後世に残したい本物の輝き ~尊く清らな物語~

  • ★★★ Excellent!!!

彼の「心」は迷子になりました。
昭和20年、戦渦の空。
零戦を駆る最中に起きた突然の不思議な出来事。
彼の「心」が不時着した先は……、
ーなんと、それから70余年後の平和な現代日本を生きる、ある男子高校生の「体の中」だったのでした。

「己の命を散らしても愛する者を護る」
その覚悟を宿した彼の目に映る、現代日本の軽薄なまでの有り様に失望しつつも、彼の「心」は帰り道を探し始めます。
元の己の体に…。
元のあの時代に…。

そして、居なくなってしまっている男子高校生の「心」の在り処も、ともに…。
その男子高校生の友人らの手を借りながら…。

過去と現代が交錯するこの物語。
その時代のギャップを見事に書き分け、際立たせた重厚な文体。
それは、厳しい戦時を生きた人の息遣いをすぐ間近に感じるほどに。
また、重厚でありながらも、綴られた文章は実に緩急自在で小気味良く、まるで音楽に乗るかのようにリズミカルな読み心地。

その極めて高い筆力で、冒頭から物語に引き込まれ、気付くと読者はその流れにただ身を任せるが如くに、その世界観に浸ります。

そして、そのまま感動のラストへと誘われ、雲間から射し込む光が照らし出すかのように明かされる、その不思議な出来事の持つ深い「意味」に、読者は静かに涙することとなるのです。

ーそして、
「人が人を真に想うこと」
「愛する者を護ること」とは?
と、自分に問いかけます。

選び抜かれた言葉のひとつひとつを、丁寧に紡ぎ織りなされた絹織物を思わせる美しい心情・情景描写。
そして読後は、海を渡る風が吹き込むような清涼感あふれる感動に包まれ、その風が吹き抜ける先の遥か彼方には、明るい未来への希望の光が見えてくるように感じます。

技のみならず、余白からも伝わる「心」。
それは、読むというより五感で感じるレベルで。
そんな読み応えを感じさせるこの作品。

どうぞ、この美しい絹織物の滑らかな手触りと清涼感。
そして、この読後の確かで本物の手応えを、
あなたも五感で感じてみませんか?

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