第23話 セレナレティカの花と、湖とほこらと、クワクワゲココさまのことと、どうくつと

 大きな道を進むと、湖が見えてきた。

 道の両脇に、たくさんのセレナレティカ。


「うわぁー! すごいっ! あれっ、セレナレティカの花よねっ! たくさんあるっ! すごいおいしそうな匂い! 毒だとわかってても、食べたくなっちゃうっ!」


 おどろいた表情のあと、うれしそうな顔で、よろこびの声を上げるソフィア。


「ダメだよ、姉さん。毒なんだから。でも、おいしそう……」


 ベリル君がソフィアに注意したけど、おいしそうな匂いにつられているようだ。

 そんな2人をわたしは、ニコニコしながらながめた。


 セレナレティカというのは、花の名前だ。

 大きな、丸い形の花と、大きな葉が目立っている。

 今は、あわい黄緑色の花だから、森の中では地味に見える。


 この花は、水の月(6月)に咲く。

 咲きはじめは、あわい黄緑色なんだ。

 つぎに水色になり、ピンクになってから、あわい紫色になるふしぎな花だ。


 花と葉が、とってもおいしそうな匂いがするけど、食べてはいけないんだ。毒だから。

 毒があるのは有名らしくて、みんなわかってるんだけど、とてもキレイな花だし、夜じゃなくても、暗い場所におくと、ほのかに光るので、貴族にも人気なのだそうだ。


 ここは明るい場所だから、光ってないけど。


 ベリル君がこっちを見て、口をひらく、


「……あの、この花から、妖精が生まれるって、ほんとなんですか?」


「うん、ほんとだよ。わたしは見たことないけど、妖精が生まれるのを見たって言う人は、多いらしくて。それで、妖精に聞いてみたんだけど、朝早くや、夜に、セレナレティカから、生まれることが多いって、そう言ってたから」


 わたしの言葉に、ソフィアとベリル君が、ものすごい笑顔になった。



 湖を離れた場所からながめたあと、近くにあるほこらに行った。そこからどうくつも見えるので、ソフィアとベリル君が、「大きい」とつぶやいていた。


「――あっ、野菜っ! クレハおばあちゃんから、もらってきたんだったっ!」


 わたしは、手で持っていたふくろの中の野菜を思い出し、声を上げる。


 すると、「あっ、持ってたのって、野菜だったのね」と、ソフィアがつぶやく。


「うん、そうだよ。クワクワゲココさまはね、野菜が好きなんだ。クレハおばあちゃんが前に、そう言ってただけなんだけどね」


 夢で、クワクワゲココさまが、クレハおばあちゃんのことを話してたから、好きというのは、夢か森で、クワクワゲココさまから聞いたんだろうな。


 そう思いながら、わたしは布のふくろから、深緑色の細長い野菜――キュッキーニを3本とり出し、ほこらの前に並べる。


 夢の話は言わないけど、これぐらいならいいよねと思い、わたしはソフィアとベリル君を見て、口をひらく。


「ココ村につたわる話ではね、クワクワゲココさまは、深緑色の身体で、手と足には水かきがあるんだって。口には、紺色のクチバシがあるといわれているよ。この湖で、深緑色のなにかが、およいでいたのは見たことあるんだ。夏に、クレハおばあちゃんと見たんだよ」


「――まあっ! すごいわねっ! クワクワゲココさまって、ほんとにいるのねっ!」


 はしゃぐソフィア。かわいいなぁ。


「わたしが見たのが、クワクワゲココさまなのかは、わからないけどね。でも、この森に、クワクワゲココさまがいるというのは、信じているよ。守ってくれているのを感じる時があるから」



 みんなでどうくつに入ると、とても美しい世界が待っていた。

 赤、青、緑色、空色、黄色、黄緑色、紫、ピンク、白、水色、銀色、金色の光。

 ほのかに光る黒いのは、闇の精霊だ。


 精霊たちが見えるのは、わたしとベリル君だけだけど。


 精霊たちが見えなくても、精霊石や、ほかの光る石や、光るキノコがたくさんある。

 だから、だいじょうぶだと思うんだ。


 ロイとリュアム君は、キレイだと感じてるみたいだし、ソフィアにも、キレイに見えるといいのだけれど。


「ソフィア、見える?」

「ええ、キレイね。感動したわ」

「よかった」


 わたしたちはしばらくの間、美しい世界を楽しんでから、外に出た。


 すると、金色の石が5個、落ちているのが見えたのだけど、そのすぐそばに、空色の小鳥がいたので、びっくりした。


「うわっ! 空色? えっ? 魔獣?」

「しずかに」


 大きな声を出したロイに、わたしは小さな声を出す。

 空色の小鳥は動かない。小鳥はじっと、こっちを見ている。金色の目で。


 小鳥から、魔力を感じる。

 だから魔獣なのだけど、金色の目は、めずらしい。


 空色は、風の魔力。金色は、光の魔力。


 ついでに、地面にある5個の石は魔石だ。

 さっきはなかった。


 だれかが魔石をおいてくれるのは、よくあることだけど、金色の魔石ははじめてだ。人数分ある。


 ――その時、光の魔石のそばにいた小鳥が動いた。

 パタパタと飛び、ベリル君の肩にとまる。


「えっ? なんでっ僕っ?」


 おどろき、どうしたらいいかわからない様子のベリル君の肩の上に乗り、「ピ」と鳴く小鳥が、とってもかわいい。


 わたしはつい、クスクスと笑ってしまった。

 ソフィアとロイとリュアム君も笑い出す。みんな楽しそうだ。

 みんなが笑ったせいなのか、ベリル君まで笑いはじめる。


 それでも小鳥はにげない。

 あぶない感じはしないので、わたしは魔石に近づいた。


「光の魔力を持った魔石だね。しかも、どの魔石も、同じぐらいキレイだし、大きさも同じぐらいだ。めずらしいし、高く売れそうな気がする」


 わたしが魔石を見下ろしながら、そう言うと、ふしぎそうなソフィアの声がした。


「足音とか、聞こえなかったと思うのだけど、だれがおいたのかしら? 小鳥さんじゃないわよね?」

「ピ?」


 ふしぎそうに首をかしげる小鳥がかわいい。


「魔石をおいたのは、クワクワゲココさまなんだぜ! ラナは、この森の守り神さまに、気に入られてるんだ」


 こたえたのはロイだった。


「クワクワゲココさまが、おいたかどうか、だれも見てないから、わからないけどね。もし、見てても、妖精や小人は、おしえてくれないし」


 わたしはそう言いながら、魔石を1個ひろって、近づいてきたロイにわたす。

 ロイは、「ありがとな」と言いながら、受けとった。


 それからロイが、「光の魔石を、ケガしたとこに近づけたら、治るのが、早くなるんだったよな?」と聞いてきたので、わたしは「うん」と、うなずいた。


 するとロイが、「ほい。大事にしろよ」と言って、リュアム君に魔石をわたした。

 なので、わたしはもう1個、光の魔石をひろって、ロイにわたす。


 ロイはニッと笑って、光の魔石を「ありがとな」と、受けとった。

 わたしは、のこりの魔石を1個ずつひろって、ソフィアと、ベリル君にも、手わたした。笑顔でお礼を言う、2人。


 そのあと、わたしは自分の魔石をひろう。


 みんなで、ほこらに感謝の言葉をつたえてから、わたしたちは、ポポノンの森を出たのだった。


 空色の小鳥は、ベリル君から離れようとしなかったので、家に連れて帰ることにしたようだ。


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ココ村の少女ラナ 桜庭ミオ @sakuranoiro

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