彼の「心」は迷子になりました。
昭和20年、戦渦の空。
零戦を駆る最中に起きた突然の不思議な出来事。
彼の「心」が不時着した先は……、
ーなんと、それから70余年後の平和な現代日本を生きる、ある男子高校生の「体の中」だったのでした。
「己の命を散らしても愛する者を護る」
その覚悟を宿した彼の目に映る、現代日本の軽薄なまでの有り様に失望しつつも、彼の「心」は帰り道を探し始めます。
元の己の体に…。
元のあの時代に…。
そして、居なくなってしまっている男子高校生の「心」の在り処も、ともに…。
その男子高校生の友人らの手を借りながら…。
過去と現代が交錯するこの物語。
その時代のギャップを見事に書き分け、際立たせた重厚な文体。
それは、厳しい戦時を生きた人の息遣いをすぐ間近に感じるほどに。
また、重厚でありながらも、綴られた文章は実に緩急自在で小気味良く、まるで音楽に乗るかのようにリズミカルな読み心地。
その極めて高い筆力で、冒頭から物語に引き込まれ、気付くと読者はその流れにただ身を任せるが如くに、その世界観に浸ります。
そして、そのまま感動のラストへと誘われ、雲間から射し込む光が照らし出すかのように明かされる、その不思議な出来事の持つ深い「意味」に、読者は静かに涙することとなるのです。
ーそして、
「人が人を真に想うこと」
「愛する者を護ること」とは?
と、自分に問いかけます。
選び抜かれた言葉のひとつひとつを、丁寧に紡ぎ織りなされた絹織物を思わせる美しい心情・情景描写。
そして読後は、海を渡る風が吹き込むような清涼感あふれる感動に包まれ、その風が吹き抜ける先の遥か彼方には、明るい未来への希望の光が見えてくるように感じます。
技のみならず、余白からも伝わる「心」。
それは、読むというより五感で感じるレベルで。
そんな読み応えを感じさせるこの作品。
どうぞ、この美しい絹織物の滑らかな手触りと清涼感。
そして、この読後の確かで本物の手応えを、
あなたも五感で感じてみませんか?
カクヨム掲載の小説を読んで目から変な汗が出てきたのは、この作品が二作目でしょうか。
書き手の視点から見ると、ストーリーもさることながら、登場人物や世界の設定、伏線の張り方など、小説としての完成度も非常に高いレベルでまとまっていると感じました。
アニメでも実写でもいいので、この作品を映像化したら結構ヒットしそうな気がするのですが……あるいは、次のカクヨムコンの現代ファンタジー部門に出してみるとか?
自分が出版社の編集者だったら、ぜひ推したい作品です。
<追記>
本作品は秋次郎サイドの物語ですが、出来れば悠真サイドの物語も読んでみたいですね。
時は昭和20年。海軍上等飛行兵曹としてお国のために戦っていた17歳の青年、秋次郎は、零戦に乗っていたところを謎の光に包まれる。
そして気がつけば彼は、七十数年の時を越えていたのです。
時を越えたと言っても、タイムスリップとは少し違います。秋次郎はこの時代の高校生、悠真の体に、魂が入り込んでしまったのです。
そこはもう戦時中の日本ではなく、平和そのもの。見たこともない道具がたくさんあり、元々いた日本とは文化もまるで違い、戸惑う秋次郎。
だけど一番頭を悩ませたのは、人間関係。自分は悠真ではないのに、両親や友達とどう接していけばいいのか。
迷い考える秋次郎ですけど、この時代で今まで知らなかった価値観。大切なものを学んでいって、友人達と絆を深めていく様子は、読んでいて心が暖かくなりました。
そして、秋次郎がこの世界に留まるか、それとも危険な戦争の時代に帰るのかも、大きな見所。
迷い悩んだ末に、秋次郎がどんな答えを出すのか。
二つの時代が交差する少し不思議なお話を、お楽しみください。
戦時中、零戦に乗っていたところで謎の光に包まれ、気がつけば見知らぬ場所で目を覚ました川島秋次郎海軍上等飛行兵曹。
しかし知らないのは場所だけではなく、時代もそうでした。彼が目を覚ましたのは、自分たち読書から見ると現代。しかも秋次郎の意識はとある少年の中にあり、彼の変わりに生きていくこととなります。
言うならば、異世界転生の逆のようなパターン。ですが、チートや無双のような話ではありません。
命をかけて戦っていた戦争も、過去のものとして見ることで感じる、当時とは違う思い。時を越えても、変わることなく抱き続ける、大切な人を思う気持ち。そして、この時代で新たに出会った人々。その一つ一つが、丁重に書かれていて、秋次郎さんの戸惑いや憤り、そして喜びが深く伝わってきます。
数奇な運命に巻き込まれてしまった彼は、その果てにいったい何を見つけるのでしょう。