勇者さま~!」「勇者さまありがとうございます!」「わーい、勇者さまだー!」


民衆が凱旋パーティで現れた勇者一行に歓声をあげる。

それもそのはず、俺たち勇者パーティは何十年と野さぼっていた魔王軍団を倒し、我々人類に平和をもたらしたのだ。女神様が裏ボスとかどんな冗談かと思ったが、無事倒せたので問題ない。色々混乱するだろうがそれらは勇者の俺の領分じゃない。教会とか聖女様とかそこらへんだろう。

俺はのんびりスローライフを謳歌するのだ!


「カイくんやりましたね~!」


隣で民衆に手を振っている聖女が亜麻色の髪をゆさゆさと揺らしながら話しかけてきた。

慣れてはいるがやはり聖なる雰囲気を醸し出しており、近くにいるだけで浄化されそうだ。べ、べつにやましい考えなどもっていないぞ、もちろんな。


「ふん、あんたなんかいなくても魔王なんて私の魔法で一発よ!」


「そうは言っても君の魔法は魔王には全く効かなかったじゃないか」


「うっさいわね!本気だしてなかっただけよ!」


侯爵令嬢上がりの魔法使いはなにやらイケメン剣聖くんと喧嘩をしているようだった。ラスボス相手に本気出さないって一体どんな縛りしてんだよ!

まったく、やれやれだぜ…

ここは勇者でもあり、このパーティのリーダーでもある俺が仲裁しようではないか


「おまえら落ち着けって…」


「そういえばあんた、私が正妻なのよね?もとはと言えば私は侯爵家の娘だし?当然っちゃ当然よね。」


「な、何を言ってるんですか!私がカイくんとけ、け、結婚するんですから~!」


「あんたね!」「ま、負けませんよ~!」「わわわわわわわわわわ」


イケメン剣聖君壊れちゃってるじゃないか。

俺をめぐって争わないでくれよ…ぐへへ。


「「どっちにするの!」」


まったく、やれやれだぜ…




//////////////////////////////////////


「ぐへへ…」


「海翔くん!時間やばいですよ!いいんですか!あと気持ち悪いです!」


「んにゃむにゃ・・・」


「そんな漫画みたいな擬音今はいらないですから!やばいですって!」


楓は右手を大きく振りかぶり、愛する兄へ目覚ましビンタをお見舞いする。

(許して…)


―――ペッチーン。


快音が海翔の部屋に響き渡った。デジャブを感じざる得ないが起きない海翔が悪い。


「なんだよ楓、痛いなー」


「海翔くん時間みてください!」


なにやら心に深刻なダメージを負いそうなことを言われた気がするが気のせいだろうか?

俺は可愛い妹に促されわけもわからずスマホの電源を入れ時間を確認する。

目に入っていた数字は…


「やべっ、寝坊した!がちやばい!」


目に入った数字は9時10分。

集合は駅前10時となっている。

準備して家を出るまで三十分といったところか。


「ごめん、朝ごはん今日要らないわ!」


「わかりましたよ」


普段なら涙を流しながら妹お手製の朝食をいただくのだが、今はのんびりしている時間はない。男の支度は時間がかかるのだ!


妹と夜中までかかったファッションショーのせいだろうか。

瞼がいまだに重たかったが、顔を洗いシャキッとさせる。

歯を電光石火の速さで磨く。もちろん隅々まで丁寧に。

昨日妹と決めた渾身のファッションに身を包みいざ出陣!


「そういえば海翔くん今日はどこに行くんですか?」


玄関のドアに手を掛けたところで妹の楓に声を掛けられた。

言ってなかったっけと思いながら別に隠すことでもないので伝える。


「あぁ、駅付近の大型ショッピングモールだよ。最近できたばかりらしいしちょうどいいやと思って。」


「なるほどそこですか…」


楓はなぜか険しい顔でなにやら考え事をしているようだった。


「とりあえずもう行くな!夕飯までには帰って来ると思うから!」


楓からの反応がなかった。まだ何か考えている様子だったのでもう一度いってきますと声を掛け外に飛び出した。


「一体どこのめすが私の海翔くんに手を出したの…ふふふ」


楓は海翔が過ぎ去った後の家の玄関で妖艶な笑みを浮かべた。





「まずいまずい、遅刻する!」


汗をかかない程度に駅に向かって駆ける。

幸いそんなに遠くはない。好条件な立地に家を建ててくれた両親に感謝する。

海を越えて届けばいいなと、そう思いながら。


けどまぁ、走りながら目の前の光景を見ず、別の事に脳のキャパを使っていると当然———


「きゃ!」


―――曲がり角で誰かとぶつかるようなことになってしまう。

ぶつかった相手は少女だった。

ぶつかった少女は道にお尻から着地してしまった。

幸い怪我はしていなさそうだったが…

帽子とサングラス、おまけにマスクといういかにも不審者な装備を決めているため顔はよく分からなかった。

とりあえずよそ見というか、ダッシュしていたのにも関わらず周りをよく見ていなかった俺に非があるので謝罪する。


「すみません!周りよく見ていなかったです!怪我はないですか?」


「…へ、あ!」


「どうしました?やっぱりどこか怪我してました?」


俺の顔を見るや否や素っ頓狂な声をあげた不審者さん。

どっかで見覚えあるなーと思いながらもとりあえず話す。


「いえ!そういう訳ではなくて…」


「そうでしたか!すみません俺これからデートなんで先行きます!」


「へ!で、デート!?」


「はい…ってなんでそんなに驚くんですか?」


「は、いや、違くて…いや、何も違わなくて…あわわわわ!」


ん?壊れたのか?頭打ってなかったよな?

手や足を使って何か表現?している。なかなか可愛い。

とりあえず時間がやばそうだ。

デートで遅刻は男の風上にもおけん。見惚れずにここは撤退しよう。


「すみません、ほんとに時間ないんでなんかあったらここに連絡してください!」


何かあったように連絡先を書いた紙を渡す。

これでもう行っていいだろう。


「すみませんでした!それじゃ!」


「へ!?」


俺は天使のいる元へ向かうため、大地を力強く踏み込み駆けた。



【side/???】


彼は「それじゃ!」と言ったっきりすごい速さで走っていった。速かった。


「それにしても口調戻ってるじゃん…敬語やめてって言ったのにー」


彼女はそう、不満げに誰もいない路上で呟く。

彼は分かっていなかったようだったが、私は彼の事を覚えていた。


「覚えていたっていうか、会ったばっかりなんだけどなーなんだか自身無くすなー」


を決めているため気づかれないのは仕方ないとはいえ、やはり何かしらの反応は欲しかった。


「それにしてもデート、ねー?」


まぁ、別に私には関係ないし?どうだっていいし?


「けどの連絡先貰っちゃった!ふふ!」


どっかの誰かさんじゃないが、気分ルンルンである。


「いやはや、かっこよいねー海くんは!」


海翔のことを『海くん』と呼ぶ彼女は一体どういう関係なのだろうか。

どのような関係があったのだろうか。あの時が初対面という訳ではなかったのか。


私は海くんの連絡先の書いてある紙を握りしめ、街のほうへと歩いて行った。


奇しくも、大型ショッピングモールのある方角だった。

もう一度邂逅することはあるのだろうか・・・・・・







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