第3話
灰色の校舎を歩いていた。
中には人影らしきものは浮かんでいるが、それはまさに影だった。
輪郭もおぼろげで、男か女か、そして髪の長さくらいしか区別がつかない。
だが、会話だけははっきりと聞こえた。
ねえ、響きってさ、ちょっとイラつくよね?
わかる、何か自分だけはまともっていうか、見下してるよね?
私もそう思ってた。
イラつくよね、イラつくよね、イラつくつくつく…。
(これは彼女の記憶、か)
灰色の廊下を歩きながら、アレクは思う。
何て胸くそ悪いんだろう。
言葉もキツいが、本当にキツいのはその言葉の裏にある感情だ。
思わず胃液がぐっとせり上がってる感じがした。
(駄目だ、まともに感じてたらこっちがやられるな…)
人の心を『視る』ってのは、その感情ももろに味わうってことだ。
アレクはネガティブな感情には慣れていたが、こんなドロッとした嫌悪には慣れていなかった。
(少し、フォーカスをぼかすか、)
そう意識しようとした時、
『へえ、そうやって逃げるんだ?」
胸に突き刺さるような女性の声が後ろから響いた。
長い髪、そして手に握るのは血まみれのナイフ。
霧の街の少年 @haruakimomo
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