幸せのカタチ
結婚してから2年がたった。
妻は今、第1子を妊娠している。
俺が前世が女だったからって
相手の気持ちがわかるわけではないし、
ましてやホルモンの変化がすごい妊婦の経験なんてないから
もう過去のことなんて参考にもならない。
俺はもう男性の人生をきっちりと生きている。
俺の子を産んでくれるなんて、
珍しいことを決意してくれたんだ。
少しだけおなかが大きくなった妻と
今後の打ち合わせをしている。
妻はつわりもそれほどひどくもなく、
仕事も限界まで続けるそうだ。
安定期に入ったから多少の仕事は入れてもいいかもしれないが、
ドラマや映画なんかは無理だろうな。
昼夜逆転しすぎる。
自宅で、お互いに休みを合わせて、相談している。
「これからの仕事どうしようか」
カフェインレスのコーヒーを飲みながら、彼女の決意は固かった。
「私は絶対にやめないわ。
今やめたってもう私には
どこにも生きる場所なんてないのよ」
「確かに。俺もそうだ。よし出産前にできるだけ稼ぐとしよう」
「ええ。無理のない程度にって仕事も妊婦特有のものになってしまったわ」
「例えば?」
「マタニティのモデルをしているわ」
「それなら、負担を最小限にできるな」
「ええ」
これだけ顔が売れてしまっては、
一般社会で生き抜くことも、また大変だろう。
お互いに引退せずに、
芸能界で生きていくことを決めた。
無事に子供が生まれ、
妻は育休を取得し、
子供の手が離れるまでは仕事をセーブしてくれるそうだ。
「それと体型を元に戻すのは本当に大変なんだから。
すんなりできる人もいるけれど、
ホルモンの関係でのことなんだから。
人前に出れるような元のスタイルに戻すっていうのは
本当に大変なの」
男性はまだまだ分かっていないとそういいたいらしい。
「確かに、大変そうだな」
「はぁぁぁ。母乳あげるのが終わったらチョコ食べたい。
お酒も飲みたい。
コーヒーも市販のカフェイン入りのみたい」
……かなり、――いや、相当に我慢しているようだ。
本当に、睡眠時間が足りない。
いつでもどこでも目をこすっていて、瞼がくっつきそうである。
「危ないから。食事は俺が作るから」
「……あり――がと……」
お礼を言うのもやっとだ。
☆☆☆
授乳の期間が終わったらしく、
今度は妻はあちこち走り回るようになった。
「待って待って待って。そっちじゃなくって」
伝い歩きができるようになり、
アチコチ冒険しては汚していくので、
妻は掃除用具片目に追いかける日が続いている。
「ああ、おかえりなさい。今食事を作っているところよ」
笑顔がまぶしい彼女である。
「今日はカレー」
そして芸能界でオシドリ夫婦としての地位を築いている。
☆☆☆
子供が保育園に通うようになり、
妻は少しだけ仕事を解禁したようだ。
ある日、妻がTV番組にでた。
「結婚当時、お子さんには
『芸能界には入らせない』とおっしゃっていましたが、
現在は旦那様はどうですか?」
「あのコメントを聞くと厳しいと思われるでしょう。
でも、うちの子はおもちゃのマイクをもって歌って踊っています。
もしかしたら芸能界に入るという道もあるのかもしれませんね」
「旦那さんは断固反対なのでしょう」
「そう思いますでしょ。
家では子供にメロメロですよ」
「じゃあ、お子さん次第ですね」
「そうなりますね。
将来が楽しみですわ」
妻の言う通り、将来が楽しみだ。
まだまだ稼がないといけないから、
今の事務所でやっていくつもりだ。
もう若手俳優といわれる年ではない。
演技派俳優として堂々と評価されるように、
これからもがんばるだけだ。
映画に、ドラマに雑誌のモデルまで、
できるものはなんでも仕事に入っている。
これからもガンガン主役に入って作品を彩ってやる。
END
人気女優が転生したら中の上の男だった! 朝香るか @kouhi-sairin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます