手土産
天上には季節がない。
穏やかな気候は地上で育った身には物足りず、娘は飽かず雲間を見下ろす。これを龍神とのあいだにもうけた幼子が真似をして、大小ふたつの背中が微笑ましく並ぶ。
ある日のこと。龍神は二人の前に小さな箱を置いた。
「なあに」
「開けてみな」
噴き出した一面の桜吹雪。ときに蝉時雨、ときに鹿の音。以降、父は四季折々を箱に詰めて土産とした。
「今日はなにかな」
「なんだろねえ」
その箱からは木枯らしが吹き荒れた。枯れ葉の転がる音、鋭い冷気。身を寄せ合った母子を、龍神はさらに引き寄せる。
「こういうのも悪くないだろ」
「お父、寂しかったの?」
幼子の一言に父の体温がかっと上がり、寄り添う三人を温めるのだった。
龍神と娘 草群 鶏 @emily0420
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