第3話 事件と推理
おっとりしてるママがビックリした顔のまま私たちに説明し始めた。
「ビックリしたのよー!」
「だから何さ」
千恵美が困った顔でママに切り返す。
「さっき、同じパートの奥さんから電話があったんだけど、ウチのお店に警察官が来ちゃったって。それでアルバイトの男子高校生を連れて行っちゃったって」
「えっ」
私はビックリした。古本屋さんは窃盗の被害に会いやすいとは思ってたけど店員さんの方が捕まるというのは珍しい。
「なに、何やったの、その高校生」
「あ、あのね、なんか有名な作家さんの家の近くを友達連れてうろついてたって。ストーカーの疑いも視野にってことになっちゃったのよ」
「えっどこの作家?」
私の質問に答えたのはママじゃなくて千恵美だった。
「カワムラ舞だろう」
「ええっ」
私とママが声を揃えてビックリした。
「どうして?ママだって詳しい事教えてもらってないのに。お店は大混乱よ」
「説明するよ。とりあえず玄関先で突っ立てないで、中に上がろう」
五分後、私たちは千恵美の推理を説明してもらうために居間にいた。
「結論から言うと、ママの勤務先にカワムラ舞の本を売りに来たのはカワムラ舞さん本人だろう」
「どうして?」
「たぶん、処理に困ってたんだ。贈呈本の」
「はあ」
ママが気の抜けた返事をした。私はなんだか夢を見てるみたいに実感がなく、千恵美に質問してしまった。
「贈呈本ってあの、本を出す人が一足先に出版社からもらえるヤツだっけ?」
「そう。絶対早くもらえるかは知らないけど、お世話になった人に配ったりするので数冊ぐらい貰うことになるらしい」
「でも、カワムラ先生は配る相手が少なかったのか」
贈呈本の事は私もちょっとは知ってる。まんが家さんの近況報告マンガにも時々描かれて(書かれて?)いることがあるからだ。
「それでさっきカワムラ舞さんは内気な人かって訊いたんだ」
「そう。まさか警察沙汰になってるとは思わなかったけどな。売りに来た人が単なる変わり者で、私の推理がハズレてる可能性もあったからな。まあ、出版社に対しても贈呈本はもっと少なくていいと言えば減らしてもらえたのかもしれない。でもカワムラさんは言い出せない性格だったんじゃないかと思う。友達がいないのが恥ずかしいって考えだったのかも」
「それでウチのお店に売りに来たのね……」
「ああ、捨てるのはもったいなかったんだろうな。古本屋に売ればそれはそれで読者を増やせるかもしれないし、他にどんな本が売れてるかチェックもできるからな」
「真面目、なのかな。カワムラさん……」
「だろうな。だが、贈呈本を処理してるのに気が付いたヤツが居たんだ。それがアルバイトの男子高校生さ。最近は古本を売る時に身分証明書をだして住所と名前を記録しなければいけないからな。大手のチェーン店では」
「まあ、お客さんから預かった個人情報を悪用してしまったのね。店員にあるまじき行為だわ」
「ママがお店が大混乱って言ってたけど、その関係もあって古本屋さん自体も警察は調べなきゃいけなくなったんだと思う」
その後、古本屋さんからは従業員一同に説明があった。私たちがママから聴いたところによると、悪事を働いた男子高校生は仲間の中高生を連れてカワムラ舞先生の住居のあるマンションまでいき、浮かれてラノベの観光名所のように扱ってたむろしていたらしい。カワムラ先生も近所の人も怖くなって警察に相談し、捜査の結果男子高校生のしっぽを掴んだとのことだった。
バスの中私たち姉妹が見たのは本当にカワムラ舞先生だったのか?ひょっとしてカワムラ先生に頼まれた別人だったかもと私はちょっと思ってたけど、ご本人だという事がSNSに載せられた写真で確認が取れた。一人旅が好きらしく、良く写真を乗っけているカワムラ先生。顔が見えずらい角度の写真を使っていてるけど、ボブヘアの若い女の人なのは間違いない。
私は彼女のSNSをフォローした。そして初めて直接目にした小説家、引っ込み思案らしいカワムラ先生の動向を見守っている。
古本売買ミステリー 肥後妙子 @higotaeko
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