古本売買ミステリー
肥後妙子
第1話 ママのパート先は古本屋さん
せっかく夏休みに入ったので私も千恵美も家でダラダラしてたら、お昼ご飯のそうめんを茹でながら、ママが私に話しかけてきた。冷房はばっちり効いてるけど、そうめんの鍋の熱気がかすかに漂ってくる。
「亜由未、カワムラ舞って知ってる?小説家の人なんだけど」
私は寝転んで家族共用(パパは殆ど使わないけど)タブレットで寝っ転がってプードルがトリミングされる動画をみてた。むくっと顔を上げて質問に答えた。
「あー知ってるよ。ラノベ作家ね。割と有名かな」
「うちのお店にその人の本を売りに来る人が居るのよ」
「ふーん。別にいいじゃん」
「それがちょっと不思議な人なのよ」
「へー」
私はそう言うとプードルに戻った。プードルはすっかりサッパリして飼い主さんの腕に戻されて、動画は終わった。ママの話を聞いてみるか。
「不思議ってどんな感じに不思議なの」
「ああ、ちょっと待ってね」
ママは茹で上がったそうめんをざるに開け流水でしめている所だった。水の音がちょっとジャマ。
「そのカワムラって人の本を何冊か売りに来る人ね。綺麗な女の子だったから覚えてたの。あれはまだ大学生かその辺の年齢ね。本の状態もほぼ新品に近い状態でね。ラノベって結構流行ってるじゃない。でもカワムラさんはあまり人気が無いのかな、すぐ売られちゃうのはあまり面白くないのかな、その割にはいろいろなタイトルを買ってるな、とか思ってね、ちょっとスマホで検索してみたの。そしたら結構人気作家さんだった。しかも、売られた何冊かのうち一冊は発売日から三日しかたってなかったのよ」
「へえ、まさか盗品とか」
「ママもそう思ったんだけどね。でも今の時代、盗品を売り飛ばすならネットを使うんじゃないかしら。それに盗品にしては数が少ないのよ。四冊くらいだったから。人気作家さんだと手に入りやすいから高い値段つかないし」
ママはギュッとそうめんをざるに押し付けて絞った。
「でもね、すぐ売っちゃうくらい好みがあわないなら次からその人の本買わないでしょう?でも数か月するとまた売りに来るのよ。綺麗な状態のその、カワムラ舞さんの本を」
「ふーん、変わった人だね。大学生かあ、ラノベを読むにはちょっとだけ高齢かな」
「ママ、そうめんはまだ?」
私の横で大の字で昼寝をしていた千恵美がいつの間にか目をパッチリ開けてこちらを見ていた。千恵美、私の一つ上の姉だ。私は中学二年生、千恵美は受験生。
「もうすぐできるって。そうめんだもん」
「もうできてるわ。大葉も茗荷も沢山あるわよ」
「よし、食う」
「千恵美はワイルドな言い方するね」
「亜由未、私の事はちゃんとお姉ちゃんって呼べ」
「あーそのうち」
私たち姉妹はのそのそと台所のテーブルに向かうと、つるりとそうめんを食べ始めた。めんつゆの濃さは丁度良かった。ママがプランターで育てているパセリをみじん切りにして入れた厚焼き玉子もある。
おもむろに千恵美が口を開いた。
「さっきのラノベ売りに来た人の話だけどさ、私はある可能性を考えたんだ」
「あ、聞いてたんだ。寝てたのかと思った」
「私の得意技さ。寝ながら聞いて考えるんだ」
「どんな考え?」
「うーん、言わない。きっと笑うよお前なら」
「そう?」
ラノベを売りに来る人の話題はそれで終わった。でも翌日、姉妹で遊びに行った先でママの話に出てきたらしい女の人を目撃するのだ。何故、ママの話に出てきた人だと思ったか?だって持ってたんだもの。カワムラ舞先生の本を。
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