婚約会見
☆☆☆
敏腕マネージャーの計らいにより、
婚約会見が14時より開催する。
(1月7日にすることないのに。マネージャーの目立ちたがり屋)
内心思うところはあるが、あいさつをする。
「えー、お集まりいただきありがとうございます」
「婚約会見をはじめます」
さっそく質問が飛ぶ。
「結婚ではないのですか?」
「結婚前提の婚約です。
彼女・高木華は芸能の道に入ってまだ日が浅い」
マイクに向かい、力説する。
「彼女が俳優として成果を出すまでは
芸能を極めてほしいのです」
婚約会見だというのに
気が早い質問をする記者はいるものだ。
「彼女さんはお子さんはいらないのですか?」
高木華が答える。
「私が芸能界に入ったのは演技を極めたいと思ったからです。
子供を授かれることがあれば、
もちろんうれしいですが、
結婚してからかなとは考えております」
「未熟な二人ですが、芸能をこれからも極めるために
過度な報道を控えていただきたく会見をする運びとなりました。
質問はぜひ今お願いいたします」
「では、出会いはどこで」
「事務所の忘年会です」
彼女がマイクを取る。
「先輩と一緒に出席したら、
『一目ぼれ』だといって声をかけてくださったんです」
「引き合わせてくれた先輩というのは?」
「事務所の先輩の華原ゆいさんです」
登場人物の素性もわかった。
面白みのない会見だとわかると
ぱらぱらと質問をする手が上がらくなり、
すぐに閉式となった。
閑散とした会場を見て、敏腕マネージャーは吐露する。
「あっという間だったわね」
「私がまだ無名なものですから。こんなものではないでしょうか」
彼女にフォローは忘れない。
「すぐに無名ではなくなるさ」
☆☆☆
それから数か月
俺はセリフ覚える彼女をささえ、時に指導し、喧嘩にもなった。
「その解釈はどうでしょう。
私は彼女の心情を思えば、
ここを強調することで解釈が深まりますわ」
「だが、他の人のこのセリフがある。
ちょっと解釈違いじゃないかな」
「――あ、そうですね」
彼女は見かけによらず、熱しやすく、冷めやすい。
喧嘩まがいの言い合いをしてから半年。
福原監督の口添えもあって、
映画の主演をすることになった。
「主演なんて、どうしましょうか」
「それだけ高木の演技が魅力的だったんだよ」
「私、頑張ります」
その映画が評価され、
クロデミ―賞を高木華がとることになった。
ここまで2年。新人俳優に関しての待遇としては破格の扱いだ。
(俺の知名度を利用した感は否めないが、
濡れ場とかする監督に目を付けられる前でよかった)
福原監督はホラーやアクションなど危険な場面はこだわるが
エロティシズムは追及しない監督だ。
やっと結婚する要件をクリアできた。
彼女の両親にも挨拶に行ってきた。
父親には一言、「いいぞ」と言ってもらっている。
母親からは「ふつつかな娘ですが、よろしくお願いいたします」
と定番のセリフを言ってもらった。
マネージャー補佐に役所に出向いてもらい、
婚姻届けをもらってきている。
署名、捺印を済ませ、ニコッと笑いかける彼女。
「やっと結婚できますわね」
「そうだな。あっと。これを」
懐から取り出したのは結婚指輪だ。
「ありがとう。これからもよろしくね」
「それはこちらのセリフだ。もうひと仕事あるしな」
☆☆☆
きちんと結婚記者会見を開く。
(今度は七夕に記者会見とは)
敏腕マネージャーはとにかく目立ちたいらしい。
マスコミからこんな質問が飛んだ。
「大きくなったら芸能界に入りたいと
お子さんが言われたらどうしますか?」
「断固、反対します」
「それは厳しいお父さんになりそうですね」
「そうですね」
「これからもよろしくお願いいたします」
2人そろって頭を下げて取材はこれっきりにしてもらった。
マイナーな雑誌はしばらく書き立てているが、
主要メディアは沈黙してくれた。
SNSでは
『お似合い』
『ちょっと年の差じゃない?』
『でも芸能人ならそれくらい許容範囲でしょ』
『好感度、神だよね』
皆、納得してくれたようで、何よりだ。
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