第7話 正体
その後、侵入者並びに変質者の正体が分かった。百合が聞いたことがあると思っていたのは、錯覚ではなかったようだ。
男の名は、紅林満久。久しぶりに家族で遠出しようとした日、車内で聞いたラジオから発せられていた声の主だった。
「そんな人が何で……」
数日後、警察署にて百合は両親と共に話を聞いた。
「塾の帰宅時間に、よくあの辺りを通るんだそうです。その時に見かけて、次第に花を貴女の自転車の籠に入れるようになったと、供述しています」
「じゃ、やっぱり塾が原因だったのね」
「ウチを知ったきっかけは、百合の後をつけたのでしょうか」
父親が尋ねた。
「はい。それで突然塾に来なくなったのを、まぁ本人が言うには、心配してやってきたんだそうです」
だから、乱暴に襲うとしなかったのだ、と警官は言った。
乱暴目的だったら、今頃どうなっていたか。
「その証拠ではないですが、犯人は花を持って侵入していました」
「花?」
「お見舞いのつもりだったらしいです」
そういって、一枚の写真を見せられた。犯人の所持品扱いされた、一輪の百合の花。
驚く百合の姿に、警官はもう一つの真実も口にした。
「この花は、塾の周辺で発生していた花泥棒の証拠でもあるんですよ」
「え?」
「その件も白状しましてね。これまで貴女に送っていた花は、近所の植木鉢から盗んだ物でした」
じゃ、あの時ラジオで、自分が犯人なのに素知らぬ顔で応えていたってこと?
何もかもが正気の沙汰じゃない。
ただ見かけただけの人間のために、そこまで犯罪に手を染める紅林満久という男に、百合はさらにゾッとしながら、警察署を後にした。
配達花人 有木珠乃 @Neighboring
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