第22話 水の月(6月)、ポポノンの森へ

「……いろいろね。私とベリルが、お父さんとお母さんといっしょに、神殿に向かって、歩いていたら、数人の大人たちが、生タマゴをたくさんなげてきたり。ほかにも、いろいろあったけど、言いたくないわ」


 つらそうな表情のソフィアを見て、わたしは、「言いたくないことは、言わなくていいよ」と、つたえる。

 するとソフィアは、「ありがとう」とほほ笑み、つづきを話してくれた。


「お父さんとお母さんの友達とか、私たちを守ろうとしてくれる人たちもいたの。だけど、このまま王都にいても、その人たちと、その人たちの大切な人たちに、めいわくをかけるだけだから……。その人たちにも家族がいるし、王都で、はたらいてる人ばかりだったから。それに、お父さんもお母さんも、仕事をやめちゃって。だから、王都を出ることにしたの」


「どうして、遠いのに、ココ村まできたの? ソフィアのお母さんのお姉さんが、この村にいるのは前に聞いたけど、ソフィアたちがくる前に、わたしとクレハおばあちゃんがいるからくるっていう、ウワサを耳にしたの」


「えっと、どこから話せばいいのかな? お母さんのお姉さんは、10才、離れているの。そのお姉さんがね、親に反対されたのだけど、冒険者になると言って、18才の時に家を出たの。でも、妹である私のお母さんにはね、手紙を送ってたんだ。それで、冒険者になったお母さんのお姉さんは、ココ村出身の男の人と出会って、結婚したの。手紙で、王都から離れることにしたって、お母さんが手紙を出したら、しばらくして、ココ村にきなさいって、お母さんのお姉さんが手紙をくれたの」


「そうなんだ。よかったね」


「……うん。さいしょはね、お父さんの実家か、お母さんに実家に、行く予定だったの。お父さんの実家がある村も、お母さんの実家がある小さな町も、王都から近いけど、ひとまず、そこに行くかって。そう、お父さんとお母さんが、話してたから。でも、村に住む、お父さんのお父さんと、しんせきの人たちが、くるなって言ったらしくて。お母さんの両親は、いつでも帰ってきたらいいって、言ってくれたみたいなんだけど。でも、お母さんの実家の近所の人たちが、反対してるらしくて」


 そこまで言ったあと、ソフィアは泣きそうな顔をした。そして口をひらく。


「そのころ、王都の天気がおかしくなったの。急に雷が鳴って、嵐がきたりしてたの。天気がおかしくなったころから、ベリルが不安定で、家を飛び出すんじゃないかと、心配だったの。どうするって、お父さんとお母さんが話してる時に、お母さんのお姉さんが手紙をくれたの。その手紙にね、ココ村のことが書いてあったの」


「どんなこと?」


「えっと……おだやかで、やさしい人が多いとか、自然がいっぱいで、食べものがおいしいとか。森に、闇の魔力を持ったオオカミの魔獣が、昔から住んでいて、その魔獣は、ココ村の人や動物はおそわないけど、外からきたコウゲキ的な魔獣とかは、食べてくれるとか。その魔獣は、オオカミが苦手な人には近づかないとか、子どもの前では食事をしないとか、今は、ラナっていう女の子と、ケイヤクしてるとか。あと、薬草師をしているラナのおばあちゃんのことや、村長さんのこととかも、書いてあったの。それで、ココ村に行きたいって、私とベリルが言って、お父さんとお母さんが、これも太陽の女神さまのおみちびきだ。行こうって決めて、お母さんのお姉さんに、行くと手紙を出したあと、王都を出たの」


