人魚漁で生きるニンゲンの罪と罰

突然ですが、作者様の正体は人魚だと思われます。
なぜなら、人間に、人魚の世界のディテールをこれほど細かく描けるはずがないからです。
本当は人魚なんだけど、理由があって人間になって生活しているのだと思います。
人魚の国のお姫様です、きっと。

さて、作品の話をします。
人魚漁を生業とする「わたし」は、人魚を殺すことに罪悪感がなく、「当たり前」とすら思っています。
そうなった経緯や漁の様子が、透明感のある文章で語られます。
胸が痛むシーンも、澄んでいて美しく、私はとても好きです。

オリジナリティある人魚観にも惹かれます。
例えば、人魚漁にはシルクの網を使うこと。
人魚は匂いに敏感で、船に血が残っているとすぐに逃げてしまうこと。
人魚は毒を吐いて生まれ変わること。

また、この小説では、人魚を食べて不老不死になることへの恐怖、ヒトに似た生物の肉を食べることへの嫌悪が描かれています。
これまで、不老不死になる「前」の絶望に注目した物語を読んだことがなかったので、新鮮でした。

もう1つ、私が感じる魅力を書きます。
それは、ストーリーがしっかりとある小説でありながら、詩のような力強さも持っていることです。
私は、花森様の作品から、強い、大きい、激しいカタマリを感じます。
大きなカタマリのような何かに、ドンと胸を打たれています。
それが何なのかは、つかめていません。
劇薬の原液のような何かです。
私は劇薬の原液を飲みたい、いえ読みたいのです。
それは、私を生かしてくれる薬です。

最後に。
花森様の他の作品『にぎんょ』『うた姫』も人魚がテーマです。
人魚以外の作品も、全てすばらしいです。
ぜひ、お読みいただきたいです。