第9話 婚約者?それとも真実の愛?
※本編三章くらいのお話です。
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お昼の休憩時間、ティアラとカイルは学園の中庭でほのぼのとした穏やかな一時を過ごしていた。
「カイル様もどうぞ」
「ありがとう。これは、ヌガーかな?」
「はい、小さくて食べやすいでしょう?今、父の事業にクランも携わっているんですが、その関係でちょっと試作品を作ったんだそうです」
それは天然蜂蜜の中で特に高級品として取引されているレヴァン産のラベンダー品種を使用したものだった。香り豊かな蜂蜜の味と、ナッツの香ばしさが口の中に広がってとても美味しい一品だ。
「私も帝都のものを送ってあげようと思ってて。でも、なかなか決まらなくて」
「じゃあ今度の休日、一緒に街へ行こうか?ちょうど帝都の植物園に誘おうと思っていたんだ」
「本当ですか?!わぁ嬉しいです!是非一緒に…」
『いけませんわ!!』
「え…?」
振り向くと、木々の間でなにやら男女の生徒が会話しているのが見えた。
『レナード様には婚約者がいらっしゃるのに、こんなこといけませんわ』
『何を言っているんだ。セーラ、俺が一番好きなのは君だ。俺の目を見てくれ。瞳に映るのはいつだって君だけだ』
『レナード様…』
コレは一体…。
「逢瀬…?それとも劇の練習とか?」
「………こんなところで?」
ティアラ達に気づいてないのか、二人は自分達の世界にどっぷり浸かっているようだった。
「あれは二年生ですかね?」
「え?」
「リボンの色です。私は一年で青色ですが、あっちは赤色でした。二年生だったらソフィアと一緒です。ソフィアに聞いたら何か知ってるかな…って……あれ?いなくなっちゃいました。さっきまでいたのに…」
キョロキョロするティアラと何・か・を察したカイル。
「座ったのかしら。草が生い茂っててよく見えません」
「………無理に探さなくていいと思うよ。いや見ない方がいい。ティアラが穢れる」
「え?」
「ほら、もう行こう」
「でも…あっ、あそこ!!」
「見たら駄目だ。早く行こう!」
「きゃああ!もしかしてすごい展開!?」
「ティアラにはまだ刺激が強すぎるっ!あんなの見なくても全部教えてあげるから。ほら立って」
「え、え?カイル様、なんの話ですか?私が言ってたのはあっちの奥。木の影にもう一人女の人がいたんです」
「……え?」
「やっぱり座ってたんですね。ちょっとだけ頭が見えます!でもすごく緊迫した雰囲気です。どうしましょうカイル様」
「いや、どうもこうも……」
『どういうことですか?レナード様っ!!!!』
『ま、待ってくれ、誤解だシャルロット!』
『早く結婚したいって言ったのはレナード様の方でしたのに!ついこの間、式の日程を早めたばかりだというにどういうことですのっ!』
『いや!これはその…』
『まぁ、そんなのおかしいですわ。一番好きなのは私だってさっき言ってましたもの!レナード様、婚約破棄してくれるんじゃなかったんですか?』
『あ、えーと、いやぁ〜…』
『レナード様は私が一番ですものね?』
『なっ、何を言ってますの?!違いますわ!こんなの一時の気まぐれよ!ですよね、レナード様!!』
「わわわ……婚約者か、それとも禁断の愛か。…どっちを選ぶんでしょう?」
「どっちでもいいんじゃない?」
「もう、カイル様っ!!」
プクーっと怒るティアラと、ティアラ以外心底関心がないカイル。
『…俺が好きなのは……シャルロット』
『『!!』』
『…………とセーラだ!!』
『『えええ……????』』
「えーーーーーっ!?」
「……ティアラ、反応しすぎ」
「だってだって、どっちもだなんてあり得ないです!」
「一夫多妻の国もあるけど、帝国内ではまず無理だろうね」
「私は嫌ですっ!」
「まぁ、落ち着いて」
プンプン怒るティアラとそれをよしよし宥めるカイル。
『……シャルロット。君は聡明で美しくて俺には勿体ないくらい出来た女性だ。幼い頃決めた家同士の婚約だったが君との未来を本当に待ち遠しく思っていたのは事実だ』
『レナード様…。ならどうして…!』
『仕方なかったんだ。どうしようもないくらいセーラのことも好きになってしまったんだから!!』
『……そんな。一目惚れだとでもいうつもりですの?』
『あぁ…そうなのかもしれない。いや、どうだろう…。セーラはいつも俺を支えてくれたんだ。優しくて、家の揉め事で精神的にも気落ちした時も、彼女はそっと寄り添ってくれたんだ』
『レナード様…』
『豊満な胸でいつも俺のことを包み込んでくれた。ふわふわの癒しは俺に至高の幸福を与えてくれたんだ。もう手放すなんてできないっ』
『……ん?』
『だが初恋のシャルロットへの想いだって捨てられるもんじゃない。君と過ごした日々も、美しく成長した君に触れるのも俺だけの権利だ!!』
『……んんんー?』
『わかるだろう!?二人の美女が言い寄ってきてるってのに、手放せるはずないだろう!?』
「……………ふわふわ…」
「聞き流していい。あいつがおかしいこと言ってるだけだから」
「……」
「うちには関係ない話だ。それより、お昼休みももう終わるし、そろそろ行こう」
「…え?あっ、はい!」
手を引かれ、慌ててティアラも席を立つ。後ろではまだ口論が続いていたが、きっと終わることもないだろう。
「……あの人達、どうなるんでしょう」
「破局かな。そんなに器用な男には見えなかったし」
「………わぁ…」
「そんなことより、ティアラ。今度、観劇でも観に行ってみる?」
「急にどうしたんですか?」
「なんとなく好きそうな気がしたら」
「……え?…え??どうしてわかったんですか?」
キョトンとした表情で見上げると、カイルは微笑みながら「だと思ったよ」とさり気なく答える。その穏やかな笑顔に、ティアラは何となくムズムズしながらも、どこか安心感を感じるのだった。
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