「そうなんだ。話してくれてありがとう」


 わたしがお礼を言うと、ソフィアがふわりと笑う。


「――聞いてくれてありがとう。私、ラナに会えて、しあわせよ」

「……僕もです」


 笑顔の2人に言われて、わたしはドキドキした。


「わたしもね、2人に会えて、しあわせだし、会えてよかったって、そう思ってるよ」

 きんちょうしながら気持ちをつたえて、わたしもニコリと笑った。



 つぎの日は、朝から晴れていた。

 今日から、水の月(6月)だ。


 クレハおばあちゃんにたのまれて、いつものように、ポポノンの森に向かって歩いていると、ソフィアとベリル君が追いかけてきてくれた。

 3人で、楽しくルネルネソウをつんでいると、ロイとリュアム君がきて、お昼ごはんを食べたあと、みんなで、ほこらとどうくつに行く約束をした。


 家に帰り、クレハおばあちゃんに、薬草をわたしたあと、その話をすると、クレハおばあちゃんがほほ笑んだ。


「そうかい。楽しんでおいで。でも、気をつけるんだよ」

「うんっ!」

「じゃあ、この薬草を洗って干したあと、アタシは、キノコとりに行くからね。るす番をたのんだよ」

「うんっ! 行ってらっしゃい!」



 クレハおばあちゃんがもどってから、キノコを見せてもらったり、部屋で、読書をしたりしていたら、あっという間に、お昼になった。

 クレハおばあちゃんといっしょに、お昼ごはんを食べたあと、ロイとリュアム君が、むかえにきた。


「行ってきまーすっ!」


 わたしがあいさつをしたら、クレハおばあちゃんが、布のふくろをくれたので、「なにっ?」って、聞く。

 すると、「野菜だよ。クワクワゲココさまに、わたしておくれ」って、クレハおばあちゃんが言ったので、わたしは、「わかった」と返事をした。


 そして、ロイとリュアム君といっしょに、家を出た。


 すずしい風が吹いている。

 空をあおぐ。高い場所に、金色の――光の精霊たちがいた。


 青い空と、白い雲。キラキラかがやく、光の精霊たち。


 ソフィアとベリル君の家に行くと、笑顔のソフィアと、ベリル君が、家から出てきてくれた。5人で楽しく、ポポノンの森に向かう。


 わたしは水色のワンピース姿。薬草をつむ時と同じように、紫色の魔石がついたペンダントを首にかけているんだ。

 ロイは黄色い服を着て、紺色のズボンをはいているの。練習用の木の剣をベルトにはさんでる。


 リュアム君は緑色のチェック柄の服を着て、茶色いズボンをはいているんだ。

 ソフィアは花柄の服を着て、紫色のズボンをはいているの。

 ベリル君は空色の服を着て、深緑色のズボンをはいている。


 ロイがいきなり駆け出して、それをみんなで追いかけたりしながら、ルンルン気分で、森に向かう。

 ポポノンの森に入ると、木もれ日が、キラキラしてた。


 青い色の――水の精霊たちと、緑色の――大地の精霊たち、それから空色の――風の精霊たち。

 花の周りには、蝶々がひらひら、ハチがブンブン、飛んでいる。


 あっ! トンボがいるっ!

 妖精だっ! 小人もいるっ!

 ひょっこり顔を出していて、かわいいなぁ!


「――あっ! ムムモモっ!」


 ロイがうれしそうな声を出したあと、草の上を走ってしゃがむ。

 道はいいけど、草の上を走るのは、やめてほしいなぁ。

 石とかあるかもしれないから、あぶないし、森の生き物がびっくりするから。


 そう、今まで何回も言ったけど、ロイは気にしないんだよね。


「ロイ兄ちゃん、待ってぇ!」

 走って、ロイのところに行くリュアム君。


 ロイは、リュアム君に笑いかけながら、「ほらっ、ムムモモだぞっ!」と言って、ムムモモの実をわたす。


「ムムモモって、ムムモモの実?」

 ソフィアがたずねてきたので、わたしはコクンとうなずいた。


「そうだよ。ムムモモの実。水の月(6月)から、炎の月(8月)まで、この森にあるの」


「気づかなかった」

 と言うソフィアに、わたしはフフッと笑う。


 ムムモモの実というのは、赤い、小さな木の実のことだ。

 ちょっとかたくて、甘酸っぱい味がする。


 薬の材料にもなるけれど、ジャムやジュースにしたり、お菓子に使ったりするの。

 とってもえいようがあるので、体調が悪い時に、食べたり、ジュースにして飲んだりするのが、おすすめだ。


 熱が高い時に口にすると、熱が下がったりする。

 あと、ちょっとした毒なんかも、身体から、出してくれるらしい。


 ロイが、ムムモモの実を持ってきてくれたので、みんなで、感謝のおいのりをささげた。

 そうしたら、金色の――光の精霊たちが集まってきた。


 光の精霊たちを見上げて、うれしそうなベリル君。

 わたしたちは、ムムモモの実を食べてから、湖と、ほこらと、どうくつがある場所に、向かった。

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