第2話 新しい本を売る女の人

 私と千恵美は二人してバスに乗って大型商業施設をぶらついて、フードコートでソフトクリームを食べてから帰りのバスに乗った。シネコンもある所だけど、好みの映画が上映されてなくて、かわりに靴下を二人で好みのものをそれぞれ買った。千恵美は受験生だけど、気に食わないことに勉強は得意なので受験勉強なんて余裕なのだ。

 その帰りバスの中でのことだ。千恵美が私の肘をつついた。

「ん?」

 私はすぐに千恵美の顔を見たけど、千恵美は無言で斜め前の座席に座っている女の人を目線で示した。千恵美の目線を追ったけど私には何が何だか分からない。

「え?」

 私は表情とわずかな声で困惑を智恵実に伝えた。


 千恵美は声を出さずに口の動きだけで私に言葉を伝えた。口の動きを注意してみると、それはこう言っていた。

 「トートバッグ」

 「!」

 私は急いで斜め前に座る女の人の手にあるトートバッグを見た。トートバッグは中身が見えやすいので女の人のも中身が見える。買ったことが無くても見覚えのある表紙イラスト。カワムラ舞さんの文庫本だ。


 今度は私が千恵美の方を向き、口の動きだけで伝えた。

「あの、女の人?」

 私はこっそりとその人の事を観察した。女の子から女の人になりたてっぽい年頃でやっぱり綺麗だった。髪型はボブだ。その人は幸いなことにこちらの観察に気が付かずに降りるためのブザーを押した。降りる時、ふわりと涼しげな香水の匂いを漂わせた。バスが動き出すまでその人の動きを追うと、バス停近くの古本屋にはいっていった。ママのパート先と、店舗は違うけど同じチェーン店だ。


 私は千恵美の顔を見た。千恵美は私を見てうん、とうなずいた。そしてぽつんと呟いた。

「あの人、同じ小説家の本を売り歩いてるんじゃないかな」

「そんなこと……。ママの話の人とは別人かもよ?」

「うーん、その可能性もあるけど、今の人が持ってた本、表紙つやつやで新しかった。ママの話の人のような気がする」


やがて私たちが降りるバス停についた。歩きながら、私は千恵美に言った。

「さっきの人さ、ライトノベルを読んでそうな雰囲気の人じゃない気がする。まあ、どんな外見の人がライトノベル読んでもそれは自由だけど」

 千恵美は何かを考えながら話し始めた。

「亜由未、カワムラ舞先生ってどんな人だ?内気な人か?SNSをなんかやってないか?あんまり人付き合いがないかもな。私の推理が正しければ」

「えー?どうしたの千恵美、わけわかんないこと言って」

「お姉ちゃんって呼べって言っただろ」

 そんなこんなで家に着いたら、ママがビックリした顔で私たちを迎えた。

「どーしたの?」

 姉妹で同時に声を上げた。

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