第8話 婚約者様とお勉強


 ※本編三章117話以降くらいのお話です。


**************



 諸事情により学園に通うことができなくなったティアラは今、現在フォルティス侯爵家のタウンハウスに住み、カイル様に勉強を見てもらうようになっていた。



「じゃあ一週間後にテストね」

「えっ、テスト!」

「たまにはやらないと。合格ラインは90点かな」

「うう…、80点がいいです」



 今教えてもらっていた算術はあまり得意じゃない。いい点数が取れる自信がなかった。



「おや、弱気だね。難しかったかい?」

「いえ、カイル様の教え方はとてもわかりやすいです。でも慌てるとどうしてもミスしてしまって」

「そうか…。じゃあ88点」

「も、もう一声っ!」

「86点」

「もうちょっとっ!」

「ダーメ」



 ううっ、あまり下がらなかった…。



「あ、そうだ。合格ラインも下げたことだし、もし点数満たなかったら罰ゲームをしてもらおうかな」

「ええっ!じゃあ、じゃあ、90点でいいですっ」

「ふふ、今更変えるなんてできないな」



 カイル様は楽しそうに罰ゲームを考え始める。罰ゲームって…。ただでさえプレッシャーなのにどうしよう。



「やっぱり、85点で!」

「86点」

「うぅ……」



 その後も何度か交渉してみたがやっぱり条件は譲ってもらえなかった。そして一週間後。



「はっ、はちじゅうごてん……」

「惜しかったね」



 何度確認してみても点数間違いはない。



「ば、罰ゲームですか…?」

「そうなるねぇ」

「それって怖いことですか?それとも痛い系?苦手なピーマンを沢山食べるとか、宿題を増やすとか…」

「ふふふっ…、残念ながら違うよ」

「じゃあ、どれですか…?」


「ダンスだ」


「…ダンス?」

「そう。ずっとここから出れない状態だったし、たまには運動も必要かと思ってね」

「ダンスならなんとかできますけど…。あ…!でも、私達の身長ではステップを合わせずらいし…」



 身長は少し伸びたけれど、途中で踊るのが難しくなってしまう背丈には変わりない。



「大丈夫、大丈夫。正式な場じゃないし、途中でリフトするから」

「え、それ大丈夫じゃないやつでは…」


(はっ…、それが罰ゲーム……?)



「さあ、行こうか」


 手を握りダンス用の広い部屋へと促される。


「や、その、いいです。カイル様絶対ピョーンって投げそうですし」

「リフトだよ」

「おお同じです。空中でくるくるするんでしょう?」

「それもリフトだよ」

「そ、そうですけど…、そうじゃなくてぇ」


足を踏ん張り、いやいやっと抵抗するも、和かな笑顔で軽々と抱えられ強制的に移動させられてしまう。


「きゃー、いいです!私ちゃんともっとお勉強頑張りますから〜!」

「遠慮しないでいいから」


その後予想は的中し、私は何度も空中を舞うこととなった。





「はぁ、はぁ…、カイルさま。あとこれ何回やるんですか?」

「そうだな、85点だったから15曲はやりたいところだけど」

「えっ!じゃああと9曲!??」



 今やっと6曲踊ったところだった。だがもう既に息が上がり、足は生まれたての子鹿のように足がプルプルしている。対するカイル様は全く息を乱す様子がない。あんなに私のことを持ち上げてクルクル回っていたというのに………。



「最近剣術も疎かになっていたし、これは僕にとってもいい運動かも」

「わ、私にはきついぃっあ、わっ、きゃー!!」



 と、またもや持ち上げられポーンと空を舞う。



「キャッ!!」



 ポフッとお姫様抱っこでキャッチされる。



「い!いい今のは怖かったです。結構高かったですっ!!」

「あはは、ごめん。ティアラがすごく軽かったからつい……」

「もうっ、投げるの禁止ぃ………」



 目を回し必死にカイル様にしがみつくと苦笑しながら謝りそのままゆっくりとソファーに座らせてくれた。



「私、次は頑張ります…」

「え?」

「次は90点取って…ご褒美もらいます」



 少し剥れた顔を向け、「今度は負けません」と宣言する。



「ふふ、いいよ。ちなみにどんなご褒美にするの?」

「それは…、カイル様も小さな頃の姿絵です!」

「僕の?」

「はい。3、4歳くらいの時の!」



 その年齢といえば、男女共通してワンピース姿が一般的となる。カイル様だったらきっとレースたっぷりのワンピース姿で女の子のように可愛いに違いない。



「……本当にそれがいいの?」

「絶対それがいいです」

「だいぶ昔のだし、少し恥ずかしいな…」


(恥ずかしいなら尚更だわっ!)


「じゃあ次のテストはもう少し厳しくしないとかな。合格点は100点だ」

「えっ!?そんなあっ!?」

「ふふふ、ハードル上げた方がよりやる気が増すだろう?」



 ひゃ、ひゃくてん………。


 ガクッと落ち込む。けれどそこへ光が差し込むように主治医のメイナ先生は言っていた言葉が降ってくる。



『それはそれは天使のような可愛らしさでしたわ。今のカイル様からでは全く想像できないくらい素直でふんわりとした微笑みで従者達をメロメロに悩殺してましたわ』



 (過去を知るメイナ先生が羨ましい。私も見たい)



「あ、諦めません!私、頑張ります!!」



あ、まずい、変なやる気スイッチ入ったかもと察するカイル様だったが既に遅し。その後、ご褒美の為にやる気を出した私の成長は凄まじかった。



◆◆◆



「きゃー!すごく可愛いです。このまま部屋に飾ってもいいですか!!」

「いやいや…」

「天使みたい。羽が生えててもおかしくないですね」

「………本当に恥ずかしいからもう終わりにしよう?」

「ダメです!じっくり見ないと。他の姿絵は?もっといっぱい見たいです!」

「いやいやいや……」



 まだあどけない表情とフリルのたくさんついた白いワンピース、小さなお手手がとても愛らしい。こんなに可愛いカイル様は貴重である。


 私はその可愛さに興奮し、思わずぎゅっと抱きしめる。その様子をカイル様は困ったような顔で私を見つめていた。






 







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